諸恋
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最初に触れたのは指先だったーーー
コロコロと部活中の私の足元にひとつのバスケットボールが転がってきた。
もちろん私はそれを拾う。
「わり」
そう言って駆け寄ってきたのはわが校のスーパースター
【仙道彰】だった。
「はい」
私はなんの気もなしに仙道くんにボールを渡す。全然仙道くんの事なんて知りませんよー、ぐらいな顔を装う。
「ありがと」
仙道くんは私にお礼を言うと、部活に戻って行った。
少しだけ私の指先に触れて。
私が通っている中学は曜日によって体育館を使う部活が決まっている。
水曜日。
水曜日が私の一番好きな曜日。
男子バスケ部と、私が在籍している女子バレー部が半分半分で体育館を使う日。
仙道くんを知ったのは1年生の時。
圧倒的な技術を持った仙道くんにすぐに釘付けになった。
バスケ未経験の私でも「この人はすごい」ってわかるぐらい。
いつの頃からか毎週水曜日が楽しみになっていた。
そんな生活ももうあと少しで終わってしまう。
今は2年生の2月。
3年生になって、6月の中体連が終われば部活は引退。
うちのバレー部は全国へ行ける強豪ではないので、6月で終わりはほぼ確定。
それまでにどうにかお話ぐらいはしたいと毎日願っていた日々。
そう思っていた矢先の出来事だった。
「やっったぁ…」
私は思わずスキップをしたくなる自分を抑えて部活に戻った。
次に触れたのは背中だったーーー
「うわぁ、雪だ!」
部活帰りに外へ出ると東京では珍しい雪が降っていた。
私はテンションが上がり上を見て歩く。
ぼふっ!!
「うわっぷ…ご!ごめんなさい!!」
私は誰かの背中にぶつかった。
「あ」
嘘でしょ…。
「今度は俺があやまられた」
私の目の前にはニコッと笑った仙道くん。
しかも今度はってーーー
この間のこと覚えてたの??
「大丈夫??」
「あっ、大丈夫!大丈夫!」
「じゃあね」
それから仙道くんと目が合うことが増えた。
学校生活でも、部活でも。
勘違いなんかじゃない。
だって目が合うとニコッとしてくれる。
その度に私の心臓はいつもわしづかみにされる。
そんなのさ…期待しちゃうよね。
次に触れたのは手だったーーー
人生そんな簡単じゃない。
何事もなく、私は3年生になっていた。
3年生はクラス替えもないので、もちろん
仙道くんとは違うクラスのまま。
そんな中ひとつのチャンスが訪れた。
女バレVS男バスのバレー対決。
買った方がジュースをおごる。
顧問がお互いにいない日だからそこできるお遊びだった。
「これはマジだからな!!」
「絶対負けないわよ!!」
両キャプテンはメラメラと燃えている。
私だってバレー部として負けるつもりは1ミリもない。負けず嫌いだからね。
ーーーーーーーー
「はい、どうぞ」
まさかの仙道くんからのジュースを受け取る。
「あ、ありがとう。」
結果は見事私たち女バレの勝利。
でも、まさか仙道くんからもらえるなんて。
「さすがにバレー部は違うね」
はははと仙道くんは笑う。
「鍛えてますから」
私は緊張しながら答える。
「だいぶ遅くなっちゃったねー」
思いのほか試合が長引き、いつもの部活より帰りが遅くなっていた。
外は暗くなっている。
「送ってくよ」
えっ?!?!
思いもよらぬ仙道くんの一言に私は目が点になり、一言も発することができない。
「よし、行こ」
仙道くんは私の手を掴み走り出した。
「アイツらに知られたらメンドーだからね」
私たちはみんながまだ話してるのを横目に外へ出た。
手を繋ぎながら。
「あっ、あの仙道くん、てっ、手…」
仙道くんは繋がれている手を見たあとに、私の目を真っ直ぐに見て
「嫌?」
と聞いてきた。
ずるい。
「嫌、じゃないです。」
次に触れたのは唇だったーーー
それから私たちは水曜日の部活帰りに一緒に帰るようになった。
最初の方はコソコソしていたが、いつの間にか当たり前に帰るようになっていた。
だから周りからよく聞かれるようになった。
「仙道くんと付き合ってるの?」と。
「付き合ってないよ」
私は必ずこう答える。
だって付き合ってないもの。
一緒に帰るのは水曜日だけだし。校内でゆっくり話すこともない。
もちろん好きだと言われたこともない。
今日は水曜日。
もうお互いなんの約束もしなくても今日も一緒に帰るだろう、なんて思っていたのに。
「ちょっといい?」
私は男バスのキャプテンに声をかけられた。
誰もいなくなった体育館。
私はもはや聞き慣れたことを質問された。
「仙道と付き合ってるのか?」
またか、と私は思い、いつもの答えを言おうとした時ーーー
「付き合ってないよ」
うしろから声がした。
「仙道くん…」
うわ。
わかってはいたけど、直接言われるとこんなにキツイのか。
「でも」
仙道くんは私の隣に並び、男バスのキャプテンに向かってこう言った。
「俺は好きだよ」
私も男バスのキャプテンも開いた口が塞がらない。
「悪いね、先に言っちゃって」
キャプテンは「はぁ…」とため息をついて体育館を出ていった。
私と仙道くんは広い体育館に2人になった。
「今までハッキリしなくてごめんね?」
仙道くんはいつもの笑みを浮かべた。
私はポロポロと出てくる涙をおさえられなかった。
「好きっ…」
ひとこと言うのが精一杯だった。
仙道くんはそんな私にキスをした。
そして優しく抱きしめて
「知ってる。」と言った。
それからは幸せな毎日だった。
お互い部活は6月の中体連で引退。
でも、水曜日の約束は水曜日だけじゃなくなっていた。
「うぅーもう勉強嫌だよ」
受験まで1ヶ月。ここは学校の図書室。
私は勉強にてんてこ舞いになっていた。
「いいよねぇ、推薦でもう決まってる人はさー!」
ジロリと彼氏である仙道くんを睨む。
仙道くんはバスケで推薦が決まっていた。
「ははは、頑張れ、頑張れ。」
「でも、南高ならさ私が受ける西高と近いし嬉しいな!」
私は今から高校生活を想像して、まだ合格もしていないのに浮かれ気味で話す。
我ながら能天気だな。
「ははは、まず合格してくださいな」
仙道くんは私の頭をクシャっとする。
私はその大きな手にニヤつく。
「なぁ、明日土曜日だし学校帰り息抜きしねぇ?」
「えっ?」
「たまには甘いもんでも食いに行かない?」
「やった!!」
私はよしっ!と気合を入れてまた勉強を頑張る。
次の日、午前中で学校の授業が終わったので街へ繰り出す。
久々のデートで私はずっと笑っていた。
大好きな人と並んで歩く。
それだけで嬉しくて幸せな時間だった。
仙道くんもそうだと思っていた。
帰り道までは。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、只今の時刻は夜の7時を過ぎたところだった。
そろそろ解散か…なんてしょんぼりしていると
「ちょっと公園でもよってこーか?」
なんて仙道くんからの提案。
私はもちろん大きく頷く。
しかしさすがに2月は寒い。
私は仙道くんの腕をがっちり掴む。
と、仙道くんの様子がおかしい。
いつもはしゃぐタイプではないし、おしゃべりな訳でもないけれど…
何か深く思い込んでいるような、そんな様子だった。
「あのさ」
「……ん?」
「俺、南高校じゃないんだ」
「え?」
仙道くんは申し訳なさそうな顔でこちらを向く。
私は仙道くんの腕をゆっくりと離した。
「え?南じゃないって…どこ行くの?」
嫌な予感を胸にしまって聞く。
だけど、声は震えていたと思う。
「神奈川。家は出るよ。」
何も言えなかった。
東京と神奈川。
大した距離じゃないと言われればそうかもしれない。
ただ今まで近くにい過ぎた私たちにとっては、とても辛い距離なのはまるわかりだ。
ましてやまだまだ子供の私たち。
「なんでもっと早く言わなかったの?」
「悪い…言えなかった。」
「そっか…」
私はそれ以上何も言えなかった。
終わりだった。
お互い「別れよう」の一言はなかった。
言わなくても終わりなのは2人ともわかっていたから。
遠距離恋愛っていう選択肢がないのも2人ともわかっていた。
泣いてすがって「行かないで」って言えばよかった?
そんな事中学生の私に言えるはずもない。
泣いている暇なんてなかった。
まったく泣かなかった訳では無い、だけどそれ以上にガムシャラに受験勉強をした。
意外と強いんだな、私。なんて思っていたりもした。
3月、卒業式。
それから仙道くんとは一言も話すことはなかった。
このまま会うこともないのかな、なんて思っていたその時。
前から仙道くんがこちらに歩いてきた。
「よっ」
1ヶ月ぶりに話す仙道くんは少し寂しそうな笑顔をしていた。
そんな仙道くんの姿を見て私は驚いた。
「さ、さすがだね!ボタン全部ないじゃん!」
仙道くんの学ランのボタンは全部なくなっていたのだ。
「ははは、まいったよ」
すると仙道くんはポケットから何かを取り出して私の手に握らせた。
「え、これって」
「第二ボタンってやつ?」
仙道くんはニコッといつもの笑顔をする。
「遅くなったけど、合格おめでとう」
私はざわめく心をおさえて
もらった第二ボタンを仙道くんの目の前に差し出した。
「仙道くんも!おめでとう。バスケ頑張ってね!!ずっと応援してるから!!」
精一杯の笑顔で。
仙道くんは少しだけ驚いた顔をしたけど、
納得したような顔をして第二ボタンを私の手から受け取った。
そして「ありがとう」と言って去っていった。
そんな仙道くんの後ろ姿を見送って私はその場で泣き崩れる。
こんなに後から後から溢れ出てくる涙は初めてで、それでも周りの目も気にせずに…。
最後に触れたのは指先だったーーー。
コロコロと部活中の私の足元にひとつのバスケットボールが転がってきた。
もちろん私はそれを拾う。
「わり」
そう言って駆け寄ってきたのはわが校のスーパースター
【仙道彰】だった。
「はい」
私はなんの気もなしに仙道くんにボールを渡す。全然仙道くんの事なんて知りませんよー、ぐらいな顔を装う。
「ありがと」
仙道くんは私にお礼を言うと、部活に戻って行った。
少しだけ私の指先に触れて。
私が通っている中学は曜日によって体育館を使う部活が決まっている。
水曜日。
水曜日が私の一番好きな曜日。
男子バスケ部と、私が在籍している女子バレー部が半分半分で体育館を使う日。
仙道くんを知ったのは1年生の時。
圧倒的な技術を持った仙道くんにすぐに釘付けになった。
バスケ未経験の私でも「この人はすごい」ってわかるぐらい。
いつの頃からか毎週水曜日が楽しみになっていた。
そんな生活ももうあと少しで終わってしまう。
今は2年生の2月。
3年生になって、6月の中体連が終われば部活は引退。
うちのバレー部は全国へ行ける強豪ではないので、6月で終わりはほぼ確定。
それまでにどうにかお話ぐらいはしたいと毎日願っていた日々。
そう思っていた矢先の出来事だった。
「やっったぁ…」
私は思わずスキップをしたくなる自分を抑えて部活に戻った。
次に触れたのは背中だったーーー
「うわぁ、雪だ!」
部活帰りに外へ出ると東京では珍しい雪が降っていた。
私はテンションが上がり上を見て歩く。
ぼふっ!!
「うわっぷ…ご!ごめんなさい!!」
私は誰かの背中にぶつかった。
「あ」
嘘でしょ…。
「今度は俺があやまられた」
私の目の前にはニコッと笑った仙道くん。
しかも今度はってーーー
この間のこと覚えてたの??
「大丈夫??」
「あっ、大丈夫!大丈夫!」
「じゃあね」
それから仙道くんと目が合うことが増えた。
学校生活でも、部活でも。
勘違いなんかじゃない。
だって目が合うとニコッとしてくれる。
その度に私の心臓はいつもわしづかみにされる。
そんなのさ…期待しちゃうよね。
次に触れたのは手だったーーー
人生そんな簡単じゃない。
何事もなく、私は3年生になっていた。
3年生はクラス替えもないので、もちろん
仙道くんとは違うクラスのまま。
そんな中ひとつのチャンスが訪れた。
女バレVS男バスのバレー対決。
買った方がジュースをおごる。
顧問がお互いにいない日だからそこできるお遊びだった。
「これはマジだからな!!」
「絶対負けないわよ!!」
両キャプテンはメラメラと燃えている。
私だってバレー部として負けるつもりは1ミリもない。負けず嫌いだからね。
ーーーーーーーー
「はい、どうぞ」
まさかの仙道くんからのジュースを受け取る。
「あ、ありがとう。」
結果は見事私たち女バレの勝利。
でも、まさか仙道くんからもらえるなんて。
「さすがにバレー部は違うね」
はははと仙道くんは笑う。
「鍛えてますから」
私は緊張しながら答える。
「だいぶ遅くなっちゃったねー」
思いのほか試合が長引き、いつもの部活より帰りが遅くなっていた。
外は暗くなっている。
「送ってくよ」
えっ?!?!
思いもよらぬ仙道くんの一言に私は目が点になり、一言も発することができない。
「よし、行こ」
仙道くんは私の手を掴み走り出した。
「アイツらに知られたらメンドーだからね」
私たちはみんながまだ話してるのを横目に外へ出た。
手を繋ぎながら。
「あっ、あの仙道くん、てっ、手…」
仙道くんは繋がれている手を見たあとに、私の目を真っ直ぐに見て
「嫌?」
と聞いてきた。
ずるい。
「嫌、じゃないです。」
次に触れたのは唇だったーーー
それから私たちは水曜日の部活帰りに一緒に帰るようになった。
最初の方はコソコソしていたが、いつの間にか当たり前に帰るようになっていた。
だから周りからよく聞かれるようになった。
「仙道くんと付き合ってるの?」と。
「付き合ってないよ」
私は必ずこう答える。
だって付き合ってないもの。
一緒に帰るのは水曜日だけだし。校内でゆっくり話すこともない。
もちろん好きだと言われたこともない。
今日は水曜日。
もうお互いなんの約束もしなくても今日も一緒に帰るだろう、なんて思っていたのに。
「ちょっといい?」
私は男バスのキャプテンに声をかけられた。
誰もいなくなった体育館。
私はもはや聞き慣れたことを質問された。
「仙道と付き合ってるのか?」
またか、と私は思い、いつもの答えを言おうとした時ーーー
「付き合ってないよ」
うしろから声がした。
「仙道くん…」
うわ。
わかってはいたけど、直接言われるとこんなにキツイのか。
「でも」
仙道くんは私の隣に並び、男バスのキャプテンに向かってこう言った。
「俺は好きだよ」
私も男バスのキャプテンも開いた口が塞がらない。
「悪いね、先に言っちゃって」
キャプテンは「はぁ…」とため息をついて体育館を出ていった。
私と仙道くんは広い体育館に2人になった。
「今までハッキリしなくてごめんね?」
仙道くんはいつもの笑みを浮かべた。
私はポロポロと出てくる涙をおさえられなかった。
「好きっ…」
ひとこと言うのが精一杯だった。
仙道くんはそんな私にキスをした。
そして優しく抱きしめて
「知ってる。」と言った。
それからは幸せな毎日だった。
お互い部活は6月の中体連で引退。
でも、水曜日の約束は水曜日だけじゃなくなっていた。
「うぅーもう勉強嫌だよ」
受験まで1ヶ月。ここは学校の図書室。
私は勉強にてんてこ舞いになっていた。
「いいよねぇ、推薦でもう決まってる人はさー!」
ジロリと彼氏である仙道くんを睨む。
仙道くんはバスケで推薦が決まっていた。
「ははは、頑張れ、頑張れ。」
「でも、南高ならさ私が受ける西高と近いし嬉しいな!」
私は今から高校生活を想像して、まだ合格もしていないのに浮かれ気味で話す。
我ながら能天気だな。
「ははは、まず合格してくださいな」
仙道くんは私の頭をクシャっとする。
私はその大きな手にニヤつく。
「なぁ、明日土曜日だし学校帰り息抜きしねぇ?」
「えっ?」
「たまには甘いもんでも食いに行かない?」
「やった!!」
私はよしっ!と気合を入れてまた勉強を頑張る。
次の日、午前中で学校の授業が終わったので街へ繰り出す。
久々のデートで私はずっと笑っていた。
大好きな人と並んで歩く。
それだけで嬉しくて幸せな時間だった。
仙道くんもそうだと思っていた。
帰り道までは。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、只今の時刻は夜の7時を過ぎたところだった。
そろそろ解散か…なんてしょんぼりしていると
「ちょっと公園でもよってこーか?」
なんて仙道くんからの提案。
私はもちろん大きく頷く。
しかしさすがに2月は寒い。
私は仙道くんの腕をがっちり掴む。
と、仙道くんの様子がおかしい。
いつもはしゃぐタイプではないし、おしゃべりな訳でもないけれど…
何か深く思い込んでいるような、そんな様子だった。
「あのさ」
「……ん?」
「俺、南高校じゃないんだ」
「え?」
仙道くんは申し訳なさそうな顔でこちらを向く。
私は仙道くんの腕をゆっくりと離した。
「え?南じゃないって…どこ行くの?」
嫌な予感を胸にしまって聞く。
だけど、声は震えていたと思う。
「神奈川。家は出るよ。」
何も言えなかった。
東京と神奈川。
大した距離じゃないと言われればそうかもしれない。
ただ今まで近くにい過ぎた私たちにとっては、とても辛い距離なのはまるわかりだ。
ましてやまだまだ子供の私たち。
「なんでもっと早く言わなかったの?」
「悪い…言えなかった。」
「そっか…」
私はそれ以上何も言えなかった。
終わりだった。
お互い「別れよう」の一言はなかった。
言わなくても終わりなのは2人ともわかっていたから。
遠距離恋愛っていう選択肢がないのも2人ともわかっていた。
泣いてすがって「行かないで」って言えばよかった?
そんな事中学生の私に言えるはずもない。
泣いている暇なんてなかった。
まったく泣かなかった訳では無い、だけどそれ以上にガムシャラに受験勉強をした。
意外と強いんだな、私。なんて思っていたりもした。
3月、卒業式。
それから仙道くんとは一言も話すことはなかった。
このまま会うこともないのかな、なんて思っていたその時。
前から仙道くんがこちらに歩いてきた。
「よっ」
1ヶ月ぶりに話す仙道くんは少し寂しそうな笑顔をしていた。
そんな仙道くんの姿を見て私は驚いた。
「さ、さすがだね!ボタン全部ないじゃん!」
仙道くんの学ランのボタンは全部なくなっていたのだ。
「ははは、まいったよ」
すると仙道くんはポケットから何かを取り出して私の手に握らせた。
「え、これって」
「第二ボタンってやつ?」
仙道くんはニコッといつもの笑顔をする。
「遅くなったけど、合格おめでとう」
私はざわめく心をおさえて
もらった第二ボタンを仙道くんの目の前に差し出した。
「仙道くんも!おめでとう。バスケ頑張ってね!!ずっと応援してるから!!」
精一杯の笑顔で。
仙道くんは少しだけ驚いた顔をしたけど、
納得したような顔をして第二ボタンを私の手から受け取った。
そして「ありがとう」と言って去っていった。
そんな仙道くんの後ろ姿を見送って私はその場で泣き崩れる。
こんなに後から後から溢れ出てくる涙は初めてで、それでも周りの目も気にせずに…。
最後に触れたのは指先だったーーー。
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