思慕
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誰にでも忘れられない人の一人や二人いるってよく言うけど。
それって悪い事?
心の中で思ってる分にはなんの問題もなくない?
なんて思っていた、、、
5分前まではーーー。
プルプルプル
目の前の電話がなる。
「はい、〇△薬局佐藤です。」
ここはとあるクリニックに隣接してある調剤薬局。
私はこの薬局に勤務して早…7年?8年?
勤務年数なんて忘れちゃうよね。
今年自分が28歳になる事だけはしっかり覚えている。
病院の受付時間が終わった頃、毎日病院から
最後の患者様のお名前を伝える内線電話がかかってくる。
「お疲れ様です。はい、最後の患者様ですね。えっ……あ、すいません。わかりました。はい、失礼します。」
ガチャ…とゆっくり受話器を置いた私は心のざわめきを抑えられなかった。
電話口で聞いた患者様の名前は昔何度も呼んだ人の名前。
何度も何度も。
その時薬局の自動ドアが開いて1人の男性が入ってくる。
私はまだ心の準備ができていない。
まともにその男性の顔を見れないまま、処方箋を受け取る。
「お願いします。」
と言ってこちらを見たその顔はもちろん10年前より大人びた顔をしていた。
「え…まなみ?」
「久しぶり。」
私はすぐに気付いてくれたことに、少し嬉しくなった。
「薬局で働いてるとは知ってたけど、ここだったんだな。」
「そう。あ、保険証も出してね。」
薬局で働いてるの知ってたんだ…。
平然を装う私。
昔と変わらない声に私の鼓動はどんどん早くなっていく。
彼は水戸洋平。
私が高校1年生から3年生まで付き合っていた
いわゆる元カレだ。
学生の頃はバリッバリのヤンキーでガッチリ固めたリーゼント頭だったのに、今じゃリーゼントもやめてすっかり大人の身なりになっている。
私と同い年で今年28だもんな、そりゃそうか。
「あと、これもお願いします。」
私はアンケート用紙を手渡す。
「はいよ」
し、静まれ心臓。
お、落ち着け自分。
私はひとつ大きく息を吸った。
そしてアンケートを書いている洋平をチラッと見る。
変わらないなぁ
いや、見た目は変わったんだよ。
リーゼントじゃないし、それなりに色んな
経験つんできたんだろうなっていう大人の顔になってるし。
体型は…変わってないな。恐るべし。
なんていうのかな…
何度も見つめあった、一重でシュッとした目も、いつも繋いでいたスラッとした指の手も、何回も枕にして眠ったその肩も、
『水戸洋平』っていう存在が変わらない。
そんな奇妙な感覚だった。
そんな事を思いながら見ていると、
下を向いていた洋平が顔を上げた。
どうやらアンケートを書き終えたらしい。
「見すぎ」
ニヤッと笑ってアンケート用紙を私に渡す。
ずるい。
その顔は簡単に私の心を持っていこうとする。
その後洋平は薬を貰って私に軽く手を振り、薬局を出ていった。
「ねぇ!まなみ!さっき喋ってた人誰?!ちょっとかっこよくない?!」
仕事を終え更衣室で着替えていた私に、同僚が楽しそうに話しかけてくる。
「もしかして元カレ?!」
「…同級生」
なぜか本当のことが言えなかった。
「ねえ!紹介してよ!!アンケート見たら
未婚ってなってたし!」
「え?!あんたそこまでチェックしたの?」
「もちろん!そこ重要じゃない?!」
抜け目のない同僚に私は呆れたが…
結婚していなのか、と少しホッとした。
「電話番号知らないから無理ー。」
私はロッカーの扉を閉めながら答える。
「まじでぇ?!残念だなぁ」
ホントに知らないし。
卒業してから初めて喋ったし。
私達は着替えを終え、更衣室のドアを開けようとした時
「あっ!」
突然同僚が大きな声を出すので、私は体をビクッとさせ驚く。
「やば!ちょっとやり残しあったから、先帰ってて!」
「手伝おうか?」
「大丈夫!大丈夫!ありがとう!」
「そっか、じゃあ、お先に。」
普段なら「手伝おうか?」なんて私は絶対に言わない。
なんなら「どんまーい、じゃあねー」と言ってそそくさと帰る。
だけど今日は1人で職場を出たくなかった。
だって…
私は職員玄関のドアを開けて目に飛び込んできた光景に驚きはしなかった。
初夏の独特の草の匂いが広がり薄暗くなった景色の中、少し離れた所に車を停め、外で
タバコを吸っている人物。
私を待っているのだろう。
紛れもない私の元カレ。洋平だ。
私に気付いた洋平はタバコの火を消しこちらへ歩いてくる。
「お疲れ」
声をかけてくる洋平に私は
「いると思った」
と言った。
すると洋平は「お見通しか」と優しく笑う。
「飯でも行かね?」
そう洋平に言われた時、カバンの中の携帯が震えた。
私はカバンから携帯を取り出し表示されている名前にギクリとした。
「ちょっと、ごめん」
私は洋平にことわりをいれ、少し離れた所で
電話に出る。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「お待たせ。どこにする?」
電話を終えた私は洋平の元へ戻る。
洋平は少し驚いた顔をして
「大丈夫なのか?」と聞いてきた。
そして付け足すかのように「彼氏だろ?」と言った。
「大丈夫。『同級生が奢ってくれるって言うから、ご飯行くね』って言った。」
私はニヤッと笑う。
「はは、相変わらずちゃっかりしてんな」
こんなやり取りですら愛しく思ってしまうのは心の中にそっとしまっておこう。
なのに
「よし、行くか」
って私の頭触らないでよ。
完全に昔の気持ち、蘇っちゃうじゃん。
洋平が運転する車に乗っている。
あの頃は原付バイクの後ろに乗っていたのに。
車窓から過ぎ行く見慣れた風景を見ながら、
なんだかとても不思議な気分だった。
ふと、私は自分の格好を上から下までじっくりと見る。
…もっとかわいい格好してくればよかった。
「はぁ」とため息をつく。
すると
「もっといい格好してくりゃよかった。って思ってんだろ?まなみそーゆーとこ気にするもんな。」
洋平がクックックと笑い出す。
「お見通しですか」
私達は顔を見合わせて笑った。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「まじ?!花道は変わらないねぇ!28歳で
それはヤバいんじゃない?!」
私は涙を流してゲラゲラと笑う。
洋平の親友、花道のバカ話はどうしてこうも私にツボるのだろう。
昔からそうだった。
初めは怖くてしょうがなかった桜木軍団、
それなのにいつの間にかみんながいないと
つまらないと思うようになっていたあの頃。
「よくみんなでバカやってたよね。」
「だよな、今じゃ考えられねーよ。」
「そうだねぇ…」
「「……」」
ふと居酒屋の個室に沈黙が訪れる…。
私達はお互いの現状を話していない。
話してはいけないような気がしていたから。
それはきっと洋平も同じなんだと思う。
同じ高校だったから、なんとなく周りからお互いの情報は入ってくる。
それ以上の事は知ってはいけないような気がした。
~♪~♪~
その時テーブルの上に置いてあった洋平の携帯が鳴った。
「あ、わり。」
そう言って洋平は席を立った。
彼女だ。
「いないわけないよねー」
私はそう独り言をつぶやく。
「わりーな」
そう言って洋平が戻ってきた。
「彼女でしょー??大丈夫??」
私はあえてその言葉を言う。
心を持っていかれないようにするために。
「あぁ、大丈夫」
「長いの?彼女と」
「んー5年ぐらいかな」
「あ、うちと同じぐらいだ」
お互い彼氏、彼女がいる。
私達はもう子供じゃない。
再会したら2人とも再び惹かれ合う事ぐらいわかっている。
だからこれは現実を見る十分な情報だった。
「私さ、結婚するんだ」
洋平の目を見ずに私は言う。
すると洋平は
「奇遇だな、俺もだよ。」
と少し困ったように笑った。
私達はもう大人だった。
なりふり構わず突っ走る事もできない。
お互いの今を壊せないから。
「駅で大丈夫なのか?」
「うん!大丈夫!」
家まで送ろうか?と言われたが、少し歩きたかったので、私は駅まで送ってもらう事にした。
「じゃあ、ご馳走様でした!ありがとね」
「おう、また薬局行った時はよろしくな」
もう来ないくせに。
「またな。」
もう会う気もないくせに。
洋平の車が走り去る音を聞きながら私は改札をぬけホームへ向かった。
後ろは振り向かずに。
「嫌いになれたらなぁ…」
私はホームの天井を見上げ、絶対に出来ないとをポツリとつぶやく。
忘れられない人ーーー
心の中で思っているだけ。
そんなムシのいい事ありえない。
思っていたら会いたくなる。
1度会ってしまえば、また会いたくなる。
会えば触れたくなる。会えばこのままずっと一緒にいたくなる。
会えば苦しくなる。
それでも…
私はくるっと振り返り、元来た道を戻るため走り出した。
忘れられないんじゃなくて、忘れる気なんて最初からない。
思い出は美化されるなんて言うけど、その通りだと思う。
昔の綺麗な事ばかり都合よく思い出す。
だけど、それと同時にいつも胸が苦しくなった。
お互いの今を壊してでも、それでも。
それでも私は…
洋平と生きてゆきたい。
改札をぬけると息を切らしていて、立っている洋平がいた。
私達は走ってお互いに駆け寄り
きつく抱きしめ合った。
そしてそのままキスをする。
「いると思ったろ?」
「戻ってくると思ったでしょ?」
そんな事を言い合いながら。
何度もお互いを求め合った。
もう戻れない。
そんな事わかっている。
離れられない。
そんな事わかっている。
「もう離さねーからな」
「私も」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
2年後ーーー
「おめでとう!」
「お幸せに!!!」
そんな声が響く中、私は洋平と一緒にいた。
「ね、ねぇ!花道さ、花嫁さんに照れすぎじゃない?!」
私は笑いをこらえられない。
「アイツらしーや」
「てか、花嫁に照れるとかっ…あはは!!
ホントにどこまでピュアなの?!あはは!
無理っ…お腹痛い!クスクス」
今日は花道の結婚式。
自分の花嫁が綺麗過ぎて、直視出来ていない花道に笑いが止まらない。
私は洋平と出席していた。
もちろん桜木軍団も一緒に出席している。
「あれ、洋平飲まねーの?」
披露宴でウーロン茶を飲んでいる洋平に野間が声をかける。
「あぁ、今日は大事な日だからな。酔えねーんだよ。」
「どんだけ花道の事愛してんだよ」
大楠が呆れて言う。
「まなみちゃんも花道には勝てねぇな」
ご馳走を口いっぱいに頬張りながら高宮も言う。
「いいの、それはもう諦めてるから」
私は先程撮った照れ姿の花道の写メを見ながら話す。
「は?俺が愛してるのはまなみだけだぜ?」
洋平が真顔で言うもんだから私は固まってしまう。
軍団はヤレヤレまたか、と慣れた様子だ。
「はぁーー楽しかったぁ!」
三次会が終わったのは夜中の3時前だった。
洋平が運転する車で2人が一緒に住んでいる家へ帰る。
「なぁ、ちょっと寄り道してかね?」
「え?いいけど、どこ?」
「ないしょー」
洋平はそのまま車を走らせる。
私はほろ酔い気分もあってワクワクしてきた。
「え?ここってーー」
着いた先は湘北高校。
2人の母校だった。
車を道路脇に停めて洋平は私に車を降りるよう促す。
車から降りた私達は校門の前に立った。
「懐かしい…」
この場所で洋平に出会ったんだよなぁ、、
なんて感慨深い事を思っていたら、いきなり洋平が私の目の前で膝をついた。
「え?洋平?」
すると洋平はポケットから小さな小箱を取り出し、私の目の前でその小箱を開ける。
中身なんてもちろんわかっている。
指輪だーーーー。
「ここで言いたかったんだ。」
洋平は私の目を真っ直ぐに見る。
「まなみ、俺と結婚して下さい。」
私が高校生の頃からずっと夢見ていた言葉だった。
他の誰でもない洋平からの言葉。
自然にポロポロと涙が出てくる。
「喜んで」
私は涙をぬぐい、笑顔で答え、洋平から指輪が入った小箱を受け取る。
と、同時に抱きしめられる。
「やべぇな…こんなに嬉しいもんなんだな」
「ふふ、ホントだね」
そして小さなキスをする。
私達はおでこを合わせて2人で笑い合った。
「あ!」
私は帰りの車の中で大声を出す。
洋平は運転席で驚いている。
「だからお酒飲まなかったの?」
「クックック、そうだよ」
洋平は笑いながらハンドルをまわす。
「大事な日、だからな」
「全然気付かなかった…。なんで今日だったの?」
「ん?ほら。」
洋平は私の姿を上から下へ指を指す。
そして自分の事も同じように指さした。
どういう事?
私の頭の中にはハテナが浮かぶ。
「お互い、いい格好してるだろ?」
「え?」
確かに今日は結婚式だから、しかも親友花道の式。
2人とも着飾っている。
「一生に1度の事で『もっといい格好してくればよかった』って後から思うことないだろ?」
洋平はニヤッと笑う。
ホントにこの人は…
「洋平」
私は左の薬指に光る指輪を眺めながら話す。
「ん?」
「大好きだよ」
「俺は愛してるぜ?」
「ずる…」
私達は何度も恋をするのだろう。
離れてもまた恋をする。
そしてあなたと生きてゆくーーー。
それって悪い事?
心の中で思ってる分にはなんの問題もなくない?
なんて思っていた、、、
5分前まではーーー。
プルプルプル
目の前の電話がなる。
「はい、〇△薬局佐藤です。」
ここはとあるクリニックに隣接してある調剤薬局。
私はこの薬局に勤務して早…7年?8年?
勤務年数なんて忘れちゃうよね。
今年自分が28歳になる事だけはしっかり覚えている。
病院の受付時間が終わった頃、毎日病院から
最後の患者様のお名前を伝える内線電話がかかってくる。
「お疲れ様です。はい、最後の患者様ですね。えっ……あ、すいません。わかりました。はい、失礼します。」
ガチャ…とゆっくり受話器を置いた私は心のざわめきを抑えられなかった。
電話口で聞いた患者様の名前は昔何度も呼んだ人の名前。
何度も何度も。
その時薬局の自動ドアが開いて1人の男性が入ってくる。
私はまだ心の準備ができていない。
まともにその男性の顔を見れないまま、処方箋を受け取る。
「お願いします。」
と言ってこちらを見たその顔はもちろん10年前より大人びた顔をしていた。
「え…まなみ?」
「久しぶり。」
私はすぐに気付いてくれたことに、少し嬉しくなった。
「薬局で働いてるとは知ってたけど、ここだったんだな。」
「そう。あ、保険証も出してね。」
薬局で働いてるの知ってたんだ…。
平然を装う私。
昔と変わらない声に私の鼓動はどんどん早くなっていく。
彼は水戸洋平。
私が高校1年生から3年生まで付き合っていた
いわゆる元カレだ。
学生の頃はバリッバリのヤンキーでガッチリ固めたリーゼント頭だったのに、今じゃリーゼントもやめてすっかり大人の身なりになっている。
私と同い年で今年28だもんな、そりゃそうか。
「あと、これもお願いします。」
私はアンケート用紙を手渡す。
「はいよ」
し、静まれ心臓。
お、落ち着け自分。
私はひとつ大きく息を吸った。
そしてアンケートを書いている洋平をチラッと見る。
変わらないなぁ
いや、見た目は変わったんだよ。
リーゼントじゃないし、それなりに色んな
経験つんできたんだろうなっていう大人の顔になってるし。
体型は…変わってないな。恐るべし。
なんていうのかな…
何度も見つめあった、一重でシュッとした目も、いつも繋いでいたスラッとした指の手も、何回も枕にして眠ったその肩も、
『水戸洋平』っていう存在が変わらない。
そんな奇妙な感覚だった。
そんな事を思いながら見ていると、
下を向いていた洋平が顔を上げた。
どうやらアンケートを書き終えたらしい。
「見すぎ」
ニヤッと笑ってアンケート用紙を私に渡す。
ずるい。
その顔は簡単に私の心を持っていこうとする。
その後洋平は薬を貰って私に軽く手を振り、薬局を出ていった。
「ねぇ!まなみ!さっき喋ってた人誰?!ちょっとかっこよくない?!」
仕事を終え更衣室で着替えていた私に、同僚が楽しそうに話しかけてくる。
「もしかして元カレ?!」
「…同級生」
なぜか本当のことが言えなかった。
「ねえ!紹介してよ!!アンケート見たら
未婚ってなってたし!」
「え?!あんたそこまでチェックしたの?」
「もちろん!そこ重要じゃない?!」
抜け目のない同僚に私は呆れたが…
結婚していなのか、と少しホッとした。
「電話番号知らないから無理ー。」
私はロッカーの扉を閉めながら答える。
「まじでぇ?!残念だなぁ」
ホントに知らないし。
卒業してから初めて喋ったし。
私達は着替えを終え、更衣室のドアを開けようとした時
「あっ!」
突然同僚が大きな声を出すので、私は体をビクッとさせ驚く。
「やば!ちょっとやり残しあったから、先帰ってて!」
「手伝おうか?」
「大丈夫!大丈夫!ありがとう!」
「そっか、じゃあ、お先に。」
普段なら「手伝おうか?」なんて私は絶対に言わない。
なんなら「どんまーい、じゃあねー」と言ってそそくさと帰る。
だけど今日は1人で職場を出たくなかった。
だって…
私は職員玄関のドアを開けて目に飛び込んできた光景に驚きはしなかった。
初夏の独特の草の匂いが広がり薄暗くなった景色の中、少し離れた所に車を停め、外で
タバコを吸っている人物。
私を待っているのだろう。
紛れもない私の元カレ。洋平だ。
私に気付いた洋平はタバコの火を消しこちらへ歩いてくる。
「お疲れ」
声をかけてくる洋平に私は
「いると思った」
と言った。
すると洋平は「お見通しか」と優しく笑う。
「飯でも行かね?」
そう洋平に言われた時、カバンの中の携帯が震えた。
私はカバンから携帯を取り出し表示されている名前にギクリとした。
「ちょっと、ごめん」
私は洋平にことわりをいれ、少し離れた所で
電話に出る。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「お待たせ。どこにする?」
電話を終えた私は洋平の元へ戻る。
洋平は少し驚いた顔をして
「大丈夫なのか?」と聞いてきた。
そして付け足すかのように「彼氏だろ?」と言った。
「大丈夫。『同級生が奢ってくれるって言うから、ご飯行くね』って言った。」
私はニヤッと笑う。
「はは、相変わらずちゃっかりしてんな」
こんなやり取りですら愛しく思ってしまうのは心の中にそっとしまっておこう。
なのに
「よし、行くか」
って私の頭触らないでよ。
完全に昔の気持ち、蘇っちゃうじゃん。
洋平が運転する車に乗っている。
あの頃は原付バイクの後ろに乗っていたのに。
車窓から過ぎ行く見慣れた風景を見ながら、
なんだかとても不思議な気分だった。
ふと、私は自分の格好を上から下までじっくりと見る。
…もっとかわいい格好してくればよかった。
「はぁ」とため息をつく。
すると
「もっといい格好してくりゃよかった。って思ってんだろ?まなみそーゆーとこ気にするもんな。」
洋平がクックックと笑い出す。
「お見通しですか」
私達は顔を見合わせて笑った。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「まじ?!花道は変わらないねぇ!28歳で
それはヤバいんじゃない?!」
私は涙を流してゲラゲラと笑う。
洋平の親友、花道のバカ話はどうしてこうも私にツボるのだろう。
昔からそうだった。
初めは怖くてしょうがなかった桜木軍団、
それなのにいつの間にかみんながいないと
つまらないと思うようになっていたあの頃。
「よくみんなでバカやってたよね。」
「だよな、今じゃ考えられねーよ。」
「そうだねぇ…」
「「……」」
ふと居酒屋の個室に沈黙が訪れる…。
私達はお互いの現状を話していない。
話してはいけないような気がしていたから。
それはきっと洋平も同じなんだと思う。
同じ高校だったから、なんとなく周りからお互いの情報は入ってくる。
それ以上の事は知ってはいけないような気がした。
~♪~♪~
その時テーブルの上に置いてあった洋平の携帯が鳴った。
「あ、わり。」
そう言って洋平は席を立った。
彼女だ。
「いないわけないよねー」
私はそう独り言をつぶやく。
「わりーな」
そう言って洋平が戻ってきた。
「彼女でしょー??大丈夫??」
私はあえてその言葉を言う。
心を持っていかれないようにするために。
「あぁ、大丈夫」
「長いの?彼女と」
「んー5年ぐらいかな」
「あ、うちと同じぐらいだ」
お互い彼氏、彼女がいる。
私達はもう子供じゃない。
再会したら2人とも再び惹かれ合う事ぐらいわかっている。
だからこれは現実を見る十分な情報だった。
「私さ、結婚するんだ」
洋平の目を見ずに私は言う。
すると洋平は
「奇遇だな、俺もだよ。」
と少し困ったように笑った。
私達はもう大人だった。
なりふり構わず突っ走る事もできない。
お互いの今を壊せないから。
「駅で大丈夫なのか?」
「うん!大丈夫!」
家まで送ろうか?と言われたが、少し歩きたかったので、私は駅まで送ってもらう事にした。
「じゃあ、ご馳走様でした!ありがとね」
「おう、また薬局行った時はよろしくな」
もう来ないくせに。
「またな。」
もう会う気もないくせに。
洋平の車が走り去る音を聞きながら私は改札をぬけホームへ向かった。
後ろは振り向かずに。
「嫌いになれたらなぁ…」
私はホームの天井を見上げ、絶対に出来ないとをポツリとつぶやく。
忘れられない人ーーー
心の中で思っているだけ。
そんなムシのいい事ありえない。
思っていたら会いたくなる。
1度会ってしまえば、また会いたくなる。
会えば触れたくなる。会えばこのままずっと一緒にいたくなる。
会えば苦しくなる。
それでも…
私はくるっと振り返り、元来た道を戻るため走り出した。
忘れられないんじゃなくて、忘れる気なんて最初からない。
思い出は美化されるなんて言うけど、その通りだと思う。
昔の綺麗な事ばかり都合よく思い出す。
だけど、それと同時にいつも胸が苦しくなった。
お互いの今を壊してでも、それでも。
それでも私は…
洋平と生きてゆきたい。
改札をぬけると息を切らしていて、立っている洋平がいた。
私達は走ってお互いに駆け寄り
きつく抱きしめ合った。
そしてそのままキスをする。
「いると思ったろ?」
「戻ってくると思ったでしょ?」
そんな事を言い合いながら。
何度もお互いを求め合った。
もう戻れない。
そんな事わかっている。
離れられない。
そんな事わかっている。
「もう離さねーからな」
「私も」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
2年後ーーー
「おめでとう!」
「お幸せに!!!」
そんな声が響く中、私は洋平と一緒にいた。
「ね、ねぇ!花道さ、花嫁さんに照れすぎじゃない?!」
私は笑いをこらえられない。
「アイツらしーや」
「てか、花嫁に照れるとかっ…あはは!!
ホントにどこまでピュアなの?!あはは!
無理っ…お腹痛い!クスクス」
今日は花道の結婚式。
自分の花嫁が綺麗過ぎて、直視出来ていない花道に笑いが止まらない。
私は洋平と出席していた。
もちろん桜木軍団も一緒に出席している。
「あれ、洋平飲まねーの?」
披露宴でウーロン茶を飲んでいる洋平に野間が声をかける。
「あぁ、今日は大事な日だからな。酔えねーんだよ。」
「どんだけ花道の事愛してんだよ」
大楠が呆れて言う。
「まなみちゃんも花道には勝てねぇな」
ご馳走を口いっぱいに頬張りながら高宮も言う。
「いいの、それはもう諦めてるから」
私は先程撮った照れ姿の花道の写メを見ながら話す。
「は?俺が愛してるのはまなみだけだぜ?」
洋平が真顔で言うもんだから私は固まってしまう。
軍団はヤレヤレまたか、と慣れた様子だ。
「はぁーー楽しかったぁ!」
三次会が終わったのは夜中の3時前だった。
洋平が運転する車で2人が一緒に住んでいる家へ帰る。
「なぁ、ちょっと寄り道してかね?」
「え?いいけど、どこ?」
「ないしょー」
洋平はそのまま車を走らせる。
私はほろ酔い気分もあってワクワクしてきた。
「え?ここってーー」
着いた先は湘北高校。
2人の母校だった。
車を道路脇に停めて洋平は私に車を降りるよう促す。
車から降りた私達は校門の前に立った。
「懐かしい…」
この場所で洋平に出会ったんだよなぁ、、
なんて感慨深い事を思っていたら、いきなり洋平が私の目の前で膝をついた。
「え?洋平?」
すると洋平はポケットから小さな小箱を取り出し、私の目の前でその小箱を開ける。
中身なんてもちろんわかっている。
指輪だーーーー。
「ここで言いたかったんだ。」
洋平は私の目を真っ直ぐに見る。
「まなみ、俺と結婚して下さい。」
私が高校生の頃からずっと夢見ていた言葉だった。
他の誰でもない洋平からの言葉。
自然にポロポロと涙が出てくる。
「喜んで」
私は涙をぬぐい、笑顔で答え、洋平から指輪が入った小箱を受け取る。
と、同時に抱きしめられる。
「やべぇな…こんなに嬉しいもんなんだな」
「ふふ、ホントだね」
そして小さなキスをする。
私達はおでこを合わせて2人で笑い合った。
「あ!」
私は帰りの車の中で大声を出す。
洋平は運転席で驚いている。
「だからお酒飲まなかったの?」
「クックック、そうだよ」
洋平は笑いながらハンドルをまわす。
「大事な日、だからな」
「全然気付かなかった…。なんで今日だったの?」
「ん?ほら。」
洋平は私の姿を上から下へ指を指す。
そして自分の事も同じように指さした。
どういう事?
私の頭の中にはハテナが浮かぶ。
「お互い、いい格好してるだろ?」
「え?」
確かに今日は結婚式だから、しかも親友花道の式。
2人とも着飾っている。
「一生に1度の事で『もっといい格好してくればよかった』って後から思うことないだろ?」
洋平はニヤッと笑う。
ホントにこの人は…
「洋平」
私は左の薬指に光る指輪を眺めながら話す。
「ん?」
「大好きだよ」
「俺は愛してるぜ?」
「ずる…」
私達は何度も恋をするのだろう。
離れてもまた恋をする。
そしてあなたと生きてゆくーーー。
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