耽溺
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私達には合図がある。
水戸くんが私の席の机を「トン」と指で軽く叩く。
これが『今日俺んち来れる?』の合図。
行ける時は軽く頷き、行けない時は軽く首を横に振る。
周りに気づかれないぐらいの動作で。
「…っ、まなみちゃん」
「んっ…水戸……くんっ……」
私達は相変わらず学校ではほぼ話をしない。
なのに、2人の時はこんなにもお互いを求め合う。
いつの頃からか水戸くんは私を名前で呼ぶようになった。
けれど、私は『水戸くん』のまま。
私の中での線引きだった。
これ以上溺れない為にも。水戸くんに。
でもそんな線引き全く意味の無いものだとすぐに気付いた。
私の心はとっくのとうに水戸くんに全てを持っていかれているのだから。
いつも行為の最中、心の中では『洋平』と呼んでいる。
そんな事絶対バレてはいけない。
しょせん私達は身体の関係。
怖いんだ。
この関係が終わるのが。
だから私の気持ちは絶対に隠さなければいけない。
「送ってくよ」
水戸くんはいつも駅まで送ってくれる。
そんな優しくしなくていいのに……。
「だいぶ寒くなってきたなぁ」
「もう12月になるもんね」
そんな会話をしながら2人で並んで駅までの道を歩いていると
「あれっ、洋平くん?!」
前からやってくる湘北の制服を着た女の子に声をかけられる。
見たことがある女の子だった。
「ハルコちゃん」
あぁ、そうだ。
赤木ハルコちゃんだ。
バスケ部のマネージャーで私達と同じ1年生。
クラスは違うから話をしたことはないけど、可愛い子だなぁっていう印象は元々持っていた。
「洋平くん最近バスケ部見に来ないのね」
「ん?あぁ、そうだな……」
「あっ…」
その時ハルコちゃんは水戸くんの隣にいる私の存在に気付く。
「えっと、7組の佐藤さん?」
「え?!う、うん」
私の名前を知っていたことに驚いた。
「あ、もしかしてそーゆー事?!そっか、それなら仕方ないわよねっ。お幸せにね」
ハルコちゃんは可愛らしくニッコリ笑って手を振って帰って行った。
「……いいの?なんか誤解してんじゃない?アレ」
「あー、かもな」
「明日言っといた方がいいよ、誤解だって」
「じゃないと、まなみちゃんに彼氏できねぇもんな」
彼氏……。
私に彼氏ができても水戸くん的にはなんの問題もないって事ね。
むしろ作れって事なのかな。
いつもなら駅に着いて電車が来るまで、お喋りをする私達だが、今日は無言だった。
もう電車が来る時間になり、私は改札へと歩きだそうとする。
その時ーーー
「この関係もそろそろやめた方がいいのかもな」
決定的な水戸くんの言葉。
少しだけ眉を下げ、困ったように笑う顔。
私は「そうだね」と小さく呟くのが精一杯だった。
「まなみちゃん……」
やだ。
最後の言葉とか聞きたくない。
水戸くんの事だもん、絶対優しく最後のお別れをするつもりだ。
優しくされたら辛くなるだけだもん。
「もう行くね」
「あ、まなみちゃん!!」
私は水戸くんの言葉を聞かずに改札を抜け、ホームへと走り出した。
よかった。
もう電車が来る時間で。
人々が行き交うホームで、私は下を向きポタポタと地面へ落ちる自分の涙を見ていた。
「おはよー」
いつもと変わらない朝。
なんら変わらない朝の教室の風景。
私一人が失恋したところで特別な事は何も無いのだ。
『トン』
私の机を叩く指。
私はまさかと思いながらも、慌てて顔を上げる。
顔を上げたその先には真剣な顔の水戸くん。
なんで。
もう終わったじゃん……。
私はパッと水戸くんから顔を逸らし、視線を自分の机へとうつす。
「まなみちゃん」
初めて教室で呼ばれた私の名前。
少しだけ周りがざわついたのは気の所為だろうか。
私はうつむいたまま何も言えない。
すると水戸くんは私の腕をつかみ、軽くひっぱり席から立たせた。
「来て」
そう言って私の腕をつかんだまま、水戸くんは歩き出す。
今度こそ周りがざわついたのは気の所為ではない。
「ちょっと、水戸くん……」
連れてこられた先は屋上。
初めてキスをした屋上。
水戸くんは私の腕を離し、ジッと私の目を見る。
まるで『逸らすな』と言わんばかりの水戸くんの視線。
「ま、まずいんじゃない?こんな事したら」
「なんで?」
「いや…なんでじゃなく…」
気がついたら私は水戸くんの腕の中にいた。
「俺、ホントビビりだわ」
水戸くんからまさかの一言に、私は水戸くんの腕の中で顔を上へとあげると、そこには照れくさそうな顔をしている水戸くん。
ビビり?!
あの水戸くんが?!
「あんまり見ないでくれますか?」
そう言って水戸くんは自分の手で私の両目を覆った。
「ちょっと、なに?!どういうこ……」
その時何かが私の唇に触れる。
そんなの目を隠されていたってわかる。
何度も触れたことがあるもの。
水戸くんの唇だ。
そっと水戸くんの手が離れ、太陽の光に目を細めると、目の前には優しく微笑む水戸くんの顔。
「好きだぜ、まなみちゃん」
ずるい。
この人はどこまで私の心を持っていけば気が済むんだろう。
「早くこの関係終わらせて、恋人になってくんねぇ?」
……そういう事ですか。
私はぎゅっと水戸くんの背中に手を回す。
「好き」
そう言って私は全身で水戸くんの体温を感じる。
それを全身で返してくれるかのように、水戸くんは私を優しく、強く抱きしめる。
そしてそっとキスをしてくれた。
「ねぇ」
私は水戸くんに抱きついたまま話す。
「ん?」
水戸くんは少しだけ身体を離し、私の顔を覗く。
「もっとして?」
「……それ以上のことしちゃうよ?」
ニヤリとする水戸くんに私はクスッと笑い、頷く。
「俺んち来ますか?」
そんな水戸くんの言葉に私は黙って頷くーーなんて事はせず、キスで返事をする。
「……ん」
ふと目を開けると、何度も見た事のある部屋の風景。
大好きな人のベッドの上。
「ずいぶん寝たな」
そう言いながら優しく私の髪の毛を撫でるのは、彼氏となった水戸くん。
「だって昨日寝れなかったんだもん、誰かさんのせいで」
私の言葉に「ははは」と笑いながら水戸くんは私の瞼にそっとキスをする。
「私に彼氏作れって言ってんのかと思った」
「いやー、ホントに何言ってんだろうな、俺は。ビビってたんだよ、まなみちゃんが俺から離れてくの」
「超矛盾してるじゃん。私はずっと好きだったのに、水戸くんのこと」
「よーへー」
「え?!」
寝ながら私の頬に軽く手を添える水戸くん。
「さっきやっと呼んでくれたろ、『洋平』って」
そう言われ私は一気に赤面する。
先程水戸くんに抱かれている最中に思わず呼んでしまったのだ……。
確かに言っちゃったけど!!!
盛り上がってつい言っちゃったけど!!!
ーーーけど
これからはいくらでも呼んでいいんだよね。
「大好き、洋平」
ニコッと笑いながら私は言う。
と、次の瞬間、横にあったはずの水戸くんの顔はいつの間にか天井を背負い私を組み敷きっている。
「可愛いお誘いどーも」
「え?!違っ……んっ…」
弁解は聞いてもらえないまま私は深い口付けに、ううん…洋平にそのまま溺れていく。
それがとても心地よくて、ずっとずっと溺れていたい。
どこまでも、ずっと。
洋平は一緒に溺れてくれますか?
水戸くんが私の席の机を「トン」と指で軽く叩く。
これが『今日俺んち来れる?』の合図。
行ける時は軽く頷き、行けない時は軽く首を横に振る。
周りに気づかれないぐらいの動作で。
「…っ、まなみちゃん」
「んっ…水戸……くんっ……」
私達は相変わらず学校ではほぼ話をしない。
なのに、2人の時はこんなにもお互いを求め合う。
いつの頃からか水戸くんは私を名前で呼ぶようになった。
けれど、私は『水戸くん』のまま。
私の中での線引きだった。
これ以上溺れない為にも。水戸くんに。
でもそんな線引き全く意味の無いものだとすぐに気付いた。
私の心はとっくのとうに水戸くんに全てを持っていかれているのだから。
いつも行為の最中、心の中では『洋平』と呼んでいる。
そんな事絶対バレてはいけない。
しょせん私達は身体の関係。
怖いんだ。
この関係が終わるのが。
だから私の気持ちは絶対に隠さなければいけない。
「送ってくよ」
水戸くんはいつも駅まで送ってくれる。
そんな優しくしなくていいのに……。
「だいぶ寒くなってきたなぁ」
「もう12月になるもんね」
そんな会話をしながら2人で並んで駅までの道を歩いていると
「あれっ、洋平くん?!」
前からやってくる湘北の制服を着た女の子に声をかけられる。
見たことがある女の子だった。
「ハルコちゃん」
あぁ、そうだ。
赤木ハルコちゃんだ。
バスケ部のマネージャーで私達と同じ1年生。
クラスは違うから話をしたことはないけど、可愛い子だなぁっていう印象は元々持っていた。
「洋平くん最近バスケ部見に来ないのね」
「ん?あぁ、そうだな……」
「あっ…」
その時ハルコちゃんは水戸くんの隣にいる私の存在に気付く。
「えっと、7組の佐藤さん?」
「え?!う、うん」
私の名前を知っていたことに驚いた。
「あ、もしかしてそーゆー事?!そっか、それなら仕方ないわよねっ。お幸せにね」
ハルコちゃんは可愛らしくニッコリ笑って手を振って帰って行った。
「……いいの?なんか誤解してんじゃない?アレ」
「あー、かもな」
「明日言っといた方がいいよ、誤解だって」
「じゃないと、まなみちゃんに彼氏できねぇもんな」
彼氏……。
私に彼氏ができても水戸くん的にはなんの問題もないって事ね。
むしろ作れって事なのかな。
いつもなら駅に着いて電車が来るまで、お喋りをする私達だが、今日は無言だった。
もう電車が来る時間になり、私は改札へと歩きだそうとする。
その時ーーー
「この関係もそろそろやめた方がいいのかもな」
決定的な水戸くんの言葉。
少しだけ眉を下げ、困ったように笑う顔。
私は「そうだね」と小さく呟くのが精一杯だった。
「まなみちゃん……」
やだ。
最後の言葉とか聞きたくない。
水戸くんの事だもん、絶対優しく最後のお別れをするつもりだ。
優しくされたら辛くなるだけだもん。
「もう行くね」
「あ、まなみちゃん!!」
私は水戸くんの言葉を聞かずに改札を抜け、ホームへと走り出した。
よかった。
もう電車が来る時間で。
人々が行き交うホームで、私は下を向きポタポタと地面へ落ちる自分の涙を見ていた。
「おはよー」
いつもと変わらない朝。
なんら変わらない朝の教室の風景。
私一人が失恋したところで特別な事は何も無いのだ。
『トン』
私の机を叩く指。
私はまさかと思いながらも、慌てて顔を上げる。
顔を上げたその先には真剣な顔の水戸くん。
なんで。
もう終わったじゃん……。
私はパッと水戸くんから顔を逸らし、視線を自分の机へとうつす。
「まなみちゃん」
初めて教室で呼ばれた私の名前。
少しだけ周りがざわついたのは気の所為だろうか。
私はうつむいたまま何も言えない。
すると水戸くんは私の腕をつかみ、軽くひっぱり席から立たせた。
「来て」
そう言って私の腕をつかんだまま、水戸くんは歩き出す。
今度こそ周りがざわついたのは気の所為ではない。
「ちょっと、水戸くん……」
連れてこられた先は屋上。
初めてキスをした屋上。
水戸くんは私の腕を離し、ジッと私の目を見る。
まるで『逸らすな』と言わんばかりの水戸くんの視線。
「ま、まずいんじゃない?こんな事したら」
「なんで?」
「いや…なんでじゃなく…」
気がついたら私は水戸くんの腕の中にいた。
「俺、ホントビビりだわ」
水戸くんからまさかの一言に、私は水戸くんの腕の中で顔を上へとあげると、そこには照れくさそうな顔をしている水戸くん。
ビビり?!
あの水戸くんが?!
「あんまり見ないでくれますか?」
そう言って水戸くんは自分の手で私の両目を覆った。
「ちょっと、なに?!どういうこ……」
その時何かが私の唇に触れる。
そんなの目を隠されていたってわかる。
何度も触れたことがあるもの。
水戸くんの唇だ。
そっと水戸くんの手が離れ、太陽の光に目を細めると、目の前には優しく微笑む水戸くんの顔。
「好きだぜ、まなみちゃん」
ずるい。
この人はどこまで私の心を持っていけば気が済むんだろう。
「早くこの関係終わらせて、恋人になってくんねぇ?」
……そういう事ですか。
私はぎゅっと水戸くんの背中に手を回す。
「好き」
そう言って私は全身で水戸くんの体温を感じる。
それを全身で返してくれるかのように、水戸くんは私を優しく、強く抱きしめる。
そしてそっとキスをしてくれた。
「ねぇ」
私は水戸くんに抱きついたまま話す。
「ん?」
水戸くんは少しだけ身体を離し、私の顔を覗く。
「もっとして?」
「……それ以上のことしちゃうよ?」
ニヤリとする水戸くんに私はクスッと笑い、頷く。
「俺んち来ますか?」
そんな水戸くんの言葉に私は黙って頷くーーなんて事はせず、キスで返事をする。
「……ん」
ふと目を開けると、何度も見た事のある部屋の風景。
大好きな人のベッドの上。
「ずいぶん寝たな」
そう言いながら優しく私の髪の毛を撫でるのは、彼氏となった水戸くん。
「だって昨日寝れなかったんだもん、誰かさんのせいで」
私の言葉に「ははは」と笑いながら水戸くんは私の瞼にそっとキスをする。
「私に彼氏作れって言ってんのかと思った」
「いやー、ホントに何言ってんだろうな、俺は。ビビってたんだよ、まなみちゃんが俺から離れてくの」
「超矛盾してるじゃん。私はずっと好きだったのに、水戸くんのこと」
「よーへー」
「え?!」
寝ながら私の頬に軽く手を添える水戸くん。
「さっきやっと呼んでくれたろ、『洋平』って」
そう言われ私は一気に赤面する。
先程水戸くんに抱かれている最中に思わず呼んでしまったのだ……。
確かに言っちゃったけど!!!
盛り上がってつい言っちゃったけど!!!
ーーーけど
これからはいくらでも呼んでいいんだよね。
「大好き、洋平」
ニコッと笑いながら私は言う。
と、次の瞬間、横にあったはずの水戸くんの顔はいつの間にか天井を背負い私を組み敷きっている。
「可愛いお誘いどーも」
「え?!違っ……んっ…」
弁解は聞いてもらえないまま私は深い口付けに、ううん…洋平にそのまま溺れていく。
それがとても心地よくて、ずっとずっと溺れていたい。
どこまでも、ずっと。
洋平は一緒に溺れてくれますか?
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