危険
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そろそろいいんじゃね?
オレのモノになったって。
「むり。信じられません」
ツーン、と顎をあげながら足早にオレの元から去っていく女の子。オレが所属するバスケ部のマネージャーで、同い年の女の子。気が強くて、よく動く働き者だ。そしてオレが特別な想いを寄せてる子でもある。
「そろそろオレの彼女になってよ」
「いや」
「どーして?」
「だって仙道絶対浮気するじゃん」
「あはは」
「ほら否定しない」
いつの間にやらオレは、浮気性のクズ野郎という異名が付いているらしい。彼女が出来たことすらねぇのになんでそーゆー事になんのかよくわかんねぇんだよな。まぁ、何回か彼女じゃない女の子とあーだこーだなった事はあったけど。でも、それだって数える程度だ。だって本当に大事にしたい子ができたから。それがこの佐藤だ。
佐藤は2年生になった時に転校してきて、バスケ部のマネージャーになった。自分を持っていて、周りに流されず、強い女の子だなぁ、なんて思っていたけど、試合に負けた時に誰も見ていないような場所で人知れず泣いている所を見てしまったりして、気付けばオレは彼女ばかり見るようになっていたんだ。
言うなればコレがオレの初恋なのかもしれない。いや、佐藤以上に好きになれる人なんてこの先、現れる気がしねぇんだよな。だからこそオレは本気で気持ちを伝えるているはずなのに……うーん、うまく伝わってくんねぇなぁ。もう半年ぐらい伝え続けているんだけどな、年も変わってあと数ヶ月でオレらは3年生になっちまうよ。
「仙道くんと付き合ってんの?」
とある部活前、オレが体育館へ向かおうと廊下を曲がった時、少し先で自分の名前が聞こえてきて思わず来た道をくるりと戻って、身を隠した。そぉっと覗くと女の子数人が人気の少ない廊下で固まっている。中には佐藤もいて、何やら他の女の子たちに囲まれているようだった。
……あそこ通りすぎなきゃ体育館行けねぇんだよな。オレは今いる場所から動けずに様子を見ることにした。
「付き合ってない」
「じゃあ仙道くんの周りウロチョロしないでもらえる?」
「マネージャーだかなんだか知らないけどさ」
うわぁ……。最悪な場面じゃねぇか。
コレはオレが出ていっていいものなのか、それともオレが出ていく事で状況が悪化するのか。うーん……どうしたもんか。そんな事を考えていると後ろから「おい仙道何してんだ」と肩を叩かれた。
それに驚いたオレは思わず隠れていた陰から飛び出してしまう。もちろん、少し先にいる女の子たちはこちらを見た。そして気まずそうにバタバタとこの場から走り去っていく。
「ん?なんだあいつら」
声をかけてきたのは同じバスケ部の越野だ。
「ナイス越野。お前はやっぱり頼りになるよ」
オレは越野の肩にポンと手を乗せそう言うと佐藤に走りより、手をつかんだ。「なに?!」と慌てふためく彼女だが、オレはそんなのお構い無しで手を引き、歩いた。体育館とは別の方向へ、ほぼ無理やりに。まさに連行という言葉がピッタリだろう。
「ちょっと仙道!なに?なんなの?!」
しばらく歩いて、とある空き教室へとやって来たオレら。もちろん佐藤は怪訝そうな顔をしている。それでもオレは彼女の手を離しはしない。向かい合い、オレは両手で佐藤の小さな手を包み込んだ。
「?!せ、仙道…離して」
「嫌だ」
「なんで」
「好きだ」
オレは真っ直ぐに見つめながら佐藤に伝える。オレの心の中の想いを。好きで好きで仕方がないんだ。その気の強い眼差しも、実は誰よりも優しいところも、全部全部が欲しいんだ。
「……信じられないよ」
手を握られている事に抵抗をしなくなった佐藤は俯きながら、小さな声で言う。
「どうしたらオレを信じてもらえる?」
オレは更に強く佐藤の手を握りながら、彼女の後頭部に向かって話しかける。いや、ホントは顔を見ながら話してぇんだよ?けど、下向いちゃってるから……。
「ごめん…私の問題なんだよ」
「え?どういうこと?」
「……前の学校で付き合ってた人に、けっこうひどい裏切り方されて」
彼女はオレの手の中でギュッと拳に力をいれ、少し震えた声で話す。そうか、いつも強気で真っ直ぐなその瞳は自分の気持ちをしっかり持つための強い眼差しだったんだな。だからいつもどこか人と距離を置いていたんだ。オレはそんな佐藤をフワッと抱きしめた。壊れ物を包み込むように優しく。
「嫌だったら突き飛ばして」
佐藤は黙ってオレの腕の中にいる。この瞬間に時が止まればいいと本気で思った、ずっと彼女をこのままオレの中に閉じ込めてやりたいって。……危ない思考だよなぁ。恋って危険なものなんだと改めて気付かされたな。別に他のヤツらの事なんて信じなくてもいい、ただオレのモノにだけなってくれたらそれでいい。
「あのさ、来週練習試合あるだろ?」
「よく覚えてたね」
オレらは並んで体育館までの廊下を歩く。肩は触れ合いそうなぐらい近いが、決して触れはしない絶妙な距離を保ちながら。オレは必死で手を繋ぎたい気持ちを抑える。体育館はもうすぐ目の前だ、この時間が惜しくなったオレはダメもとで佐藤へ1つ提案をした。
「練習試合に勝ったらどっか遊び行こーぜ」
「…………………………勝ったらね」
ちょっとの沈黙の後、まさかの返答にオレはその場に立ち止まってしまった。絶対に「いや」っていつもの聞き慣れた声が聞こえてくると思ったのに。ポカンと動けずにいるオレに佐藤はトドメを刺しに来た。
「勝ってよね、絶対に」
目を細め、見たことの無いような顔で微笑んだかと思うと佐藤はこの場から走り去って、体育館へと入っていった。
「はは……ずりぃなぁ」
その場に残されたオレは気の抜けた独り言を言いながら、決意をするのだった。
何がなんでも勝たなきゃなんねーな、いま見た顔をもう一度見せてもらわねぇとな。
そして試合が終わったら抱きしめようーーー。
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