慕情
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「えっ?!ちょ、ちょっともう1回言って?」
「だから!洋平くんと付き合う事になった」
「えぇぇぇぇぇぇーー?!?!」
私はたぶん高校に入学してから1番の大声を出した。
今はお昼休み、お弁当を食べているクラスメイト達はみんなこちらを見る。
慌てて私は手で口を塞ぐ。
「久々にあんたのそんなおっきい声聞いたわ」
中学生の頃からの友人であるひとみは大きな口で卵焼きをほおばりながら言う。
「だっ、だってひとみって流川君のこと好きなんじゃなかったの?」
私は先程の反省を踏まえ、ヒソヒソと小さな声で話をする。
「んー?まあ、そんな時期もあったね」
「えぇ…?だって流川君目当てでバスケ部見に行ってたんじゃないのぉ??」
入学式に一目惚れしたからと言って、バスケ部(流川君)の練習を見に行くのをほぼ毎日付き合わされていた私は呆れる。
今はもう7月だから、3ヶ月ぐらい練習を見に行ってるし、試合も見に行っている。
「まぁまぁ、そのおかげで桜木花道とも顔見知りになれたんじゃない。」
「っ?!」
桜木花道ーーー私の好きな人。
見た目は真っ赤な坊主頭のどヤンキー。
でも、ホントは純粋で頑張り屋な人。
来月インターハイへ行くバスケ部員。
そして晴子ちゃんに片想いしている人。
私が初めて桜木君を見たのは赤木さんと勝負をしていた体育館。
その時の桜木君のダンクは今でも目に焼き付いている。
でも、それがきっかけで好きになったわけじゃない。
桜木君の晴子ちゃんに対する真っ直ぐな想いを目の当たりにして、「こんな風に想われたい」って思っていたらあっという間に私が好きになっちゃったんだ。桜木君の事。
「皮肉…」下を向きポツリと呟く。
「まなみさん?」
私は大好きな声が聞こえてきて慌てて前を向く。
「ビックリしました!泣いているのかと思って。」
「えっ?!な、泣いてないよ!」
ホントはちょっと泣きたくもなるけど。
「よかった!!」
桜木君はパッと顔を笑顔にして練習に戻って行った。
いつの間にか放課後のバスケ部見学が日課になってるなぁ…。
今日なんてひとみいないのに。
そろそろ終わるし帰ろうかな。
くるっと後ろを向いて体育館を後にしようとした時ーーー
「あっ!!まなみさん!!」
桜木君に大きな声で呼ばれた。
一瞬ホントに私の事を呼んだのかわからなくなり、軽くパニックになる。
「送って行きますんで!もう少し待っててもらえますか?!」
「えっ…」
私は驚いてなんの返事も出来ないでいた。
桜木君はニッと笑って再び練習に戻る。
嘘みたい嘘みたい。
私今、桜木君と2人で下校してる!!!
緊張して全然話せない…けど、
桜木君もちょっと緊張しているように見えるのは気のせい?
「あ、そういえば聞きましたか?!洋平とひとみさんのこと!」
「聞いたよー!ビックリした!!早速今日デートって言ってたよ。」
「で、で、デート?!」
「あっ、桜木君もしかして洋平君に頼まれた?私の事送ってくれって。」
2人がデートなら私が今日1人なのわかってたもんね。
「え?!あ、そ、そうなんですよ!あはは」
こんな夢みたいなことある?
私は今にでも空に飛んでいきそうな気分だった。だけどーーー
「そういえば今日晴子さん来てました?」
真っ暗な海に落とされた気分だった。
「あ、えっと、そういえば来てなかった…かな」
私は這い上がれない。真っ暗な海の底へどんどん沈んでいく。
ダメだ…泣きそ。
「さ、桜木君!!ここでもう大丈夫だよ!」
「えっ?!」
「うちすぐそこだから!ありがとね!」
私は桜木君の顔を見ないで走り出した。
家に着いた私はバタバタと自分の部屋へ直行する。
「ご飯は?」
とお母さんに聞かれて「いらない」と一言言うのが精一杯だった。
桜木君の晴子ちゃんへの想いなんてずっとわかっていた事。
それなのに浮かれて…バカだなぁ。
そして私は気付いた。
「こんなに涙が出るぐらい好きになってたんだ…」
「どうしたの?!その顔!!」
次の日私はひとみにビックリされる。
一晩中泣き腫らして寝れなかった私の顔は大変な事になっていた。
「まあ、色々あるよねぇ…」
私は話すとまた泣いてしまいそうで、言いたいけど言えなかった。
「よし!買い出し行こうか!」
今は学校祭の準備中。
授業はなく、みんな各々準備をすすめている。
「ひとみ…」
ひとみはニコッと笑って私の手を引く。
私はその優しさですでに涙目になる。
「桜木君て、晴子ちゃんの事まだ好きの?」
私達はコンビニまでの道のりを歩いている。
一部始終を話し終えた後にひとみからのまさかの一言に私は一瞬黙った。
「…い、いやいやいや!大好きでしょ!」
「ふぅん…でも人の気持ちって変わるよね。良くも悪くも。」
確かに流川君から洋平君へ気持ち変わったもんね、とは言わなかった。
「そう言えばさ、洋平君にはなんて告白したの?」
「えっ」
the肉食系のひとみの事だ。
好きになったとわかった途端に告白したに違いない。
「い、いや!私の事はいいよ!!」
??珍しい反応だな。
「告白しないの?」
私はピタリと足を止めた。
告白??
「考えた事もなかった。」
「まじか」
「だって好きな人がいる相手に告白してどうするの?絶対ふられるじゃん。」
するとひとみは少し考えて
「吹っ切るため?」と答えた。
そしてさらに
「あとはわずかな可能性にかけてみる」と言った。
「可能性?」
「たぶんさ、桜木君あんたのこと嫌いではないでしょ。送ってくれるんだし。そのわずかな可能性にかけてみる。」
「…ポジティブ」
「あはは、ポジティブの塊の私が、ネガティブの塊のあんたに言ってもダメか。」
ひとみは笑いながら私の肩を叩く。
再び歩き出す私たち。
「でもさ、真面目に考えてみたら?人生初の告白。」
告白ーーーー。
考えただけで心臓が止まりそうだった。
学校祭の準備期間中は全部の部活が休止。
昨日の事もあり、元々バスケ部見学には行かないつもりだった。
それなのに。。。
なんで会っちゃうかなぁぁぁ?!?!
私は偶然廊下で桜木君と洋平君にばったり出会う。
「ようまなみちゃん」
洋平くんが手を上げて話しかけてくる。
「ど、どうも」
私はうまく桜木君の顔を見る事ができない。
「あ、あのまなみさん!昨日…」
「あっ、ごめん!私あっちで準備しなきゃなんだ!またね!」
私は桜木君の言葉を遮ってその場を去った。
そのまま中庭へと辿り着く。
そしてその場にヘナヘナと座り込んだ。
「わざとらしぃー」
「ほんとにな」
頭の上から声がして慌てて上を向く。
そこには校舎の窓から顔を出す洋平君がいた。
「な、なんでここに?」
「さあ、偶然じゃね?」
私はそんな訳ない、と思ってクスっと笑ってしまう。
「ひとみはいい彼氏ができたね。」
「ホントにひとみちゃんの事落とすの大変だったからなー」
え?!
洋平君の意外すぎる言葉に私は口をあんぐりさせた。
「えっ?!洋平君、告白されたんじゃないの??ひとみに!」
「え?!俺からだぜ?告白したの。」
私は信じられなかった。
「しかも最初に告白したのけっこう前。
俺頑張ったなー。」
「だからはぐらかしたのか…」
いつも自分からガンガンいく子だから、きっと恥ずかしかったんだろうな。
そう思うと私はニヤニヤしてしまう。
「ひとみちゃんさ、流川の事好きだったろ?それでもさ絶対手に入れたかったんだよね。」
「なんで告白しようと思ったの?」
「なんで…なんでだろうな?逃したくなかったのかなー。人の気持ちって変わるから、その気持ち絶対変えてみせるって。」
「…同じ事言ってる。」
「ん?」
「ううん!こっちの話!」
今日は学校祭最終日。
後夜祭の真っ只中。グラウンドの真ん中には小さいけれど、キャンプファイヤーがある。
「花火まだー??早く洋平君と見たいんだけどぉぉ」
隣のひとみは唇を尖らせている。
「もうちょい待ちなさい。」
私はクスクス笑いながら言う。
「てかさ、桜木君と見れるんじゃない?」
「えっ?」
「だって私洋平君と見るし、まぁほかの3人も付いてくると思うけど。」
えっ?!えっ?!自然な流れで見れちゃう?
私は嬉しいような、気まずいような。。。
色んな感情に押しつぶされそうになる。
「あ」
噂をすれば向こう側に桜木軍団の姿を発見する。
私達に気付いた軍団はこちらへ向かってくる。
「桜木君!」
そこへ晴子ちゃんが桜木君に声をかけた。
「晴子さん!」
桜木君は嬉しそうに晴子ちゃんに駆け寄る。
見慣れている光景のはずなのに。
私の心は苦しくてはち切れそうだった。
「まなみ…」
ひとみに声をかけられた瞬間キャンプファイヤーの火や、学校の電気が消えた。
そして花火が始まった。
「ちょっとトイレ行ってくるね。」
私はそう言って走り出した。
後ろから私を呼ぶ声がした気がしたけど、そのまま走った。
誰もいない校舎裏。
「っく…ひっく…」
私はその場で泣いた。
次から次へと出てくる涙を止めることができなかった。
私には吹っ切る勇気もないし、少しの可能性にかける勇気もない。
ただ何もできないくせに、一丁前に傷ついている。
「まなみさん!!」
私は後ろから聞こえてる声に驚いて振り向く。
「桜木君…」
「どっ、どうして泣いているんですか」
桜木君は走ってきてのか息が切れている。
慌てて後ろを向く私。
「な、泣いてないよ!」
…バッチリ顔見られたから嘘だって丸わかりだよね。
「洋平とひとみさんが…きっと泣いてるって…俺のせいだって」
「?!」
あの2人は一体何を言ったの?!
「違うの!違う…自分の不甲斐なさに…ってゆーか泣いてないし!!」
「まなみさん!好きです!!」
桜木君のいきなりの言葉に私は驚きのあまり涙が止まる。
「この天才についてきてくれませんか?!」
私はゆっくりと桜木君の方を向く。
「え?だって…晴子ちゃんは?」
「は、晴子さんはその…かなり前のこと…というか…憧れというか…」
桜木君はバツが悪そうにモゴモゴと言う。
「俺が今好きなのはまなみさんだけです!」
「え?え?なんで?」
「なんで、と言われましても…」
うっすら見える桜木君の顔は耳まで真っ赤になっている。
「いつも練習や試合、見てくれてましたよね?この天才のこと。」
「?!?!」
気付かれてた?!?!
「そっ、それからまなみさんを見るとドキドキするというか…嬉しくなるというか。大好きなんです!」
桜木君の真っ直ぐな瞳に私は目を背けるとこはできない。
「桜木君…」
「はっ、はいっ?!」
「人の気持ちって、良くも悪くも変わるんだよね。」
「え?」
「でも、今のその気持ち…変わらないでいてくれる?」
「当たり前じゃないですか!!」
私はまたポロポロと涙が出てきた。
「好き、桜木君。大好き。」
ガバッ!!
「?!」
桜木君は私を強く抱きしめる。
「あのっ、そろそろ泣き止んでもらえますか?」
「いいじゃない、これは嬉し涙だもん。」
私は桜木君の背中をキュっと掴んだ。
桜木君は一瞬体をビクッとさせたが、今度は私を優しく抱きしめ直してくれた。
「嘘だろ…あの花道がだぜ?」
「花道に先越されたとか…」
私達は後ろから声が聞こえてきてバッと離れる。
校舎の影に隠れて覗いているのはもちろん、桜木軍団とひとみだった。
「て、てめぇらァァァ!!」
「やべぇ逃げろ!!!」
桜木君は逃げる軍団たちを追いかける。
「よかったね、まなみ」
「ひとみ…」
私はひとみに抱きつく。
「まあ、私は知ってたんだけどねー」
え?
「桜木君がまなみの事好きだって」
「えぇぇぇぇ?!?!」
「洋平君から聞いてたし」
「じゃあなんで言ってくれなかったのぉ?!」
私はひとみの肩を掴んでぶんぶんと体を揺する。
「言わなくても大丈夫だったろ?」
横から洋平君がおでこをさすりながら話す。
桜木君の頭突きを食らったのだろう。
「あんた達なら自分達でどうにかするって思ったの。」
ひとみはニコッと笑う。
「あと、桜木君にとって晴子ちゃんは恩人なんだって!」
「恩人?」
「晴子ちゃんが言ったみたいよ?『まなみちゃんはよく桜木君の事見てるね』って。そこから意識し始めたって桜木君。」
「私そんなにバレバレだったのかな…」
一気に顔が赤くなっていくのがわかる。
「いやぁ、桜木君だって晴子ちゃんに言われなきゃ気付いてなかったんじゃない?だから、晴子ちゃんが鋭いのかもね!ああ見えて!」
「だから、花道にとって気付かせてくれた晴子ちゃんは恩人なわけ」
それでいつもあんなに嬉しそうに話をしていたのか…。
「まなみさん!」
全員に頭突きを食らわせた桜木君は私の元へ戻ってきた。
私は自然に顔がほころぶ。
「なんだか嬉しそうですね?」
「だって桜木君が私の事…す、す…」
ダメだ…恥ずかしくてこれ以上は言えない。
すると桜木君は私の手をギュッと握って
「大好きです!」と笑顔で言う。
「は、反則…」
私は大きな大きな手をギュッと握り返す。
そして桜木君を見てニコッと笑う。
桜木君は耳まで真っ赤になる。
こんな日が来るなんて思わなかった。
こんな桜木君が見れるなんて思わなかった。
この日を私はーーー私達は一生忘れないだろう。
花火は見損ねちゃったけど、花火よりも輝く2人の物語がここから始まる。
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