期待
空欄の場合は「まなみ」になります。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あぁーー!もう!早く大学生になりたい!!!!」
今日も暑い中、友達が叫ぶ。
「あはは、ね!早くなりたいね」
予備校の帰り道、仲のいい友達とこうして話をしながら帰るのが受験勉強の息抜きになっていた。
「ねえ、まなみ?」
「ん?」
「なんかいい事あった?」
「え?」
友達は歩いている私の前に立ちはだかり、じりじりと顔を近づけてくる。
「ちょっと、、、なに?!」
「なんかすごいいい顔してる。楽しそう。」
文字通り私はギクリとする。
さすが親友。
隠し事はできないのだ。
ーー昨日牧くんから電話があった。
「まなみーーー!電話よ!牧って人」
お母さんの声に私は自分の部屋を急いで出て、階段を転げ落ちるかのように下へ降りていく。
コードレスの受話器を取り、自分の部屋へともどった。
そして「ふぅ…」と一息付き、受話器を耳にあて「も、もしもし」と発する。
『あ、佐藤か?』
「う、うん。」
『こんな夜にすまないな。』
時計を見ると夜の9時。
牧くん律儀だな…。
「全然大丈夫だよ!…し、試合はどうだったの?」
私は新聞などの情報を一切遮断していた。
牧くんの口から聞きたかったから。
試合の結果を。
『残念ながら準優勝だ。』
受話器の向こうから聞こえる声で、牧くんの顔が想像できる。
きっと苦笑しているのだろう。
「おめでとう」
『えっ』
「何が残念ながら、なのかわかんないけど。準優勝、ホントにおめでとう!」
きっと牧くんは悔しいに決まっている。
だけど、ごめんね?
私は準優勝でも素直に嬉しいんだよ。
胸を張っていい事なんだよ?
すると耳元に「フッ」と牧くんの小さな笑う声が聞こえてきた。
『明日の夕方に帰る。会ってくれるか?』
私は受話器を持つ手にギュッと力を込め
「もちろん」
と答えた。
今日がその明日。
つまり今日、牧くんと会うのだ。
嬉しくないわけがない。
友達はニヤニヤした顔で私を見ている。
「何があったか知らないけど、これ以上暑くなられたら困るんだけどー??」
「なっ、何言ってんの…」
「はいはい、今度じっくり聞かせてよ?」
そう言いながら私のほっぺたをつねる。
友達と別れ、家に帰り、ちょっとでも気持ちを落ち着かせる為にシャワーを浴びる。
期待しちゃいけない、と何度も自分に言いかけた。
ハッキリ好きだとか、付き合ってほしいとか言われたわけじゃない。
ただ単に気の合う女友達だと思われているのかもしれない。
だけど、この胸の高鳴りを抑えることはできなかった。
牧くんとの待ち合わせ場所は公園だった。
二人で並んでアイスを食べた、あの公園。
先に着いたのは私だった。
1人でそっとあのベンチに座る。
夕方になっても暑さはなかなか引かず、じんわりと汗をかくぐらいだった。
「すまない、待ったか?」
大きな荷物をかかえ、牧くんが目の前にやってきた。
走ってきたのだろう、息がすこし切れている。
「え、牧くん家に帰ってないの?!」
「あぁ、真っ直ぐここに来た。少しでも早く会いたかったからな。」
そんなこと言われて胸が締め付けられない訳が無い。
期待しない訳が無い。
「牧くんは…ずるい」
「ずるい?」
私はベンチ座ったまま下を向き、ポツリと言う。
「私ばっかりドキドキさせられてる…」
「…誰にだ?」
「もう!牧くん以外いないじゃない!」
私は思わず下を向いてる顔をあげ、牧くんを見上げる。
優しい笑顔の牧くん。
「こっち向いたな。」
「やっぱりずるいじゃない…」
気付いた時には私は牧くんの腕の中。
ホントにずるい…。
そう思っていたのに、聞こえてくるのは牧くんの早い鼓動の音。
一緒、、、なんだ、私と。
牧くんもドキドキしてるんだ。
牧くんの背中に手を回し、きゅっと抱きしめ返す。
「あ」
ふいに牧くんが声を上げる。
私は牧くんの胸から顔を離し、牧くんの顔を見上げる。
「好きだ。」
出たよ。
最大級の爆弾が。
恥ずかしさのあまり牧くんから離れる。
「すまない、言い忘れていた。」
そんな事を言う牧くんが可愛くなって、私はプッと吹き出してしまう。
「い、言い忘れていたって…」
だんだんおかしくなってきて、クスクスと私は笑いが止まらなくなってしまった。
「何がそんなにおかしいんだ?」
牧くんはポンと私の頭に手を乗せ、納得のいかない表情をしている。
そういうとこ。
真面目で、ちょっと天然で、何に対しても真剣。
「そんな牧くんが大好きだよ」