問答無用
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あなたを応援してきた約半年間、私は胸を張って言えます。とても幸せだったと、間違いなく人生の中での宝物になると。
「三井さん?わかってますよね?」
「あ?」
「あ?じゃないでしょ!!」
体育館の床にあぐらをかいて座っている三井さんに、私は仁王立ちになって詰め寄る。彼は私がマネージャーをしているバスケ部の『元』部員。3年生で、数ヶ月前に部活自体は引退をしたのだが、無事に大学が決まった今、こうしてまたバスケ部に顔を出しに来ているのだ。というよりも、ガッツリバスケをしに来ている。こちらを見上げる三井さんに少しだけドキッとしたのは内緒にしておいて……
「今日が最後ですよ?!片付けてくださいね、ロッカーの中!!」
今日は2月28日、三井さんがここ湘北高校の生徒として学校に来るのはあと一日だけ。明日3月1日は卒業生として登校するのみだった。無事に卒業できる事にはホッとしたけど、もうこの体育館で三井さんに会うことはないんだなと思うと、きゅっと胸が締め付けられる。けど、当の本人はもう新しい生活へと一歩踏み出しているのだ、それに対して私が『寂しい』とか『切ない』なんて言えるわけがない。それに自分の気持ちも伝えられないんだから、言う資格なんてないんだよ。
バスケ部を潰すつもりだった三井さんに対し、いつの間にか心奪われてしまっただなんて、一生の不覚。でもしょーがないじゃん。気がついたら他のどの部員よりも応援しちゃっていたんだから。……マネージャーとしてソレはダメな事だってわかってる、わかってるけど……そこは目をつぶってください。
「へいへい」
三井さんは自分の首に手を当て、面倒くさそうに立ち上がった……かと思うと私の肩に手を回し、そのまま歩き出す。完全に連行だ。
「ちょっ、三井さん?!」
「お前も手伝え」
「はぁ?!」
「つーわけで、コイツ借りんぞ」
キャプテンである宮城さんに声をかけ、三井さんは問答無用で私を連行して体育館を出る。後ろからは「いってらっしゃ~い」っていう明らかにニヤニヤしながら言っている声が聞こえていた。もちろん向かう先は我がバスケ部の部室。
「なんで私が手伝わなきゃいけないんですか」
「いーじゃねぇか、マネージャーなんだし」
「マネージャーなら彩子さんだって」
私の言葉の途中でニカッと笑い、頭をクシャクシャと撫でてくる三井さんに(ぐっ…)と何も言えなくなり、私は仕方なく観念をした。その無邪気な笑顔と頭を撫でるセットは最強の武器でしょ!!ずるい。
「開けますよー」
「おう」
なんでロッカーの主じゃなくて、私が開けるの?と思いつつもガチャっと開けたそのロッカーの中はとても綺麗で、私は拍子抜けしてしまった。つい数日前まではものすごい汚い訳では無かったけど、漫画やらタオルやら三井さんの私物がいくつか残っていたのに、今はほとんど何も入っていない空っぽの状態だ。
「片付けたんですか?」
「まぁな」
「じゃあさっき片付けたって言えばいいのにーーってこれは?」
私はロッカーの中にリボンが付いた小さな紙袋が置いてあることに気付いてそれを手に取り、首だけ振り返って後ろにいる三井さんに問いかけた。
「……やるよ」
「へ?」
ポカンと口をあけたマヌケな顔の私に、三井さんは視線をそらし気まずそうに言葉を続けた。その顔は少しだけ赤くなっている。
「部活で世話になった礼だ」
「え?!三井さんが私に?!」
「んな驚く事かよ」
「驚きますよ…」
まさか三井さんが私にお礼のプレゼントだなんて、誰が想像できた?
「開けてもいーぜ」
三井さんに言われシュル…とリボンを外し、ガサガサと音をたてながら紙袋の中へと手を入れる。そこに入っていたのは赤と黒のダブルカラーになっているサテン生地のヘアシュシュだった。
「可愛い……」
私がそれを手に取り眺めていると、後ろから三井さんに抱きしめられる。ギュッと逞しい腕で包み込み、彼は私の肩に顔をうずめた。そして「今まであんがとな」と小さくつぶやく。思わず涙が出そうになった私はシュシュごと彼の腕をつかんだ。力を込めて。
「まなみ…コレカラもオレのそばにいてくれるか?」
「……はい」
断るわけないじゃない、問答無用でそばにいますよ。ゆっくりと振り返り、三井さんを見上げると私の顔は大きな両手で優しく包み込まれた。自然に重なり合った2人の唇は1度では足りないと、2度…3度と何度も重なり合う。「好きだ」と小さな声が耳に響く度、このままこうしていたい、離れたくないと思う気持ちが強くなる。
「お前、泣いてんの?」
「え?」
三井さんが親指で私の頬を伝ったものを拭った時、初めて自分が泣いていることに気がついた。あわてた私は必死で流れてくる涙を止めようとしたが、我慢をすればするほどポロポロと目からは涙がこぼれ落ちてしまう。今ここで泣いたって三井さんを困らせるだけだ、呆れられてしまう…頭ではわかっているのに感情のコントロールが効かない。そもそも嬉し涙なのか、寂しくて出てくるのか、なんなのかさえ良くわからない。すると優しく包みこまれていた私の頬はその大きな両手によって、ムギュっとつぶされた。
「ひゃにすんで」
タコのように突き出した私の唇に、三井さんはチュッと音をたててキスをした。そしていつものように強気な笑顔を見せる。自信満々のその笑顔だ。
「泣くほどオレのことが好きか」
「?!」
「わぁった、わぁった」
ポンポンと私の頭を軽く数回叩き、ウンウンと頷く三井さんになんだか少し悔しい気持ちになってしまう。そんな気持ちのせいか、先程まであれだけボロボロと出てきていた涙は自然に止まった。まぁ、結果オーライなのかもしれない。……それもまた悔しいけど、どうしようもない事。
だって私は問答無用で三井さんが好きなんだものーーー。
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