予想外
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毎日同じ場所で、同じことしてるはずなのに。
どうして住む世界が違うって思っていたんだろう。
一生関わることがないって、そう思っていた。
「はい!じゃあ、うちのクラスの学祭実行委員は佐藤さんに決定!!」
クラスメイトは私を囲んで、教室中から拍手があがる。
……こんなに嬉しくない拍手は初めて。
私の手の中には『当たり♡』と書かれたメモ紙。
……こんなにハートマークを恨めしく思ったのも初めて。
たった今私は2ヵ月後に行われる学校祭の実行委員という、誰もやりたくない役職を手に入れた。
うちの学校の学校祭は7月。
最悪すぎる。
今年で高校生活最後の学校祭。
1.2年と平々凡々に過ごしてきた私にとっては拷問に値する。
こんなに大勢の人に囲まれるのも初めてだし、ましてやこんな大役初めてだった。
ふ、不安すぎる。
「がんばれよ!」
そう言って私の頭をクシャクシャしてきたのは藤真くんだった。
ニカッと笑う藤真くんの顔は美形そのもので、ドキッとしない訳が無い。
「あー!ずるーい!藤真!あたしの頭もなでてよー!」
「あ、私も私も!」
「ハイハイ、1列に並べ!」
「俺も!」
「男はいらん!」
そんな会話をしている藤真くん達をすぐ目の前で見ているのに、とても遠くに感じる。
私とは住む世界が違うもの。
羨ましいような、はたまた関わりたくないような、そんな気持ちで私の心はザワザワする。
藤真くんはバスケ部のキャプテン兼監督という未知の世界の人間。
どこにでもいるフツーの女子高生、まさにそんなレッテルを貼られているのが私だ。
可もなく不可もなく。
そんな言葉がピッタリだった。
人並みに友達もいるし、恋愛も人並みにしてきた。
そんなフツーな人間がクラスを代表する委員なんて荷が重すぎる。
そう思っていたのだがーーーー
この委員になった事が私の残りの高校生活を大きく変える。
クラスの出し物はお化け屋敷に決定した。
意外とすんなり決まったのは私にはとても助かった。
「お化け屋敷でいいんじゃね?」
そんな藤真くんの一言があり、一瞬で決まったのだ。
学校祭の準備は着々と進んでいき、
私は想像以上の忙しさにてんてこ舞いになっていた。
クラスの予算管理、委員会への報告、それぞれの係のまとめ役。
みんな色々協力はしてくれて助かってはいるのだが、忙しさに目が回っていた。
そんなある日私は大きな荷物を持って廊下を歩いていると、ひょいとその荷物を持ってくれる人物がいた。
藤真くんだった。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう…。」
「ぷっ、声ちっさ!」
藤真くんは笑いながら「どこまで持ってけばいいんだ?」と訪ねてきた。
「そこの準備室まで」
「了解」
藤真くんと肩を並べて歩く日が来るなんて…
別に藤真くんの事が好きっていう訳では無い。
ただ、こんな人にドキドキしない人なんているの?
学校中の人気者で、バスケだけじゃなくて他のスポーツもできて、顔もかっこよくて…
どうして彼女いないんだろ。
そんな事を思っていると目的の準備室の前まで来ていた。
「おい」
「えっ?!」
「あけてくれよ、ドア」
しまった。
藤真くんはもちろん両手がふさがっている。
私は慌てて先生から預かっていたカギを使って、準備室のドアをあけた。
「ボケっとしてんなよ」
藤真くんは笑いながら机の上に荷物を置く。
「あのよ、、、」
そして、珍しく申し訳なさそうな顔を向けてきた。
私はあまり見ないその顔に少し緊張する。
「悪いな、あんまり学祭の準備手伝えなくて」
「え?」
「地区予選近いから今は部活優先でよ…」
そんな事気にしてたの?
あの藤真健司が??
私は思わずクスクスと小さく笑ってしまった。
「なんで笑うんだよ」
藤真くんは子供みたいにブスっとした。
こんな顔もするんだ。
なんかどっちかっていうと暴君なイメージだったんだけど、意外と周りの事とか気にかけてくれるんだ。
「大丈夫だよ、試合頑張ってね」
準備室を出て私はドアに鍵をかける。
「おう、てかさ、見に来いよ」
「え?」
「明後日試合だから。見に来いよ。」
まさかのお誘いに私は何も言えなかった。
私に言ってるんだよね?
しばらく沈黙が続く。
「おい、聞いてるのか?」
藤真くんからの問いかけに私はハッとする。
「あー!藤真ー!!」
廊下の向こうから藤真くんを呼ぶ声が聞こえてくる。
数人のクラスメイトだった。
クラスメイトは藤真くんの周りに集まる。
私はその場から離れようとしたそのときーー
「佐藤!!!」
藤真くんに大声で呼ばれビックリする。
ビックリしたのは私だけではなくその場いたクラスメイトも藤真くんの声に驚いてた。
「来いよ!試合!!」
「う、うん」
思わず私は首を縦にふっていた。
ーー月曜日ーー
藤真くん学校来るよね?
私は少し心配になっていた。
試合は負けてしまったから。
あの藤真くんの涙を見てしまったから。
胸が締め付けられる気分だった。
私は部活もしていないし、特別何かに夢中になっている訳でも無い。
だから、藤真くんの気持ちを全て理解する事はできないと思う。
だけど、あの涙を見てしまったらどれだけの気持ちで今まで頑張ってきてたのか痛いほど伝わった。
「はよーー」
藤真くん!!
ちゃんと学校来たんだ。
よかった…
私はほっと胸をなでおろす。
「藤真ー!試合惜しかったな」
「でも、すごかったよね!」
一気にドアの近くでクラスメイトに囲まれる藤真くん。
席に座っている私からは見えなくなるぐらいに。
「まぁな、でももう次の選抜に向けて気持ちを切り替えるさ」
その時クラスメイト達の隙間から顔が見えた藤真くんとバチッと目が合う。
私は思わずそっぽを向いてしまった。
と、同時にチャイムが鳴り、
みんなバラバラと自分の席へ戻る。
「来てくれてありがとな」
私の机に軽く手を乗せ、藤真くんはそう言って私の席の横を通り過ぎ自分の席へと歩いて行った。
私が見に行ってたの気付いてたんだ…
「まなみー!これどこに置くんだっけ?」
「あっ、それはね」
「佐藤さん、こっちもいい?!」
「はい!今行くー!!」
学祭の準備もいよいよ佳境に入ってきている。
授業も部活も全て準備にあてられる。
私はあちこちから声をかけられ、1人であたふたしていた。
ね、猫の手も借りたいってこういう事か…。
「失礼しました」
職員室から出てきた私は廊下でグイ!っと誰かに腕を掴まれる。
「藤真くん?!」
藤真くんは不機嫌そうな顔で私の腕を掴み、どんどん進んで行く。
「ちょっ、どこ行くの?!」
「いーから」
着いた先はバスケ部の部室だった。
相変わらず藤真くんは不機嫌そうな顔。
私なんかした?
すると藤真くんは「はぁ」と大きいため息をつく。
そして私に自販機で買ったであろうカフェオレを差し出した。
「え?」
いきなりの事すぎて私の頭はついていかない。
「ほら、飲めよ」
「あ、ありがと…」
私はおずおずとカフェオレを受け取った。
「お前働きすぎ!!」
藤真くんは私の目の前に立ち、言い放った。
これが仁王立ちか。
「働きすぎって言われても…」
「いいか、お前はもう少し人に頼るという事を覚えろ!!」
そんな事を大真面目に言うもんだから、私は思わずプッと吹き出してしまった。
「ふふっ、超監督だね、さすが」
私はクスクスと笑いが止まらない。
すると
「あ~……こーゆー事か。」
藤真くんは私の顔をまじまじと見ながらこう言った。
私は何を言っているのかわからず、ただただキョトンとしていた事だろう。
「俺、お前の事好きだわ」
え???
なに?
なんて???
「お前全然本気にしてないだろ?」
藤真くんはジリジリと私に近づいてくる。
それに対し私はゆっくりと後ろに下がっていくが、ついに背中が部室の壁についてしまった。
「あの、藤真くん?ちょっと下がってもらっていい?」
私は両手を前に出す。
「いやだね」
「えぇ…?!」
藤真くんは私の顔の横で壁に片手をつく。
「いやぁ、自分でも不思議だったんだよなぁ。お前の事が気になって気になって」
不思議って…
それ本人目の前にして言う??
「見たかったんだ。」
ぷにっ!!
藤真くんは壁についてないもう片方の手で私のほっぺたをつまんだ。
「お前の笑った顔。」
私は1ミリも動くことが出来ない。
「あと、そんな風に照れてる可愛い顔も。」
私はたった今学校中の人気者、藤真健司に告白された。
こんな事フツーの女子高生の私に起こっていいことなのだろうか。
残りの学校生活はどんな事になるのだろうか。
てゆーか、早く戻らないと学祭の準備が…。
もうどうでもいい事ですらマトモに考えることができない。
ただ一つ言えるのは
この人からは絶対に逃げられないだろうーーー
という事。
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