愛惜
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「おはよう」
この一言さえ言えなくなっていた。
隣の家の『三井』という表札を眺めながら私はいつものようにため息をつく。
幼馴染の寿がバスケットを辞めてからもう2年近く経とうとしていた。
私は誰よりも近くで応援していた…はずだったんだけどなぁ。
高校に入学したばかりの頃足の怪我で入院した寿。
お見舞いにももちろん行った。
「こんな怪我早く治して安西先生に恩返しするんだ!」
その時は笑いながらこう言っていたのに。
「なにグレてんだよ」
表札をペシンっと叩いて私は学校へと歩き出した。
「おはよう」
教室に入って席につくと、隣の席の木暮くんが挨拶をしてくる。
「おはよう」
木暮くんはバスケ部で、私と寿が幼馴染だという事を知っている数少ない人間。
寿がバスケ部に来なくなってからは色々聞かれたっけ。
でも、寿が私から離れていったことに気づいてくれたんだろうな。今では寿の話をする事は全くない。
物心ついた頃から寿が隣にいて、そんな寿にはバスケットがあって。それが当たり前だった。
「はぁ…」私は今日何回目かわからないため息をつく。
気を紛らわそうと学校帰りに私は1人で海に来てた。昔はよく寿と来ていたな…。
話す事はバスケの事ばかりで、でも全然苦じゃなかった。
ダメじゃん。全然気紛れてないじゃん。
「あれっ?!佐藤さん!」
私は声をかけられ、ビックリして後ろを振り向く。
「あ…えと、堀田くん?」
声をかけてきたのは隣のクラスの堀田くんだった。ーーという事はもしかして。
「おい、徳男!なにナンパしてんだよ」
やっぱり。
「まなみ…」
「寿…」
私は久しぶりに目が合った寿に動揺を隠しきれない。それは寿も同じのようだった。
「えっ?!2人知り合い?!」
堀田くんは私たちが下の名前で呼びあった事に驚いていた。
それはそうだろう。普段目も合わさない2人なのだから。
……なにこの組み合わせ。
近くのファミレスで私の目の前には堀田くん。その隣に寿。
見た目完全にヤンキーな2人が目の前に座っている。
周りから見たら私、絡まれてるようにしか見えないんじゃ…??
「みっちゃんと佐藤さんは幼馴染だったのか…。」
「うん…ってゆーか」
私はクスクスと笑いを我慢出来なくなっていた。
「堀田くんそのナリで甘いもの好きとか反則じゃない??」
堀田くんの目の前にはそれはそれは甘そうなチョコレートパフェ。
しかも特大サイズ。
「ダメだ…あははははは」
私はついに大きな声で笑ってしまった。
「いや、俺甘いもの大好きなんだよ!」
「まじで?!あ、じゃあさ駅前のケーキ屋知ってる?!新しくできたとこ!」
「知ってる知ってる!でも、まだ食べた事ねぇーんだよな」
「あ!じゃあ今度行こうよ!!」
「おぉ!いいね!」
ガンっ!!
寿が音を立ててグラスをテーブルに強く置く。
「うるせぇな、デブ2人」
「ひっど!!てゆーか、寿だって甘いもの好きじゃん!!」
「えっ?!みっちゃんそうなのか?!」
あ…やば…これはまずいこと言ったかな?
寿の睨みが私に突き刺さる。
「そ、そろそろ帰ろう…かなっ」
「あ、佐藤さん!俺送ってくよ!」
「は?!徳男お前逆方向だろ?!」
「いや、大丈夫!もうちょっと話もしたいし、送っ…」
「俺が送る」
堀田くんの言葉を遮って寿は言った。
少しの沈黙の後、寿はハッとしたように
「てゆーか、隣だし家。」と一言投げ捨てた。
私たちはファミレスを出る。
帰り際堀田くんが寿に「そうか、みっちゃん、そうか!!」って何回も言っていたのはなんなんだろう…。
「……」
「……」
き、気まずい。
「ほ、堀田くんて面白い人なんだね!」
「あ?」
「ほら、私話した事なかったからさ!あんなに喋る人だと思ってなかったよ。」
私は2人にとって当たり障りのない話をする。
「やめろよ。」
「は?何が?」
「2人でどっか行くとか。」
えっーーーー
「行くなら俺も連れてけ。」
寿は面白くない顔をしながら言った。
「え、ヤキモチですか?寿くん」
私はニヤニヤしながら聞く。
「はぁ?!んなわけねーだろ!」
寿は私の頭をクシャクシャと雑に触る。
「ちょっと、何すんのよ!」
「っせーな!」
なんだかこの感じが久々すぎて嬉しいような、くすぐったい気持ちになる。
「おはよう」
「はよ」
それからあれだけ言えなかった言葉も言えるようになった。
ただ、クラスも違うから学校で会うこともそんなにない。
ごくたまーに家の前で会うぐらい。
それでも私にとっては嬉しかった。
ちょっとずつまた前みたいに戻れるはずーー
そう思っていたのに。
「入院?!」
「そうなのよ、あのバカったら。なんか喧嘩したみたい。」
ある日私は寿のお母さんから聞かされた。
次の日学校へ行くとみんながその話をしている。三井寿と2年の宮城リョータが喧嘩をして2人とも入院したと。
私は木暮くんから宮城くんはバスケ部だということを聞いて、単なる喧嘩じゃないと思った。
私は寿が入院している病室の前に立っている。(個室か…贅沢な)なんて思いながら
ふぅ、とひとつ息をして
コンコン、とノックした。返事はない。
それでも私はゆっくりと病室のドアを開けた。
「寿?」
「あ?まなみ?!お前…なんで?!」
「寿ママに聞いた。あんた何してんの?」
明らかに不機嫌そうな顔。
「お前にはカンケーねぇだろ」
「言うと思った。」
私はズカズカと寿に近づく。
「バスケ部だからでしょ?宮城くんが。」
寿は一瞬ギクリとした顔をしたが
「は?何のことだよ。」
「いい加減にしなよ。なんで周りを巻き込むの?自分ばっかりが被害者だと思わないで」
私は止まらなかった。
言っていいのか悪いのか、そんな事を考える余裕もなく話し続けた。
「今の寿は全然かっこよくない。それに何をしたいのかわかんないよ。昔だったら…」
グイッ
私は寿に腕を引っ張られーーー
キスをされた。
「昔だったら…なんなんだよ」
寿は私を睨む。その目は怒っているようで、少しだけ悲しそうだった。
私は寿から離れてバタバタと病室を出た。
なんなの!?なにアイツ!!
病院から外へ出た私は泣きながら歩く。
「最悪のファーストキスじゃん」
もう昔みたいな幼馴染には戻れない。
そうハッキリと確信をした。
ーー数週間後ーーー
寿が退院したのはお母さんから聞いていた。
だけど、なんでまた怪我をしてボロボロになった寿が今私の部屋にいるの?
「とりあえず怪我の手当をします」
「…頼みます」
なんなのこの会話。
「私と寿の両親が旅行に行ってる時狙ったのはわざと?」
「ちげーよ」
私はとりあえず消毒と家にあった絆創膏を寿の顔にはる。
「あのよ、髪切ってくんね?」
「髪?!……別にいいけど」
私は寿の首から下に、切ったゴミ袋を巻き付けてチョキチョキと寿の髪の毛を切る。
昔はこうやってよく寿の髪を切ったっけ。
しばらくすると寿は小さい声で
「俺…またバスケやるから」とつぶやいた。
「ふぅん、そっか。」
私は寿の髪の毛を切り終えて、首に巻き付けていた袋を取る。
「なんにも聞かねぇんだな。」
「聞いてほしいなら聞くよ?」
私はクスクス笑いながら、切った髪の毛を集める。
「なら、一つだけ聞いてくれよ。」
私は素直に言う寿に驚いて目をまるくした。
「俺はお前が好きだ。」
私は髪の毛を集めるのをピタッとやめた。というか、動けなくなった。
寿に抱きしめられたから。
「遅くなってわりぃ」
私たちは今までで「好き」とか「付き合う」なんて言葉はなかったけど、お互いの気持ちはとっくの昔にわかっていたんだ。
「次に諦めたら酷い目に合わすから。バスケの事も、私の事も。」
「なんだそりゃ」寿は笑いながらさらに私を
ギュッと抱きしめる。
「ぜってー諦めねぇよ」
ーーー数年後ーーー
「てかさ、ファーストキスの時って、寿確か歯無しだったんだよね?!」
私は爆笑しながら話す。
「あぁ?!お前何年前の話してんだよ!」
「だ、だって急に思い出しちゃって…」
私は肩を震わせて笑う。
「ああ、花嫁さんあんまり目に涙浮かべて笑わないで」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
今日は結婚式。
寿と私の。
挙式を終えて、これから披露宴が行われる。
ここは新郎新婦の控え室だ。
「いやぁ、挙式の堀田くんまじでヤバかったね。」
「まじでなんなんだよアイツ…なんで誰よりも号泣してんだよ。」
寿は頭を抱えながらも嬉しそうだ。
「そろそろ行きますよー」
「「はーい」」
私達は披露宴会場の扉の前にスタンバイする。
「……あー、そう言えば言うの忘れてたんだけどよ」
「なに?」
「その…き、綺麗だぜ」
「?!?!今?!このタイミング?!」
私はまた笑ってしまう。
「うるせぇーな…」
寿は顔を真っ赤にしている。
「寿もかっこいいよ!惚れ直した!」
「当たり前だろ?」
そこは照れないのかい…。
会場内からアナウンスの声が少しだけ外に聞こえてくる。
「あ、そろそろかな?」
「まなみ」
「ん?」
「幸せにするからな。誰よりも。」
「では、新郎新婦の入場ですーーー」
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