愛屋及鳥
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え?!え?!そんなに切るの?!
大丈夫ですか?!?!嘘でしょ?!?!
そんな悲痛な思いの私の声はなぜか喉の奥へと沈んでいき、言葉として外に出すことが出来ない。
美容師さんはニコニコと営業スマイルでジャキン!!と勢いよく私の髪の毛をバッサリとハサミで切った。腰近くまであった私の髪の毛はなんと耳たぶの下の長さで切りそろえられてしまったのだ。
そもそも今日はヘアカラーをしに来ただけで、カットの予定は一切無く、もちろんその旨は美容師さんにも伝えていたはず……。
それなのにどうしてこんなことに……せっかく、せっかくここまで伸ばしてきたのに。絶望という名の暗闇へと突き落とされたその時ーーーー
~♪~♪~♪~♪~
毎朝聞こえてくる決まった音で私はハッと目を覚ます。暗闇から一転、朝の陽の光がチリチリと眩しい。聞こえてきたその音は枕元に置いてあるスマホから毎朝流れてくるアラームで、私は画面を見なくてもいつもの感覚で画面をタップする。そして慌てて身体を起こし、自分の髪の毛をガシッと掴み、長さを確認した。
「ゆ…夢ぇ~」
昨日と変わりのない髪の毛を確認した私は心底ホッとした。ーと、思わず声をあげてしまった私は口を手で塞ぎ、そっと隣を見る。
起こしてないよね?
そこには身体をこちらに向けて寝ている男性、私の彼氏であるリョータくんの姿があった。
まだ寝ているリョータくんを見て、今日2度目の安堵をした私は静かにベッドから降りて、寝室を出る。
「……髪、髪の毛を切る」
寝室から洗面所へと向かう途中、私はスマホでポチポチと調べ物をする。そう、夢占いです。
が、3分後…私は調べたことを後悔した。
「……は?」
画面に映し出された夢占いの結果はこうだった。
『恋愛面で別れや悲しいが起こる前ぶれです。ショックをうけるかも』
「まひ……?!」
歯ブラシを咥えながら声にならないまぬけな声をあげる。ツーと、口から歯磨き粉と混じったヨダレが出てきそうになり、慌てて洗面台にそれを吐き出した。憂鬱な気持ちも一緒に吐き出したかったのだが、どうやらそれは出来なかったようだ。
化粧をしている最中も、ヘアセットをしている最中も先程の占い結果が私の頭のでウヨウヨと漂い泳いでいる。
気にしすぎと言われればそれまでかもしれないが、今の私にとって同棲中の彼氏であるリョータくんは何よりも誰よりも大切な存在で、絶対に彼を失いたくない。それゆえに恋愛面で悪いことなんて絶対に起きて欲しくないのだ。
「はぁ…」
キッチンでゴクゴクとお水を飲んだあとに、本日何度目かわからない大きなため息をついた。まだ一日がはじまったばかりだというのに……まだ水が残っているペットボトルを冷蔵庫へ戻したその時リョータくんが寝室からリビングへとやって来た。
「まなみちゃん、おはよっ」
「……おはよ」
朝の日差しよりも眩しいニコニコの笑顔で挨拶をしてくれるリョータくんとは対照的に、どんよりと沈んだ声を出してしまった自分に私は自己嫌悪し、更に気分は落ち込んでしまう。
「どうしたの?」
リョータくんは嫌な顔は何一つせず、むしろ心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
「……実はね」
2人分のコーヒーを用意しながら私は夢の内容、そしてその夢占い結果が最悪だったことを話した。
我ながらいい歳をして占い結果で落ち込むなんて恥ずかしいけど、リョータくんはそんな事をバカにして笑うような人じゃない。きっと優しく慰めてくれるはず。ーーーと思っていた。
「…………」
「…………」
我が家のダイニングにモヤモヤと気まずい沈黙が流れる。まるで灰色の空気が目に見えるように。
もしかしたら同棲をしてからはじめての事かもしれない。いつもリョータくんが我が家を明るくしてくれていた。私を大切にしてくれて、笑顔を絶やさず楽しい生活を送らせてくれたのだ。
その彼がダイニングテーブルのイスに座り、深刻そうな顔で黙って私がいれたコーヒーを眺めている。リビングからテレビでやっている天気予報の声だけがやけに遠くから聞こえてくるようだ。
「あの…リョータくん?」
この重い空気に耐えきれなくなった私は、おずおずと向かい合わせになっているリョータくんに声をかける。
「ごめん…」
「え」
どうしてリョータくんが謝るの?
謝らなきゃいけないことでもあるの?
占い結果が……本当になるってことなの?
夢のように喉の奥に言葉が詰まって、言いたいことが口に出せない。私が不安に駆られているとリョータくんは下を向きながらくつくつと肩を震わせはじめた。そして堪えていたものを我慢できなくなったかのように「あはははは」と大きな声で笑い出す。
「ごめん、笑いこらえられなかった。それ可愛すぎない?!ずるいよまなみちゃん」
…………は?
え?なんの話し?今私たちはなんの話をしていたの?笑いどころなんてあった?数々のはてなマークが私の頭の中をビュンビュンと何個も猛スピードで駆け抜けていく。
「占い結果が心配でそんなに落ち込んだの?」
「だっ、だって……」
「だって、なに?」
リョータくんはテーブルの上に置いていた私の手の上に自分の手を重ねた。
「そこまでオレのこと大事に想ってくれてるってことでしょ?可愛いすぎだよ」
目を細め、嬉しそうに微笑むリョータくんの表情にドキッとしながらも、なんだか私は少しだけ悔しくなってしまう。
「あぁ~、でもそれってオレのせいかも」
「どういうこと?」
「オレさ、最近思ってたんだよね……髪の毛短いまなみちゃんも見てみたいなぁって」
優しく私の髪の毛を手ですくいながらリョータくんは言った。
「だからきっとその想いが伝わっちゃったんだね」
笑いながらそうに言ったあと、彼は目の前のマグカップを手に持ち、コーヒーを飲み始めた。そして、呆気に取られ何も言えないでいた私に、恥ずかしそうに声をかけてくる。
「いやまなみちゃん、ここ笑うとこだよ?」
「……私バカだね」
「え?!まなみちゃん?!泣いてるの?!」
ポタポタとテーブルの上に落ちるのは私の涙だ。ガタッ!!と、大きな音ともにリョータくんはイスから立ち上がり、向かいに座っている私の元へとやってくる。それから優しく包み込むようにイスに座っている私を抱きしめた。
「どうしたの?オレとのことでホントになんか不安あるの?」
「ちがっ、違うの!コレは色んな思いが…」
「いろんな?」
「ホントに私はリョータくんに大切にされてて幸せだし……」
「うん」
ぎゅっと更に強く抱きしめられている。
自分でもなんでこんな事で泣いているのかわからなかった。安心しているのか、こんな自分を幻滅される不安なのかもよく分からない涙。リョータくんの腕の中で私はぽつりぽつりと自分の想いを言い続けた。
「でもこの幸せがいつかなくなるって思ったら怖くて…でも違うの、リョータくんは何も不安にさせるような事はしてないんだよ?それなのに…」
言ってることがめちゃくちゃなのは自分でもわかっている。たかが占いの結果で落ち込んで、リョータくんに心配までかけて……わけがわからなくてこれ以上何を言っていいのかわからなくなってしまった。
「オレがまなみちゃんから離れられると思う?」
ゆっくりと私の顔を覗き込みながら、とても優しく甘い声でリョータくんは言う。心の奥まで安心させてくれるような心地よい声…。
「離れられる方法があるなら教えて欲しいくらいだよ」
頬に暖かな温もりが感じられる。リョータくんの手だ。いつでも私に優しさと愛情を与えてくれる手。スっとその手は頬から耳元へ、そして髪の毛の中へと流れるように移動する。その動きですら私は愛おしく思う。
「まなみちゃんのこの髪も、まなみちゃんがいれてくれたこのコーヒーも、オレにとっては全てが愛おしくて、大好きだよ」
触れるだけの口付けを落とし、リョータくんはグイッとコーヒーを飲んで自分のマグカップと私のマグカップを持ってキッチンへと歩いて行った。そしてシンクの水を流しながら私に向かって言う。
「あ、でも短い髪のまなみちゃんが見たいってのはホントだからね?」
今日中に美容室の予約でもしようかな。
誰よりも愛しいあなたのためにーーー。
大丈夫ですか?!?!嘘でしょ?!?!
そんな悲痛な思いの私の声はなぜか喉の奥へと沈んでいき、言葉として外に出すことが出来ない。
美容師さんはニコニコと営業スマイルでジャキン!!と勢いよく私の髪の毛をバッサリとハサミで切った。腰近くまであった私の髪の毛はなんと耳たぶの下の長さで切りそろえられてしまったのだ。
そもそも今日はヘアカラーをしに来ただけで、カットの予定は一切無く、もちろんその旨は美容師さんにも伝えていたはず……。
それなのにどうしてこんなことに……せっかく、せっかくここまで伸ばしてきたのに。絶望という名の暗闇へと突き落とされたその時ーーーー
~♪~♪~♪~♪~
毎朝聞こえてくる決まった音で私はハッと目を覚ます。暗闇から一転、朝の陽の光がチリチリと眩しい。聞こえてきたその音は枕元に置いてあるスマホから毎朝流れてくるアラームで、私は画面を見なくてもいつもの感覚で画面をタップする。そして慌てて身体を起こし、自分の髪の毛をガシッと掴み、長さを確認した。
「ゆ…夢ぇ~」
昨日と変わりのない髪の毛を確認した私は心底ホッとした。ーと、思わず声をあげてしまった私は口を手で塞ぎ、そっと隣を見る。
起こしてないよね?
そこには身体をこちらに向けて寝ている男性、私の彼氏であるリョータくんの姿があった。
まだ寝ているリョータくんを見て、今日2度目の安堵をした私は静かにベッドから降りて、寝室を出る。
「……髪、髪の毛を切る」
寝室から洗面所へと向かう途中、私はスマホでポチポチと調べ物をする。そう、夢占いです。
が、3分後…私は調べたことを後悔した。
「……は?」
画面に映し出された夢占いの結果はこうだった。
『恋愛面で別れや悲しいが起こる前ぶれです。ショックをうけるかも』
「まひ……?!」
歯ブラシを咥えながら声にならないまぬけな声をあげる。ツーと、口から歯磨き粉と混じったヨダレが出てきそうになり、慌てて洗面台にそれを吐き出した。憂鬱な気持ちも一緒に吐き出したかったのだが、どうやらそれは出来なかったようだ。
化粧をしている最中も、ヘアセットをしている最中も先程の占い結果が私の頭のでウヨウヨと漂い泳いでいる。
気にしすぎと言われればそれまでかもしれないが、今の私にとって同棲中の彼氏であるリョータくんは何よりも誰よりも大切な存在で、絶対に彼を失いたくない。それゆえに恋愛面で悪いことなんて絶対に起きて欲しくないのだ。
「はぁ…」
キッチンでゴクゴクとお水を飲んだあとに、本日何度目かわからない大きなため息をついた。まだ一日がはじまったばかりだというのに……まだ水が残っているペットボトルを冷蔵庫へ戻したその時リョータくんが寝室からリビングへとやって来た。
「まなみちゃん、おはよっ」
「……おはよ」
朝の日差しよりも眩しいニコニコの笑顔で挨拶をしてくれるリョータくんとは対照的に、どんよりと沈んだ声を出してしまった自分に私は自己嫌悪し、更に気分は落ち込んでしまう。
「どうしたの?」
リョータくんは嫌な顔は何一つせず、むしろ心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
「……実はね」
2人分のコーヒーを用意しながら私は夢の内容、そしてその夢占い結果が最悪だったことを話した。
我ながらいい歳をして占い結果で落ち込むなんて恥ずかしいけど、リョータくんはそんな事をバカにして笑うような人じゃない。きっと優しく慰めてくれるはず。ーーーと思っていた。
「…………」
「…………」
我が家のダイニングにモヤモヤと気まずい沈黙が流れる。まるで灰色の空気が目に見えるように。
もしかしたら同棲をしてからはじめての事かもしれない。いつもリョータくんが我が家を明るくしてくれていた。私を大切にしてくれて、笑顔を絶やさず楽しい生活を送らせてくれたのだ。
その彼がダイニングテーブルのイスに座り、深刻そうな顔で黙って私がいれたコーヒーを眺めている。リビングからテレビでやっている天気予報の声だけがやけに遠くから聞こえてくるようだ。
「あの…リョータくん?」
この重い空気に耐えきれなくなった私は、おずおずと向かい合わせになっているリョータくんに声をかける。
「ごめん…」
「え」
どうしてリョータくんが謝るの?
謝らなきゃいけないことでもあるの?
占い結果が……本当になるってことなの?
夢のように喉の奥に言葉が詰まって、言いたいことが口に出せない。私が不安に駆られているとリョータくんは下を向きながらくつくつと肩を震わせはじめた。そして堪えていたものを我慢できなくなったかのように「あはははは」と大きな声で笑い出す。
「ごめん、笑いこらえられなかった。それ可愛すぎない?!ずるいよまなみちゃん」
…………は?
え?なんの話し?今私たちはなんの話をしていたの?笑いどころなんてあった?数々のはてなマークが私の頭の中をビュンビュンと何個も猛スピードで駆け抜けていく。
「占い結果が心配でそんなに落ち込んだの?」
「だっ、だって……」
「だって、なに?」
リョータくんはテーブルの上に置いていた私の手の上に自分の手を重ねた。
「そこまでオレのこと大事に想ってくれてるってことでしょ?可愛いすぎだよ」
目を細め、嬉しそうに微笑むリョータくんの表情にドキッとしながらも、なんだか私は少しだけ悔しくなってしまう。
「あぁ~、でもそれってオレのせいかも」
「どういうこと?」
「オレさ、最近思ってたんだよね……髪の毛短いまなみちゃんも見てみたいなぁって」
優しく私の髪の毛を手ですくいながらリョータくんは言った。
「だからきっとその想いが伝わっちゃったんだね」
笑いながらそうに言ったあと、彼は目の前のマグカップを手に持ち、コーヒーを飲み始めた。そして、呆気に取られ何も言えないでいた私に、恥ずかしそうに声をかけてくる。
「いやまなみちゃん、ここ笑うとこだよ?」
「……私バカだね」
「え?!まなみちゃん?!泣いてるの?!」
ポタポタとテーブルの上に落ちるのは私の涙だ。ガタッ!!と、大きな音ともにリョータくんはイスから立ち上がり、向かいに座っている私の元へとやってくる。それから優しく包み込むようにイスに座っている私を抱きしめた。
「どうしたの?オレとのことでホントになんか不安あるの?」
「ちがっ、違うの!コレは色んな思いが…」
「いろんな?」
「ホントに私はリョータくんに大切にされてて幸せだし……」
「うん」
ぎゅっと更に強く抱きしめられている。
自分でもなんでこんな事で泣いているのかわからなかった。安心しているのか、こんな自分を幻滅される不安なのかもよく分からない涙。リョータくんの腕の中で私はぽつりぽつりと自分の想いを言い続けた。
「でもこの幸せがいつかなくなるって思ったら怖くて…でも違うの、リョータくんは何も不安にさせるような事はしてないんだよ?それなのに…」
言ってることがめちゃくちゃなのは自分でもわかっている。たかが占いの結果で落ち込んで、リョータくんに心配までかけて……わけがわからなくてこれ以上何を言っていいのかわからなくなってしまった。
「オレがまなみちゃんから離れられると思う?」
ゆっくりと私の顔を覗き込みながら、とても優しく甘い声でリョータくんは言う。心の奥まで安心させてくれるような心地よい声…。
「離れられる方法があるなら教えて欲しいくらいだよ」
頬に暖かな温もりが感じられる。リョータくんの手だ。いつでも私に優しさと愛情を与えてくれる手。スっとその手は頬から耳元へ、そして髪の毛の中へと流れるように移動する。その動きですら私は愛おしく思う。
「まなみちゃんのこの髪も、まなみちゃんがいれてくれたこのコーヒーも、オレにとっては全てが愛おしくて、大好きだよ」
触れるだけの口付けを落とし、リョータくんはグイッとコーヒーを飲んで自分のマグカップと私のマグカップを持ってキッチンへと歩いて行った。そしてシンクの水を流しながら私に向かって言う。
「あ、でも短い髪のまなみちゃんが見たいってのはホントだからね?」
今日中に美容室の予約でもしようかな。
誰よりも愛しいあなたのためにーーー。
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