欲心
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8月末日ーーーー
私は急ぎ足で神社までの道を歩いている。
やばい…緊張する。
今日は夏休み前にリョータくんと約束していたお祭りの日。
勢いであんな事言っちゃったけど、これって完璧デートじゃん!!!
今まで2人でこうして約束して会うことなんて1度もなかった。
「あっ、走ったら着崩れする…」
高校生にもなってけっこう本気で親にねだって買ってもらったもの。
それが今着ている浴衣。
もちろん自分が好きな色の物を選んだ。
だけど、頭の中では(リョータくんは何色が好きかな?)なんて思いながら選んだ浴衣。
『かわいい』
そんな贅沢な言葉、望んでなんて……
望んでます。めちゃくちゃ。
と、私は神社の鳥居の下で1人立っている人物に目を奪われる。
もちろんリョータくんだ。
あぁ、私服もやっぱりオシャレ。
私を待っているであろう、その姿にきゅぅぅっと胸が高鳴る。
今は、私だけを待っていてくれる。
そんな事を思うと私はもったいぶって先に進めなくなった。
もう少しだけ私を待っているリョータくんを眺めていたくて。
が、そんな時間は一瞬で終わってしまった。
リョータくんが私に気付いてしまったから。
「こ、こんばんは」
「おぅ」
なんだかお互いにぎこちない。
変な緊張感が二人の間にまとわりつく。
でもそれはほんの少し心地いいもので、妙にソワソワした。
「行くか」
「う、うん!」
……やっぱり浴衣の事は何も言ってくれないかぁ。
私たちは並んで歩き出した。
祭り会場はそれはもう大混雑。
少しでも目を離すとはぐれてしまいそうな、人の群れ。
グッ!!!
私は思わずリョータくんのTシャツの裾を掴んでしまった。
「ご!ごめん!!」
慌てて離す私にリョータくんは
「いいよ、掴んでなよ」
そう言って私の手を自分のTシャツの裾に持っていく。
「ありがとう…」
キュッと私は掴む。
自分の少し前を歩くリョータくんを見ながら
(このまま時間が止まればいいのに)
なんて乙女な事を私は思うのだった。
だけど、そんな時間は長く続かなかった。
「うわっぷ!」
いきなり立ち止まるリョータくん。
私はリョータくんの背中に顔をぶつける。
あ、、、なんか嫌な予感する。
そう、私のカンは当たるのだ。
リョータくんの視線の先には、彼が大好きなあの子。
知らない男の人と手を繋いでいるアヤちゃん。
私はリョータくんの腕を掴み反対方向へ歩き出す。
「おいっ!どこ行くってんだよ」
後ろから言うリョータくんを無視しながら。
着いた先は神社の裏。
周りを木で囲まれた人気の少ない場所。
ドンッ!!!
大きな音が鳴り、花火が始まった。
二人とも顔を上げる。
「すげぇな、ここ。穴場じゃん。」
「でしょ?下見したんだから!」
「ぷっ!下見?!まじかよ」
リョータくんは笑った後に少し困ったような笑顔で「ありがとな」と小さく言った。
そんな顔を見て改めて確信する。
私がリョータくんの心に入り込む隙間なんてない。
ーーー進まないと。
私もリョータくんも。
前に進まなきゃダメなんだ。
「リョータくんは冬の選抜まで部活やるの?」
「ん?あぁ、続けるぜ。大学も決まったしね。」
「そっか…」
「まなみちゃん?」
いつもと違う私の反応にリョータくんは不思議そうだった。
私はバッ!っとリョータくんを見る。
空を見ていたリョータくんもさすがに驚いて花火ではなく私に向き合う。
「リョータくん、今日はホントにありがとう!」
「え?あ、あぁ…」
「最高の思い出になったよ」
「何言って…」
私は自分の手をぎゅっと握り、拳を作る。
進むんだ。前に。
「最後にお願いしていい?」
「は?最後って…」
「浴衣、褒めてほしいな」
私は恥ずかしくてリョータくんの目を見れない。
今リョータくんがどんな顔をしているのか知りたいけれど、見れない。
むしろ恥ずかしすぎてこの場を去りたい。
だけど、、、
「似合ってる。かわいいよ」
あ。
ダメだ。泣きそう。
私は拳にグッと力を入れる。
それから真っ直ぐにリョータくんを見る。
そして、リョータくんの唇に小さなキスをする。
「ありがとう!バイバイ!」
リョータくんの反応を見る前に私はその場から走って逃げ去った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
3月1日
今日は卒業式。
滞りなく式は終わり、クラスでのホームールームも終わった今。
私が向かう先はただ一つ。
ガチャ…
少しの期待を胸に扉を開け、まだ冷たい風に顔をしかめる。
まぶしくて目を細めることもなく、目の前には誰もいない屋上の風景。
「…ですよねぇ」
私は先に進み、手すりに手をつく。
真っ青な青空を眺めながら、ひとつ大きく深呼吸をした。
そして「よしっ!」と気合を入れる。
「なんの気合だよ」
後ろから聞こえる声。
今いるこの場所の空気が一気に変わる。
私にとって特別な空間に変えてくれる。
そんな事ができるのはただ1人。
「勝手にファン辞めやがって。」
ブスっとした顔のリョータくん。
そう、私はあの夏祭り以降バスケ部の見学を一切辞めた。
リョータくんのクラスに行くことも。
前に進むために。
「なぁ」
リョータくんの声と共にこちらに何かがヒュッと飛んでくる。
反射的に私はそれをパシッと受け取る。
ゆっくり手のひらを開くとそこにあったのは、学ランのボタンだった。
私が顔を上げるといつの間にか目の前にいるリョータくん。
学ランの第二ボタンはなくなっている。
「コレ…」
「受け取ってくんね?」
私はこの状況に頭がついていかず何も言えずに、ただただ戸惑う。
「好きだよ。まなみちゃん。」
私の目を真っ直ぐに見るリョータくんは、今まで聞いたことのないような優しい声で私に言う。
「ははっ、つってももうおせーよな」
ギュッ!!!!
「うぉっ?!?!」
私は勢いよくリョータくんに抱きつく。
それはもうぎゅぅぅっと強く。
「私でいいの?!うるさいし、ガサツだし、頭だってよくな…」
私の言葉はリョータくんの優しいキスで遮られた。
両手で私の顔を包むリョータくん。
「俺が欲しいんじゃなかったの?」
ニヤッとした顔。
ずるい。
「欲しいに決まってるじゃん!だから長期戦覚悟して同じ大学受けたのに!!」
「え?」
夏祭りの日、前に進もうって決めた日から私の猛勉強が始まった。
リョータくんと同じ大学へ行く為に。
「だから部活も見にこなかったっての?」
「そうだよ!大学に入ってからが勝負だと思ったから、この数ヶ月ずっと、ずっと…」
言いかけて私はポロポロと泣き出してしまった。
今までの気持ちを吐き出すかのように涙は止まらない。
リョータくんに恋をして、楽しかった気持ち、嬉しかった気持ち、ドキドキした気持ち、辛かった気持ち、苦しかった気持ち。
「待たせてごめんね?」
リョータくんはそう言って私を再びぎゅっと抱きしめた。
「待ってないよ?だってずっと追いかけてたから。」
「やべぇな…俺、思った以上にまなみちゃんの事好きみたいだ」
「大歓迎です。」
2人で笑いながらまた口付けを交わす。
今までの時間を取り戻すかのように。
何度も何度も。
オマケの会話文→
私は急ぎ足で神社までの道を歩いている。
やばい…緊張する。
今日は夏休み前にリョータくんと約束していたお祭りの日。
勢いであんな事言っちゃったけど、これって完璧デートじゃん!!!
今まで2人でこうして約束して会うことなんて1度もなかった。
「あっ、走ったら着崩れする…」
高校生にもなってけっこう本気で親にねだって買ってもらったもの。
それが今着ている浴衣。
もちろん自分が好きな色の物を選んだ。
だけど、頭の中では(リョータくんは何色が好きかな?)なんて思いながら選んだ浴衣。
『かわいい』
そんな贅沢な言葉、望んでなんて……
望んでます。めちゃくちゃ。
と、私は神社の鳥居の下で1人立っている人物に目を奪われる。
もちろんリョータくんだ。
あぁ、私服もやっぱりオシャレ。
私を待っているであろう、その姿にきゅぅぅっと胸が高鳴る。
今は、私だけを待っていてくれる。
そんな事を思うと私はもったいぶって先に進めなくなった。
もう少しだけ私を待っているリョータくんを眺めていたくて。
が、そんな時間は一瞬で終わってしまった。
リョータくんが私に気付いてしまったから。
「こ、こんばんは」
「おぅ」
なんだかお互いにぎこちない。
変な緊張感が二人の間にまとわりつく。
でもそれはほんの少し心地いいもので、妙にソワソワした。
「行くか」
「う、うん!」
……やっぱり浴衣の事は何も言ってくれないかぁ。
私たちは並んで歩き出した。
祭り会場はそれはもう大混雑。
少しでも目を離すとはぐれてしまいそうな、人の群れ。
グッ!!!
私は思わずリョータくんのTシャツの裾を掴んでしまった。
「ご!ごめん!!」
慌てて離す私にリョータくんは
「いいよ、掴んでなよ」
そう言って私の手を自分のTシャツの裾に持っていく。
「ありがとう…」
キュッと私は掴む。
自分の少し前を歩くリョータくんを見ながら
(このまま時間が止まればいいのに)
なんて乙女な事を私は思うのだった。
だけど、そんな時間は長く続かなかった。
「うわっぷ!」
いきなり立ち止まるリョータくん。
私はリョータくんの背中に顔をぶつける。
あ、、、なんか嫌な予感する。
そう、私のカンは当たるのだ。
リョータくんの視線の先には、彼が大好きなあの子。
知らない男の人と手を繋いでいるアヤちゃん。
私はリョータくんの腕を掴み反対方向へ歩き出す。
「おいっ!どこ行くってんだよ」
後ろから言うリョータくんを無視しながら。
着いた先は神社の裏。
周りを木で囲まれた人気の少ない場所。
ドンッ!!!
大きな音が鳴り、花火が始まった。
二人とも顔を上げる。
「すげぇな、ここ。穴場じゃん。」
「でしょ?下見したんだから!」
「ぷっ!下見?!まじかよ」
リョータくんは笑った後に少し困ったような笑顔で「ありがとな」と小さく言った。
そんな顔を見て改めて確信する。
私がリョータくんの心に入り込む隙間なんてない。
ーーー進まないと。
私もリョータくんも。
前に進まなきゃダメなんだ。
「リョータくんは冬の選抜まで部活やるの?」
「ん?あぁ、続けるぜ。大学も決まったしね。」
「そっか…」
「まなみちゃん?」
いつもと違う私の反応にリョータくんは不思議そうだった。
私はバッ!っとリョータくんを見る。
空を見ていたリョータくんもさすがに驚いて花火ではなく私に向き合う。
「リョータくん、今日はホントにありがとう!」
「え?あ、あぁ…」
「最高の思い出になったよ」
「何言って…」
私は自分の手をぎゅっと握り、拳を作る。
進むんだ。前に。
「最後にお願いしていい?」
「は?最後って…」
「浴衣、褒めてほしいな」
私は恥ずかしくてリョータくんの目を見れない。
今リョータくんがどんな顔をしているのか知りたいけれど、見れない。
むしろ恥ずかしすぎてこの場を去りたい。
だけど、、、
「似合ってる。かわいいよ」
あ。
ダメだ。泣きそう。
私は拳にグッと力を入れる。
それから真っ直ぐにリョータくんを見る。
そして、リョータくんの唇に小さなキスをする。
「ありがとう!バイバイ!」
リョータくんの反応を見る前に私はその場から走って逃げ去った。
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3月1日
今日は卒業式。
滞りなく式は終わり、クラスでのホームールームも終わった今。
私が向かう先はただ一つ。
ガチャ…
少しの期待を胸に扉を開け、まだ冷たい風に顔をしかめる。
まぶしくて目を細めることもなく、目の前には誰もいない屋上の風景。
「…ですよねぇ」
私は先に進み、手すりに手をつく。
真っ青な青空を眺めながら、ひとつ大きく深呼吸をした。
そして「よしっ!」と気合を入れる。
「なんの気合だよ」
後ろから聞こえる声。
今いるこの場所の空気が一気に変わる。
私にとって特別な空間に変えてくれる。
そんな事ができるのはただ1人。
「勝手にファン辞めやがって。」
ブスっとした顔のリョータくん。
そう、私はあの夏祭り以降バスケ部の見学を一切辞めた。
リョータくんのクラスに行くことも。
前に進むために。
「なぁ」
リョータくんの声と共にこちらに何かがヒュッと飛んでくる。
反射的に私はそれをパシッと受け取る。
ゆっくり手のひらを開くとそこにあったのは、学ランのボタンだった。
私が顔を上げるといつの間にか目の前にいるリョータくん。
学ランの第二ボタンはなくなっている。
「コレ…」
「受け取ってくんね?」
私はこの状況に頭がついていかず何も言えずに、ただただ戸惑う。
「好きだよ。まなみちゃん。」
私の目を真っ直ぐに見るリョータくんは、今まで聞いたことのないような優しい声で私に言う。
「ははっ、つってももうおせーよな」
ギュッ!!!!
「うぉっ?!?!」
私は勢いよくリョータくんに抱きつく。
それはもうぎゅぅぅっと強く。
「私でいいの?!うるさいし、ガサツだし、頭だってよくな…」
私の言葉はリョータくんの優しいキスで遮られた。
両手で私の顔を包むリョータくん。
「俺が欲しいんじゃなかったの?」
ニヤッとした顔。
ずるい。
「欲しいに決まってるじゃん!だから長期戦覚悟して同じ大学受けたのに!!」
「え?」
夏祭りの日、前に進もうって決めた日から私の猛勉強が始まった。
リョータくんと同じ大学へ行く為に。
「だから部活も見にこなかったっての?」
「そうだよ!大学に入ってからが勝負だと思ったから、この数ヶ月ずっと、ずっと…」
言いかけて私はポロポロと泣き出してしまった。
今までの気持ちを吐き出すかのように涙は止まらない。
リョータくんに恋をして、楽しかった気持ち、嬉しかった気持ち、ドキドキした気持ち、辛かった気持ち、苦しかった気持ち。
「待たせてごめんね?」
リョータくんはそう言って私を再びぎゅっと抱きしめた。
「待ってないよ?だってずっと追いかけてたから。」
「やべぇな…俺、思った以上にまなみちゃんの事好きみたいだ」
「大歓迎です。」
2人で笑いながらまた口付けを交わす。
今までの時間を取り戻すかのように。
何度も何度も。
オマケの会話文→