言霊
空欄の場合は「まなみ」になります。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
三井さんと関係を続けて5ヶ月。
いつの間にか新しい年になり、三学期も始まった。
三井さんは部活を引退している。
部活帰りに私は近所のコンビニに寄った。
それは三井さんと会うために。
コンビニの外から雑誌を読んでいる三井さんを発見し、軽く手を振る。
そんな私に気付いた三井さんはコンビニから出て「おつかれ」そう言って私の頭に手を乗せた。
自然に自分の顔がほころぶのがわかる。
それから私達は近くの公園のベンチに座り、他愛もない話をする。
そんな事が幸せだった。
何気ない日常の隣に三井さんがいる。
それだけで幸せだった。
けれど、そんな幸せは偽物で終わりはやってくる。
「あれ、寿?」
その声に私は心臓が止まりそうだった。
それは三井さんも同じだろう。
少し向こうから歩いてくるのは紛れもない、三井さんの彼女さんだ。
「珍しいね、こんなとこにいるの。あれ…この子確か……」
チラッと私の方を見ながら不思議そうな顔をする彼女さん。
「バスケ部マネージャーの佐藤です。さっき偶然三井さんに会って、久々だったんでバスケ部の話を聞いてもらってたんです。」
こんなにスラスラ言葉が出てくる自分に戸惑いはしなかった。
いつかこうなるかも、と心の底で考えていたから。
「あ、そうなんだ。なんやかんや引退して寂しいみたいよ、この人」
そう言っていたずらっぽく笑い、三井さんの背中を軽く叩く彼女さんに私は心が傷んだ。
「じゃ、私は行きますね」
1分でも1秒でもその場を早く去りたいと思い、足早に私は公園から離れた。
三井さんの顔を見ることは出来ずに。
わかってたんだ。
いつか誰かが言ってた。
「三井さんと彼女って幼なじみで、三井さんグレてる時もずっと支えてたんだってー」
そんな言葉聞かなくたって、わかってた。
三井さんがどれだけ彼女の事が好きなのか。
顔を見たらわかるよ。
三井さんの彼女を見る顔を。
私が1番になることは絶対にないんだ。
それでも一瞬でも、一緒にいるほんの一瞬でも私の事だけを好きでいてくれる、そんな望みも持っていた。
「やっぱり来た」
次の日、私は朝から学校の教室ではなく寒空の下の屋上にいた。
ここにいたら三井さんが来てくれるー、そう思って。
案の定朝のホームルームが終わったあと三井さんはやって来た。
何度か一緒に授業をサボって過ごしたこの場所。
何度もここでキスをした。
「あの、よ」
「さすがに潮時ってやつですね」
私はヘラッと笑いながら話した。
「……」
それに対し、三井さんは苦しそうな表情をして黙る。
「や、初めからわかってたんで大丈夫です!……三井さんの1番になることはないって…」
泣いちゃダメだ。
泣いたら何もかも後悔することになる。
「…っ、まなみ、俺はお前の事好……」
私は三井さんの言葉をキスで遮った。
「三井さん、言霊ってわかります?」
「な、なんだよいきなり」
「言葉にしたらそれがホントになっちゃうんです」
だから……それ以上は言わないで。
「彼女と仲良くしてくださいね」
今は嘘だけど、言霊を信じて言った言葉だった。
私はそう言って三井さんをくるりと後ろに向かせ、背中を押した。
「……早く、行ってください」
きっと私の震える声に気付いたのだろう、三井さんは振り返ることをせず屋上から出ていった。
私は屋上の手すりに手をかけ、「はぁ」と空を見上げながらひとつ大きなため息をついた。
そしてボロボロと涙を流す。
「今までありがとう」とか「好きでした」とか言えばよかったの?
どんな言葉を並べたって何が正解かなんてわからない。
私はただただ流れてくる涙を止めようとはしなかった。
その時後ろから屋上の扉が開く音がして、私は反射的に扉の方を向いた。
「あれ、いい女が泣いてんな」
扉から入ってきたのは洋平くんだった。
「どーせ何もかもお見通しなんでしょ?」
そう言って私は洋平くんに背を向ける 。
すると洋平くんは私の隣に来て、手すりに腕を乗せ、私の顔を覗き込む。
「ホントに泣いてら」
「え?!」
「あんな扉のとこからじゃ涙まで見えねえよ」
ははは、と洋平くんは笑いながら言った。
「それならなんで泣いてる、なんて言ったの?」
「……そんな気がしたから?」
ポンポンーー
洋平くんは私の頭に優しく手を乗せる。
その手のぬくもりに私の涙腺は崩壊する。
「……ごめ、ちょっと今だけ胸貸して」
「おっと」
私はドン、と洋平くんの胸に頭をつけ子供のように泣きじゃくった。
「別に『今だけ』じゃなくてもいいぜ」
「なにっ……それ……」
「ま、いっか。今は『今だけ』でも」
洋平くんはそう言って私を優しく抱きしめる。
屋上の風は冷たく、寒さが身にしみたけど、洋平くんのおかげで少しだけ心は暖かくなった気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いやーちゃんと卒業できてよかったね!三井サン!!」
「っせぇぞ!!宮城!!!」
今日は卒業式。
校門の前で、バスケ部3年生へ私達後輩が花束を渡しているところだ。
「よっしゃ!赤木のダンナを胴上げだ!!」
「よし!この天才に任せろ!!」
男子部員は全員で赤木さんを囲う。
「我、かんせず。」
「あんたも行け!!」
私はバシン!!と流川の背中を叩いた。
しぶしぶ輪の中へと歩いていく流川。
あのバスケ部元キャプテンを胴上げとなると、周りにギャラリーができ始める。
「なんかすげぇ事になってんな」
クスクスと笑っている私に話しかけて来たのは三井さんだった。
「え?!ボタン全部ない!!まじ?!」
学ランのボタンが1つも残っていない三井さんへ私は驚きの声を出す。
「まぁ、トーゼンだな!」
「彼女への分はちゃんととっといてんでしょうね?!」
「……大丈夫だよ」
「あら、偉い」
「お前の分もとっとけばよかったか?」
ニヤリと三井さんは笑った。
「あ、大丈夫です。2年後彼氏からもらうんで」
「それまで続いてたら、だろ?」
「付き合いたての人にそゆこと言うのやめてもらえます?」
少し向こうで行われている赤木さんの胴上げを見ながら私達は会話を続ける。
「しかし、よりによって水戸かよ」
「三井さんへの当てつけかも」
私はクスクスと笑う。
「……まじかよ」
三井さんは少しだけビクついているようにも見えた。
そんな姿に私は声を出して笑ってしまった。
「あはは!嘘ですって!」
「まぁ、泣かされたら言えよ。ぶん殴ってやっから」
「……やられるのは三井さんの方じゃない?」
「うっせぇな!!」
するとスっと三井さんは私に手を差し出してきた。
「世話んなったな」
もう触れることはないと思っていたその手を私はキュッと握る。
握手という形で。
「彼女と仲良くしてくださいね」
「お前もな」
そうして私達の手は離れた。
私は三井さんの後ろ姿を眺める。
今度はホントに心からそう思ってるよ、三井さん。
あなたに出会って好きになったこと、絶対に忘れる事はない。
例え幼い恋心と言われても本気だった。
「お、いい女が泣いてる?」
「泣いてません」
ははは、と笑いながら私服姿の洋平が私の隣に並ぶ。
『ただのクラスメイト』の洋平くん、から『私の彼氏』になった洋平。
洋平は卒業式には出席していない。
今日は部活もないので、会う約束をしていたのだ。
「やっぱり寂しいね」
「ん?」
「卒業って」
私はまだワーワーと騒いでいるバスケ部員達を眺めながら話す。
「私達が同じ場所で過ごすのもあと2年か…」
「安心しろよ」
洋平は私の手をキュッと握る。
「俺はまなみに寂しい思いをさせるつもりはないぜ?」
洋平のそんな言葉に私の心はくすぐったくなったが、それがとても嬉しく思った。
私は握られたその手を握り返す。
そして「ありがと」と言って洋平の肩へと頭を軽く乗せた。
「まなみ」
「ん?」
「好きだぜ」
そんな不意打ちに私は恥ずかしくなり、洋平の肩から頭をどかした。
「な、なにイキナリ」
「言霊、なんだろ?」
「……そんな事しなくたって、好きだよ」
「ははっ、降参だ」
洋平は困ったように、それでも優しく笑って私の頭を撫でる。
きっと洋平は私が三井さんと話してたのを見てたんだろうな。
でも何も言わないでくれてるのは洋平の優しさなのだ。
そんな彼に私の恋心は奪われてしまった。
いまの私にとって誰よりも愛しい人。
言葉にしなくたって溢れてしまうほどの、愛しい気持ち。
これからも胸に秘めて、ううん、秘めることなく歩いていく。
あなたと共にーーー。
いつの間にか新しい年になり、三学期も始まった。
三井さんは部活を引退している。
部活帰りに私は近所のコンビニに寄った。
それは三井さんと会うために。
コンビニの外から雑誌を読んでいる三井さんを発見し、軽く手を振る。
そんな私に気付いた三井さんはコンビニから出て「おつかれ」そう言って私の頭に手を乗せた。
自然に自分の顔がほころぶのがわかる。
それから私達は近くの公園のベンチに座り、他愛もない話をする。
そんな事が幸せだった。
何気ない日常の隣に三井さんがいる。
それだけで幸せだった。
けれど、そんな幸せは偽物で終わりはやってくる。
「あれ、寿?」
その声に私は心臓が止まりそうだった。
それは三井さんも同じだろう。
少し向こうから歩いてくるのは紛れもない、三井さんの彼女さんだ。
「珍しいね、こんなとこにいるの。あれ…この子確か……」
チラッと私の方を見ながら不思議そうな顔をする彼女さん。
「バスケ部マネージャーの佐藤です。さっき偶然三井さんに会って、久々だったんでバスケ部の話を聞いてもらってたんです。」
こんなにスラスラ言葉が出てくる自分に戸惑いはしなかった。
いつかこうなるかも、と心の底で考えていたから。
「あ、そうなんだ。なんやかんや引退して寂しいみたいよ、この人」
そう言っていたずらっぽく笑い、三井さんの背中を軽く叩く彼女さんに私は心が傷んだ。
「じゃ、私は行きますね」
1分でも1秒でもその場を早く去りたいと思い、足早に私は公園から離れた。
三井さんの顔を見ることは出来ずに。
わかってたんだ。
いつか誰かが言ってた。
「三井さんと彼女って幼なじみで、三井さんグレてる時もずっと支えてたんだってー」
そんな言葉聞かなくたって、わかってた。
三井さんがどれだけ彼女の事が好きなのか。
顔を見たらわかるよ。
三井さんの彼女を見る顔を。
私が1番になることは絶対にないんだ。
それでも一瞬でも、一緒にいるほんの一瞬でも私の事だけを好きでいてくれる、そんな望みも持っていた。
「やっぱり来た」
次の日、私は朝から学校の教室ではなく寒空の下の屋上にいた。
ここにいたら三井さんが来てくれるー、そう思って。
案の定朝のホームルームが終わったあと三井さんはやって来た。
何度か一緒に授業をサボって過ごしたこの場所。
何度もここでキスをした。
「あの、よ」
「さすがに潮時ってやつですね」
私はヘラッと笑いながら話した。
「……」
それに対し、三井さんは苦しそうな表情をして黙る。
「や、初めからわかってたんで大丈夫です!……三井さんの1番になることはないって…」
泣いちゃダメだ。
泣いたら何もかも後悔することになる。
「…っ、まなみ、俺はお前の事好……」
私は三井さんの言葉をキスで遮った。
「三井さん、言霊ってわかります?」
「な、なんだよいきなり」
「言葉にしたらそれがホントになっちゃうんです」
だから……それ以上は言わないで。
「彼女と仲良くしてくださいね」
今は嘘だけど、言霊を信じて言った言葉だった。
私はそう言って三井さんをくるりと後ろに向かせ、背中を押した。
「……早く、行ってください」
きっと私の震える声に気付いたのだろう、三井さんは振り返ることをせず屋上から出ていった。
私は屋上の手すりに手をかけ、「はぁ」と空を見上げながらひとつ大きなため息をついた。
そしてボロボロと涙を流す。
「今までありがとう」とか「好きでした」とか言えばよかったの?
どんな言葉を並べたって何が正解かなんてわからない。
私はただただ流れてくる涙を止めようとはしなかった。
その時後ろから屋上の扉が開く音がして、私は反射的に扉の方を向いた。
「あれ、いい女が泣いてんな」
扉から入ってきたのは洋平くんだった。
「どーせ何もかもお見通しなんでしょ?」
そう言って私は洋平くんに背を向ける 。
すると洋平くんは私の隣に来て、手すりに腕を乗せ、私の顔を覗き込む。
「ホントに泣いてら」
「え?!」
「あんな扉のとこからじゃ涙まで見えねえよ」
ははは、と洋平くんは笑いながら言った。
「それならなんで泣いてる、なんて言ったの?」
「……そんな気がしたから?」
ポンポンーー
洋平くんは私の頭に優しく手を乗せる。
その手のぬくもりに私の涙腺は崩壊する。
「……ごめ、ちょっと今だけ胸貸して」
「おっと」
私はドン、と洋平くんの胸に頭をつけ子供のように泣きじゃくった。
「別に『今だけ』じゃなくてもいいぜ」
「なにっ……それ……」
「ま、いっか。今は『今だけ』でも」
洋平くんはそう言って私を優しく抱きしめる。
屋上の風は冷たく、寒さが身にしみたけど、洋平くんのおかげで少しだけ心は暖かくなった気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いやーちゃんと卒業できてよかったね!三井サン!!」
「っせぇぞ!!宮城!!!」
今日は卒業式。
校門の前で、バスケ部3年生へ私達後輩が花束を渡しているところだ。
「よっしゃ!赤木のダンナを胴上げだ!!」
「よし!この天才に任せろ!!」
男子部員は全員で赤木さんを囲う。
「我、かんせず。」
「あんたも行け!!」
私はバシン!!と流川の背中を叩いた。
しぶしぶ輪の中へと歩いていく流川。
あのバスケ部元キャプテンを胴上げとなると、周りにギャラリーができ始める。
「なんかすげぇ事になってんな」
クスクスと笑っている私に話しかけて来たのは三井さんだった。
「え?!ボタン全部ない!!まじ?!」
学ランのボタンが1つも残っていない三井さんへ私は驚きの声を出す。
「まぁ、トーゼンだな!」
「彼女への分はちゃんととっといてんでしょうね?!」
「……大丈夫だよ」
「あら、偉い」
「お前の分もとっとけばよかったか?」
ニヤリと三井さんは笑った。
「あ、大丈夫です。2年後彼氏からもらうんで」
「それまで続いてたら、だろ?」
「付き合いたての人にそゆこと言うのやめてもらえます?」
少し向こうで行われている赤木さんの胴上げを見ながら私達は会話を続ける。
「しかし、よりによって水戸かよ」
「三井さんへの当てつけかも」
私はクスクスと笑う。
「……まじかよ」
三井さんは少しだけビクついているようにも見えた。
そんな姿に私は声を出して笑ってしまった。
「あはは!嘘ですって!」
「まぁ、泣かされたら言えよ。ぶん殴ってやっから」
「……やられるのは三井さんの方じゃない?」
「うっせぇな!!」
するとスっと三井さんは私に手を差し出してきた。
「世話んなったな」
もう触れることはないと思っていたその手を私はキュッと握る。
握手という形で。
「彼女と仲良くしてくださいね」
「お前もな」
そうして私達の手は離れた。
私は三井さんの後ろ姿を眺める。
今度はホントに心からそう思ってるよ、三井さん。
あなたに出会って好きになったこと、絶対に忘れる事はない。
例え幼い恋心と言われても本気だった。
「お、いい女が泣いてる?」
「泣いてません」
ははは、と笑いながら私服姿の洋平が私の隣に並ぶ。
『ただのクラスメイト』の洋平くん、から『私の彼氏』になった洋平。
洋平は卒業式には出席していない。
今日は部活もないので、会う約束をしていたのだ。
「やっぱり寂しいね」
「ん?」
「卒業って」
私はまだワーワーと騒いでいるバスケ部員達を眺めながら話す。
「私達が同じ場所で過ごすのもあと2年か…」
「安心しろよ」
洋平は私の手をキュッと握る。
「俺はまなみに寂しい思いをさせるつもりはないぜ?」
洋平のそんな言葉に私の心はくすぐったくなったが、それがとても嬉しく思った。
私は握られたその手を握り返す。
そして「ありがと」と言って洋平の肩へと頭を軽く乗せた。
「まなみ」
「ん?」
「好きだぜ」
そんな不意打ちに私は恥ずかしくなり、洋平の肩から頭をどかした。
「な、なにイキナリ」
「言霊、なんだろ?」
「……そんな事しなくたって、好きだよ」
「ははっ、降参だ」
洋平は困ったように、それでも優しく笑って私の頭を撫でる。
きっと洋平は私が三井さんと話してたのを見てたんだろうな。
でも何も言わないでくれてるのは洋平の優しさなのだ。
そんな彼に私の恋心は奪われてしまった。
いまの私にとって誰よりも愛しい人。
言葉にしなくたって溢れてしまうほどの、愛しい気持ち。
これからも胸に秘めて、ううん、秘めることなく歩いていく。
あなたと共にーーー。