罪 (パターン1)
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はぁ…
私はカイザーで大きなため息をつく。
「ははは、でっかいため息」
半分面白そうに笑いながら言うタケルさんに対し、更にもう一度大きなため息をつく。
「タケルさんわかってんでしょ?」
「んー?何が?」
タケルさんは目を合わさず、他の客のお酒を作っている。
「あーあ、頭ん中ぐちゃぐちゃー!」
カウンターに肘をつき、ふてくされていると……
「こんばんはー」
1人の女性が店に入ってきた。
何気なくその子に目をやった瞬間、私は身動きが取れなくなった。
「いらっしゃい。1人?」
タケルさんがチラっと自分の方へと視線を向け、それに気付いた私はタケルさんに対し軽く頷く。
知ってるよ。
「そーなんです、今日リョータは職場の飲み会なんですよぉ!」
この子はリョータくんの彼女だっていうこと。
リョータくんの家に泊まったあの日、リビングに飾ってあった写真立ての中で可愛らしい笑顔で笑っていたあの子。
リョータくんに寄り添って幸せそうに写っていたあの子だった。
「だから寂しくて1人で来ちゃいましたー!」
ニコニコ笑う可愛い子だな…。
今の自分の感情の名前はわからない。
焦り?嫉妬?罪悪感?
どれも当てはまるようで、当てはまらない気もした。
ただ、この場にいちゃいけないという勘が働く。
「あ!リョータ飲み会終わったから、今から来るって!!やった!!」
携帯を見ながら嬉しそうに言う彼女。
ね、勘が当たったでしょ?
「タケルさん、私そろそろ…」
「あっ、うん…」
状況を把握しているであろうタケルさんはそれ以上は言わず、勘定の紙を私へ渡す。
そして「また来なよ」と言った。
私は必死で笑顔を作ったが、きっと上手く笑えてはいなかっただろう。
店から自分の家までは歩くには少しだけ遠い距離だが、なんだか歩きたい衝動にかられ歩いて帰ることにした。
……それもまた神様のいたずらにしかすぎなかったのだ。
「まなみ…ちゃん?」
前から歩いてくる人物は今1番会っちゃいけない人。
リョータくんだ。
「もしかして…カイザー行ってたの?」
「待ってるよ?彼女」
その場を足早に去ろうとする私の腕を掴むリョータくん。
「待って」
「なに?」
私は振り向かずに言う。
「このままどっか行かない?2人で」
「……ルール破るの?」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「リョータくんはいつからカイザー行ってるの?」
「んーと、ここ2ヶ月ぐらいかなぁ」
「そうなんだ」
「最近こっちに引っ越してきてさ、試しに行ったらマスターのタケルは同い年だし、酒は美味いし、めっちゃ行くようになったよ!」
「タケルさんこの歳でマスターってすごいよね。そっか、私最近行ってなかったもんなぁ…あの日は超偶然。」
「ならやっぱり運命じゃない?!」
私にぎゅっと抱きつき、大きなベッドの上でゴロゴロと転がるリョータくんに私は「大袈裟だなぁ」とクスクスと笑う。
リョータくんの家に泊まったあの日から数日後…
先に連絡をしたのは私だった。
『会えませんか?』
ただただリョータくんに会いたかった。
火遊び程度の遊びの気持ちだったのかもしれないし、刺激が欲しかっただけなのかもしれない。
今となってはその時の感情なんてわからない。
こうして私達は再びホテルで関係を持った。
「ルールを決めよう」
私はこの関係を続けるために考えていたことがあった。
それを提案する。
「ルール?」
「そう」
「どんな?」
ベッドに寝っ転がっていた身体を起こし、布団で身体を隠しながら私は話を続けた。
「お互い相手がいるじゃん?」
「え?!」
リョータくんは目を大きくし、驚いている。
自分に彼女がいるなんて、私が知っているはずもないと思っていたんだろうな。
けれど、ハッと何かを思い出したような顔のリョータくん。
「まなみちゃんもしかして、この間うちで写真…」
「うん、見たよ」
「そっ…か」
リョータくんの家で2人が写っている写真を見たことで、リョータくんに彼女がいることを知った私。
その事にリョータくんも納得したようだった。
「だからさ、連絡するのはなるべく日中、仕事中。で、お互いの家には絶対行かない」
「う、うん…」
「あとさ……」
私は次の言葉を続けるのに躊躇う。
けれど、意を決しリョータくんの目を見つめた。
「お互いの彼氏彼女を第一に優先する」
ーーーーーーーーーーーーーー
これが2人のルールだった。
この3ヶ月間破られたことは無い。
そうやってこの関係を続けてきているのだ。
リョータくんは掴んでいる私の腕を離し、カイザーへと歩き出した。
「そんなに三井さんが好き?」
こう一言だけ言って。