恋草
空欄の場合は「まなみ」になります。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「どこ行くんですか?」
「さぁな」
私は今、三井さんが運転する車の助手席に座っている。
元彼氏、三井さんの。
朝、目覚まし替わりに鳴った携帯の着信音。
まだ眠りから冷めない意識の中、その着信に出ると、聞こえてきた着信相手の声で私はパッチリと目が覚めた。
「よぉ」
「み、三井さん?!」
「まだ寝てたのか」「今日休みか?」
一言二言話したあと三井さんはこう言った。
「ちょっと出かけねぇ?」
しばらく車を走らせ、着いた先は海だった。
「ここってーー」
「懐かしいだろ」
ただの海ではない。
ここは湘北高校から1番近い海。
季節は夏にさしかかり、気持ちのいい潮風が私の髪をなびかせる。
「俺、たまーーに来んだよな」
「……私もです」
あの頃はなんでも新鮮で、楽しくて。
それでも一丁前に悩んだりもして。
「青春してたなぁー」
「なーに言ってんだよ」
そう言いながらわしゃわしゃと私の頭を雑に撫でる三井さん。
「……」
私は思わず黙ってしまう。
「ん?どーした?」
「い、いや、なんでもないです」
私はこうやって三井さんに雑に頭を撫でられるのが好きだった、たまらなく。
不器用なりに示す三井さんの愛情表現だと思っていた。
今もそう思っていいの?
「ひゃー、やっぱりけっこう人いますね」
「ホントだな」
私たちは近くの観光地へとやって来た。
日曜という事もあり、元々平日でも混雑している場所はいつも以上に人でいっぱいだった。
「あっ、あの!!」
後ろから声を掛けられ、私と三井さんは振り返る。
「バスケ選手の三井さんですよね?!」
「おぅ」
「やっぱり!!」
声をかけてきたのは若い女の子2人組だった。
「お写真いいですか?!あ!あと握手も!!」
「あー…」
チラッと私を見る三井さん。
私は「どうぞどうぞ」と手でジェスチャーをする。
嬉しそうに写真を撮り、握手をしている女の子達を見て私は思い出した。
三井さんが今、世の中で『イケメンスポーツ選手』と言われていることを。
女の子達は何度もお礼を言ってこの場を去っていった。
「さっすが顔だけイケメン」
「まぁな!」
「…褒めてませんよ」
「あんだよ、お前も撮るか?」
ニヤリとする三井さん。
「はぁ?!なんでっ…」
「ほら、こっち寄れよ」
そう言いながら、三井さんは戸惑っている私の肩を抱き寄せ、自分の携帯で2人の姿を撮った。
「ぶわっはっは!お前変な顔!」
撮った写メを見ながら爆笑する三井さん。
「急に撮るからでしょ!」
まったく!と怒りながらも、私のドキドキは止まらない。
「なんか久しぶりに充実した休日だったなぁ!」
夕ご飯も食べ終わり、私は再び三井さんの車の助手席に座り、軽く腕を上へと伸ばす。
「……なぁ」
「はい?」
「俺んち来る?つか、泊まれば?」
「……え?!」
三井さんのそんな言葉に私は車窓からの風景を眺めているのをやめ、視線を三井さんへと向き直す。
「明日俺は午後から練習だし、朝役所まで送ってくぜ」
「ねぇ三井さん」
「あんだよ」
「私たちって…また付き合うことになってんの?」
私は今日1日疑問だった事を投げかける。
ヨリを戻そうとも、もちろん好きだとも言われていない。
「あ?!今更何言ってんだよ」
「だって私、三井さんになんにも言われてないですもん」
「言わなくたってわかんだろ。お前はガキか」
「は?大人だからこそわかんないよ」
少しずつ互いにイライラが募り始める。
「だいたいお前から連絡先よこしたじゃねぇか」
「連絡先教えただけで彼氏気取りですか。三井さんこそガキじゃん」
完全に売り言葉に買い言葉だ。
「んだと」
「……帰る」
「は?」
「家に帰ります!!」
「……そーかよ!」
そのまま無言で私は家まで送ってもらった。
「…これじゃ昔となんも変わんない」
そう言って私は三井さんの車から出た。
「昔っから喧嘩ばっかだったな…」
私は自室のベッドで枕に顔を埋め、三井さんと付き合っていた時のことを思い出していた。
何かとぶつかり合い、すぐに喧嘩になる2人。
「…2人とも成長してないなぁ」
思わず苦笑いが出る。
10年近く経ったってお互い意地っ張りなのは変わっていない。
「こんなんじゃきっと、またうまくいかないよ…」
ポロリと1粒涙がこぼれる。
この涙の意味は自分でわかったけれど、それを認めたくはなかった。
特別三井さんに未練がある訳でもない、三井さんより長く付き合った人だっている。
なのに、なぜこうも簡単に心を奪われてしまうんだろう。
「おはようまなみ!……顔どうした?ひっどいよ」
朝、出社すると同期の女性職員が声をかけてきたが、私のそのひどい顔に驚いたようだ。
「寝不足」
私は大きなあくびをしながら答える。
「ホントひどい顔してますね」
すると今度は後輩の男性職員も声をかけてきた。
「なにみんなして……」
私は思わず顔をしかめる。
「飲み、行きますか?」
ポン、と私の頭に手を乗せる後輩。
その行為に昨日の三井さんを思い出し、胸がキュッと締め付けられる。
「行く!!超飲む!!!」
私は握りこぶしを作り、大きな声で返事をした。
「私も私もー!!!」
同期がはいはい!と手をあげる。
「えっ」
「なによ、嫌?!」
後輩を軽く睨む同期。
「嫌じゃ、ないす…」
「まなみさん、仕事終わりました?」
就業時間が終わり、後輩が私の元へとやってくる。
「うん!バッチリ!先に外行ってようか」
一緒に行く同期があと少しかかるというので、2人で先に庁舎を出て外で待っている。
「月曜だけど、今日は飲む!」
いつもなら月曜日から飲みに行くという事はまずない。
けれど、今日は特別。
酔っ払って今の感情ごと忘れたい気分だった。
「ははは、まじすか。なんかあった?」
後輩は笑いながらも心配そうに私の顔を覗く。
「いやぁ~、ちょっとね……」
私は少し先からこちらへ向かってくる人物に気付き、何も言えなくなった。
「まなみさん?どうしたんすか?」
「三井…さん…」
後輩が私の視線の先に目をやった時には、すでに三井さんは私の手を掴んでいた。
「わりぃな、ちょっとコイツ借りんぞ」
そう言って歩きだそうとする三井さん。
「は?!ちょっと三井さん!」
「え、まなみさん?!」
その場から三井さんに連れていかれそうになっている私の腕を掴もうとした後輩。
それに気づいた三井さんはズイ!と後輩の前に立ちはだかる。
「コイツ、俺の女だから手出すなよ」
そう言ってそのまま私の腕を掴んだまま歩き始めた。
「………」
その場にポツンと取り残される後輩。
ーと、その時
「ひゃぁ、なにあれ、かっこよすぎない?」
遅れて同期が登場。
「なんすかアレ…しかもあの人どっかで見たことある」
「私も!…誰だっけ」
「確か、『三井さん』ってまなみさん言ってましたけど…」
「あーー!思い出した!バスケ選手だ!」
「あぁ!そうだ!三井!!」
2人してその場で大声を出す。
「……どんまい、勝ち目ないわ」
同期はそう言ってポンと、後輩の肩に手を乗せる。
「……今日はおごってください」
ガックリと肩を落とす後輩。
「ちょっと三井さん!」
「……」
「もう!!」
私はめいっぱいの力で三井さんの手をふりほどいた。
「…なんなんですか。いつもいつも自分勝手に……」
ぎゅっ……
私の言葉は最後まで言う事ができなかった。
黙ったまま私を抱き締める三井さん。
「ちょ、こんな所でなにす…」
「好きだ」
「……え」
「俺にはまなみ以上の女はいねぇ…」
三井さんは私を抱き締める力を強める。
「なんなんですか…ホントに…こんな公衆の面前で…」
周りは帰宅途中の人でザワザワしている。
「まじで…自分勝手…」
そう言って私は三井さんの背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめ返す。
「そばにいたいです…三井さんの」
「あぁ…いてくれ」
そう言って私にキスをしようとする三井さん……だったが私はソレを持っていたカバンで阻止する。
「……てんめ」
「こんな所で誰がさせますか!!」
私は周りをキョロキョロ見渡す。
「くそっ!なら早く行くぞ!」
「ど、どこに?!」
「……俺ん家に決まってんだろ」
ムスッとしながら私の手を繋ぎ、引っ張りながら歩き出す三井さん。
が、ピタッと止まる。
「今日はぜってー帰さねぇかんな」
顔を赤くし、一言そう言ってまた歩き出す。
そんな三井さんに私は笑いが止まらなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
いつもとは違うベッドの中でふと目を覚ます。
横にはこちらを向きスヤスヤと寝ている三井さん。
私はそっとベッドをおりて、寝室を出る。
もちろんここは三井さんの家。
キッチンで水を飲み再びベッドへと潜り込む。
するとぎゅっと三井さんに寝ながら抱きしめられた。
「…三井さん?起きてるの?」
「……どっかいっちまったかと思った」
目をつぶりながら更にぎゅっと私を抱きしめる。
「行きませんよ、もうどこにも」
「行かせねぇよ」
そう言って三井さんはそっと私のおでこにキスをする。
「……三井さんがそんな事言うなんて」
「あ?」
「大人になりましたね」
私は三井さんを見ながらクスクスと笑う。
「いーこと教えてやろうか?」
「なんですか?」
「人はな、成長すんだよ」
ドヤ顔で言い放つ三井さんに思わず爆笑してしまった。
「んだよ!笑いすぎだろてめぇ!」
「あはは!い、いや!なんか安心しました」
「なにがだよ」
不服そうな顔で私を見る三井さん。
「私たち、大丈夫ですね」
この先きっと意地っ張りで不器用な私たちは、喧嘩をして言い争ったりする事もあるだろう。
だけど大丈夫。
根拠?
そんなものいくらでも後付けできるんだよ。
私はそう思いながら、ぎゅっと三井さんに抱きつく。
それはもう絶対離れないという私の心の表れだった。
そして、もう離れたくないという思いも込めて…。
「さぁな」
私は今、三井さんが運転する車の助手席に座っている。
元彼氏、三井さんの。
朝、目覚まし替わりに鳴った携帯の着信音。
まだ眠りから冷めない意識の中、その着信に出ると、聞こえてきた着信相手の声で私はパッチリと目が覚めた。
「よぉ」
「み、三井さん?!」
「まだ寝てたのか」「今日休みか?」
一言二言話したあと三井さんはこう言った。
「ちょっと出かけねぇ?」
しばらく車を走らせ、着いた先は海だった。
「ここってーー」
「懐かしいだろ」
ただの海ではない。
ここは湘北高校から1番近い海。
季節は夏にさしかかり、気持ちのいい潮風が私の髪をなびかせる。
「俺、たまーーに来んだよな」
「……私もです」
あの頃はなんでも新鮮で、楽しくて。
それでも一丁前に悩んだりもして。
「青春してたなぁー」
「なーに言ってんだよ」
そう言いながらわしゃわしゃと私の頭を雑に撫でる三井さん。
「……」
私は思わず黙ってしまう。
「ん?どーした?」
「い、いや、なんでもないです」
私はこうやって三井さんに雑に頭を撫でられるのが好きだった、たまらなく。
不器用なりに示す三井さんの愛情表現だと思っていた。
今もそう思っていいの?
「ひゃー、やっぱりけっこう人いますね」
「ホントだな」
私たちは近くの観光地へとやって来た。
日曜という事もあり、元々平日でも混雑している場所はいつも以上に人でいっぱいだった。
「あっ、あの!!」
後ろから声を掛けられ、私と三井さんは振り返る。
「バスケ選手の三井さんですよね?!」
「おぅ」
「やっぱり!!」
声をかけてきたのは若い女の子2人組だった。
「お写真いいですか?!あ!あと握手も!!」
「あー…」
チラッと私を見る三井さん。
私は「どうぞどうぞ」と手でジェスチャーをする。
嬉しそうに写真を撮り、握手をしている女の子達を見て私は思い出した。
三井さんが今、世の中で『イケメンスポーツ選手』と言われていることを。
女の子達は何度もお礼を言ってこの場を去っていった。
「さっすが顔だけイケメン」
「まぁな!」
「…褒めてませんよ」
「あんだよ、お前も撮るか?」
ニヤリとする三井さん。
「はぁ?!なんでっ…」
「ほら、こっち寄れよ」
そう言いながら、三井さんは戸惑っている私の肩を抱き寄せ、自分の携帯で2人の姿を撮った。
「ぶわっはっは!お前変な顔!」
撮った写メを見ながら爆笑する三井さん。
「急に撮るからでしょ!」
まったく!と怒りながらも、私のドキドキは止まらない。
「なんか久しぶりに充実した休日だったなぁ!」
夕ご飯も食べ終わり、私は再び三井さんの車の助手席に座り、軽く腕を上へと伸ばす。
「……なぁ」
「はい?」
「俺んち来る?つか、泊まれば?」
「……え?!」
三井さんのそんな言葉に私は車窓からの風景を眺めているのをやめ、視線を三井さんへと向き直す。
「明日俺は午後から練習だし、朝役所まで送ってくぜ」
「ねぇ三井さん」
「あんだよ」
「私たちって…また付き合うことになってんの?」
私は今日1日疑問だった事を投げかける。
ヨリを戻そうとも、もちろん好きだとも言われていない。
「あ?!今更何言ってんだよ」
「だって私、三井さんになんにも言われてないですもん」
「言わなくたってわかんだろ。お前はガキか」
「は?大人だからこそわかんないよ」
少しずつ互いにイライラが募り始める。
「だいたいお前から連絡先よこしたじゃねぇか」
「連絡先教えただけで彼氏気取りですか。三井さんこそガキじゃん」
完全に売り言葉に買い言葉だ。
「んだと」
「……帰る」
「は?」
「家に帰ります!!」
「……そーかよ!」
そのまま無言で私は家まで送ってもらった。
「…これじゃ昔となんも変わんない」
そう言って私は三井さんの車から出た。
「昔っから喧嘩ばっかだったな…」
私は自室のベッドで枕に顔を埋め、三井さんと付き合っていた時のことを思い出していた。
何かとぶつかり合い、すぐに喧嘩になる2人。
「…2人とも成長してないなぁ」
思わず苦笑いが出る。
10年近く経ったってお互い意地っ張りなのは変わっていない。
「こんなんじゃきっと、またうまくいかないよ…」
ポロリと1粒涙がこぼれる。
この涙の意味は自分でわかったけれど、それを認めたくはなかった。
特別三井さんに未練がある訳でもない、三井さんより長く付き合った人だっている。
なのに、なぜこうも簡単に心を奪われてしまうんだろう。
「おはようまなみ!……顔どうした?ひっどいよ」
朝、出社すると同期の女性職員が声をかけてきたが、私のそのひどい顔に驚いたようだ。
「寝不足」
私は大きなあくびをしながら答える。
「ホントひどい顔してますね」
すると今度は後輩の男性職員も声をかけてきた。
「なにみんなして……」
私は思わず顔をしかめる。
「飲み、行きますか?」
ポン、と私の頭に手を乗せる後輩。
その行為に昨日の三井さんを思い出し、胸がキュッと締め付けられる。
「行く!!超飲む!!!」
私は握りこぶしを作り、大きな声で返事をした。
「私も私もー!!!」
同期がはいはい!と手をあげる。
「えっ」
「なによ、嫌?!」
後輩を軽く睨む同期。
「嫌じゃ、ないす…」
「まなみさん、仕事終わりました?」
就業時間が終わり、後輩が私の元へとやってくる。
「うん!バッチリ!先に外行ってようか」
一緒に行く同期があと少しかかるというので、2人で先に庁舎を出て外で待っている。
「月曜だけど、今日は飲む!」
いつもなら月曜日から飲みに行くという事はまずない。
けれど、今日は特別。
酔っ払って今の感情ごと忘れたい気分だった。
「ははは、まじすか。なんかあった?」
後輩は笑いながらも心配そうに私の顔を覗く。
「いやぁ~、ちょっとね……」
私は少し先からこちらへ向かってくる人物に気付き、何も言えなくなった。
「まなみさん?どうしたんすか?」
「三井…さん…」
後輩が私の視線の先に目をやった時には、すでに三井さんは私の手を掴んでいた。
「わりぃな、ちょっとコイツ借りんぞ」
そう言って歩きだそうとする三井さん。
「は?!ちょっと三井さん!」
「え、まなみさん?!」
その場から三井さんに連れていかれそうになっている私の腕を掴もうとした後輩。
それに気づいた三井さんはズイ!と後輩の前に立ちはだかる。
「コイツ、俺の女だから手出すなよ」
そう言ってそのまま私の腕を掴んだまま歩き始めた。
「………」
その場にポツンと取り残される後輩。
ーと、その時
「ひゃぁ、なにあれ、かっこよすぎない?」
遅れて同期が登場。
「なんすかアレ…しかもあの人どっかで見たことある」
「私も!…誰だっけ」
「確か、『三井さん』ってまなみさん言ってましたけど…」
「あーー!思い出した!バスケ選手だ!」
「あぁ!そうだ!三井!!」
2人してその場で大声を出す。
「……どんまい、勝ち目ないわ」
同期はそう言ってポンと、後輩の肩に手を乗せる。
「……今日はおごってください」
ガックリと肩を落とす後輩。
「ちょっと三井さん!」
「……」
「もう!!」
私はめいっぱいの力で三井さんの手をふりほどいた。
「…なんなんですか。いつもいつも自分勝手に……」
ぎゅっ……
私の言葉は最後まで言う事ができなかった。
黙ったまま私を抱き締める三井さん。
「ちょ、こんな所でなにす…」
「好きだ」
「……え」
「俺にはまなみ以上の女はいねぇ…」
三井さんは私を抱き締める力を強める。
「なんなんですか…ホントに…こんな公衆の面前で…」
周りは帰宅途中の人でザワザワしている。
「まじで…自分勝手…」
そう言って私は三井さんの背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめ返す。
「そばにいたいです…三井さんの」
「あぁ…いてくれ」
そう言って私にキスをしようとする三井さん……だったが私はソレを持っていたカバンで阻止する。
「……てんめ」
「こんな所で誰がさせますか!!」
私は周りをキョロキョロ見渡す。
「くそっ!なら早く行くぞ!」
「ど、どこに?!」
「……俺ん家に決まってんだろ」
ムスッとしながら私の手を繋ぎ、引っ張りながら歩き出す三井さん。
が、ピタッと止まる。
「今日はぜってー帰さねぇかんな」
顔を赤くし、一言そう言ってまた歩き出す。
そんな三井さんに私は笑いが止まらなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
いつもとは違うベッドの中でふと目を覚ます。
横にはこちらを向きスヤスヤと寝ている三井さん。
私はそっとベッドをおりて、寝室を出る。
もちろんここは三井さんの家。
キッチンで水を飲み再びベッドへと潜り込む。
するとぎゅっと三井さんに寝ながら抱きしめられた。
「…三井さん?起きてるの?」
「……どっかいっちまったかと思った」
目をつぶりながら更にぎゅっと私を抱きしめる。
「行きませんよ、もうどこにも」
「行かせねぇよ」
そう言って三井さんはそっと私のおでこにキスをする。
「……三井さんがそんな事言うなんて」
「あ?」
「大人になりましたね」
私は三井さんを見ながらクスクスと笑う。
「いーこと教えてやろうか?」
「なんですか?」
「人はな、成長すんだよ」
ドヤ顔で言い放つ三井さんに思わず爆笑してしまった。
「んだよ!笑いすぎだろてめぇ!」
「あはは!い、いや!なんか安心しました」
「なにがだよ」
不服そうな顔で私を見る三井さん。
「私たち、大丈夫ですね」
この先きっと意地っ張りで不器用な私たちは、喧嘩をして言い争ったりする事もあるだろう。
だけど大丈夫。
根拠?
そんなものいくらでも後付けできるんだよ。
私はそう思いながら、ぎゅっと三井さんに抱きつく。
それはもう絶対離れないという私の心の表れだった。
そして、もう離れたくないという思いも込めて…。