恋愛感情
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猿だとか、犬だとか、動物に例えられる事が多いオレだが……ココ最近嫌な予感がする。動物的カンがそう言っている。2年に進級して2ヶ月がたとうとしていた。制服も夏服に変わった頃、オレの心にも変化が起きはじめたんだ。
「あ、また隣のクラスバレーするんじゃね?」
「ホントだ。超仲良いよな男子と女子」
昼休み、購買でパンを買いに行こうと友達と共に教室を出ると隣の教室からワラワラと人がたくさん出てきた。これは今日だけの光景ではない。
昨日もその前の日も同じ光景を見た。男子と女子がかたまりになって、楽しそうにどこかへ向かっていく光景。話を聞けば来週に迫った体育祭のため、昼休みにバレーの練習をしているらしい。男女混合で。その中にはアイツの姿もあった、オレの知らねぇ奴らと楽しそうに話をしている佐藤の。
同じクラスだった1年の頃には何かとオレと一緒にバカばっかりやっていたのにな。つーかなんか変わった?大人っぽくなったっつーか、雰囲気が女っぽくなったっつーか。アイツあんな顔してたっけ?女子ってたった2ヶ月であんなに変わるもんか?オレは気づけば佐藤の後ろ姿をじっと見ていた。
いや、それよりも……
「男子と女子で一緒に練習する必要なくね?」
体育祭の試合はもちろん男子と女子は別々だ。だから、わざわざ男女一緒に練習する必要あんのか?オレは思ったことをそのまま口にする。すると隣を歩く友達がニヤニヤとした顔でオレに言ってきた。
「面白くなさそうだなぁ?」
「なにがだよ?」
「そうだよなぁ~、お前にとっちゃ面白くねぇよなぁ~」
何か意味を含んだ言い方をする友達だが、オレはその『意味』がわからず「だからなにがだよ」と問いかけても友達は答えを教えてはくれなかった。
その『答え』を知るのはまだ先のことだ。
「信長なんかあった?」
部活が終わったあとの自主練の最中、オレは先輩の神さんに声をかけられた。オレが尊敬する先輩で、今ではキャプテンを務めている人だ。これからはじまる県予選を一緒に闘っていく大重要人物。
「なんかって、なんすか?」
身に覚えのないオレはタオルで汗を拭きながら逆に神さんに問いかける。すると神さんは「うーん」と少し考えたあと「なんにもないならいいや」と言って自身のシュート練習を開始した。
オレはそれを見ながら(相変わらず綺麗なシュートフォームだな…)なんて思う。
神さんは3年になっても変わらねぇなぁ。つか、人ってそんなにすぐ変われるもんか?ましてや中身とかじゃなく外見とか。オレは昼間見た佐藤の姿を思い浮かべる。
……アイツあんなに可愛かったか?
「ねぇ神さん」
転がってきたボールを神さんへ渡しながらオレは声をかける。神さんはオレからボールを受け取り「なに?」と言いながらシュートフォームへ入った。
「女ってちょっと見ない間に変わるもんなんすかね?」
オレの言葉に神さんはボールを放つ手を止め、くるりとオレへと向き直った。なんだかその顔は少し楽しそうにしている。
「そうか、それが原因か」
ニッコリと笑った神さんは再びシュート練習をはじめた。オレの問いには答えずに、意味の分からないことを言って。その後も神さんはオレの問いかけに答えることなく、黙々とシュートを打ち、リングの中へとボールをバシバシくぐらせていく。
オレはなんだか嫌な予感を抱えたまま自宅へと帰った。オレのこのモヤモヤの原因がわかるまであと数日ーーー。
体育祭当日。オレの心は依然として嫌な予感を抱えたままだ。本当はバスケに出たいのだが、自分の部活の種目には出ることが出来ないので球技の種目はサッカーに出る事になった。ふと試合中に外野を見ると佐藤の姿を発見する。バチッと目が合った気がしたが、一瞬の事だったし、この距離からだと勘違いかもしんねぇし、核心はもてなかったんだ。
それでも、なぜだかオレは気合が入って、ハットトリックなんかキメてやった。さっきは勘違いかもしんねぇ…なんて思ったけど、オレが点をとった瞬間にアイツは笑ってたんだ、それは見間違えなんかじゃねぇ。前みたいにオレの前で見せていた笑顔を見せたんだ。
その顔を見たオレは思わず佐藤へ駆け寄りたくなった。駆け寄って「よっしゃあ!」なんてお互いに喜びあいたかった。けど、そんな気持ちは虚しく宙を舞う。
なぜなら、つぎの瞬間オレが見た光景は佐藤に近づき、頭をわしゃわしゃと撫でる男の姿だったから。
その時オレは、ようやく最近心の中がモヤモヤしていた嫌な予感の正体に気が付いたんだ。佐藤が誰かのモノになってしまう、前までオレの隣で笑っていたその笑顔がオレじゃない、誰かのモノになってしまう予感だ。
1年の時みたいに同じクラスだったら、もっと近くで応援してもらえたんだろうか…ハイタッチなんかして、喜びあえたんだろうか…。なんでクラス替えなんてあんだよ。クラス替えのバカヤロウ。
ーーいや、今んなって自分の気持ちに気付いたオレが大バカ野郎だな。
「信長、体育館見に行こーぜ」
「ん?おぅ……」
「どーしたんだよ、元気ねーな。お前さっきハットトリックまで決めてじゃねーか」
「いや、オレってこんなにバカだったかなと思って」
「今さら何言ってんだよ。おっ、ちょーど隣の組のバレーやってんじゃん。女子だけど」
オレが体育館へやって来ると佐藤のクラスがバレーの試合をしていた。コート上の6人の中に佐藤の姿を発見する。だが、オレが試合を見始めようとした瞬間にちょうど最後の25点目を決め、試合は終了してしまった。どうやら佐藤のクラスが勝ったらしい。整列が終わったあと、オレはまたまた嫌なもんを目にすることになる。さっき佐藤の頭を触っていた男子がコートへと入り、今度は佐藤とハイタッチをしていたのだ。
別に試合に勝ったんだから、クラスメイトとしてハイタッチぐらいするのは当然のことだろう。けど、たかがハイタッチされどハイタッチ、オレの嫌な予感はこれほどかというぐらい膨大に膨れ上がっていく。
「つか、お前腕めっちゃ擦りむいてね?!」
「さっきレシーブした時にやっちゃった」
嫌な光景から目を背けようとした時、アイツらの会話が聞こえてきてオレは見たくはなかったが、まじまじとアイツらの方を見た。すると、男に腕を見せている佐藤。男は「うわ、ぜってー痛てぇじゃん」なんて言っている。そしてソイツは佐藤の腕をつかみ歩き出そうとしていた。
「保健室行こうぜ」
ーーー目が合った。
男に引っ張られている佐藤と。
佐藤は慌てたように男の手をブン!と払い除け「大丈夫、1人で行けるよ」と笑い、バタバタとオレの前を走って通り過ぎていく。
オレとは目も合わさずに。
体育館を出て行く佐藤の背中を見たオレは、気が付いたら後を追っていた。何も言わずに走り出すオレに一緒にいた友達が後ろから「おい?!」と声をかけられた気がしたが、そんな事は無視をして体育館をあとにした。
そして保健室のドアの前であがった息を少しだけ整え、ドアを開く。保健室へ入ると中には佐藤だけがいて、他には誰もいなかった。きっと保健医の先生も他の場所へ行ってしまっているんだろう。今日なんて日は大忙しに違いない。棚の中にある消毒液を手に取った佐藤は驚いた顔でオレを見ている。
「え、清田……?」
「よう」
「どうしたの?なんか怪我したの?」
「いや、ちげぇけど…」
怪我もしていないのに保健室に来るなんて、誰が見ても不思議に思うに決まっている。案の定佐藤も不思議そうな顔でオレを見ていた。
「あ、もしかして私を追いかけて来た?なんて」
「そうだよ」
冗談っぽく笑ってた佐藤は、オレの肯定した言葉に一気に顔の表情を変えた。目を丸くさせてパチパチと何度も瞬きをさせている。それに対してオレは何も言えなかった。次の言葉が出てこねぇ自分を殴ってやりてぇ……。保健室の時計の音だけがカチカチと聞こえる。
「なんか久々だね、こうやって2人で話すの」
消毒液を擦りむいた腕にかけようとしながら佐藤は沈黙を破った。オレはその消毒液を奪い、それを佐藤の腕にかける。擦り傷になっていた部分に。すると佐藤は「痛っっっ!!」とオレの腕をバシバシ叩く。これだけ擦りむいていたらそりゃあ染みるのも無理がねぇな。
流れてくる消毒液を優しくティッシュで拭き取り、オレは絆創膏を傷口に貼った。
「ありがとう…」
「おう…」
「清田って以外と丁寧なんだね」
「どーゆー意味だよ」
「そのままの意味だよー」
オレに絆創膏を貼られた腕を眺めたあと、こちらを向いてにししと笑う佐藤にオレの心臓は大きな音を1つたてた。
「やっぱりお前可愛くなったな」
思わず口から出た言葉に慌てて手で口を塞いだが、当たり前にもう遅い。目の前の佐藤を恐る恐る見ると顔を真っ赤にして目を大きくしている。バチッと目が合ったオレらはお互い同時に顔を逸らした。そして保健室には再び沈黙が訪れる。やっちまった。
いや、でも嘘じゃねぇし。ポロッと口から出ちまったけど、ハンパな気持ちなんかじゃねぇ。
「アイツと付き合ってんの?」
「アイツって?」
オレが手当をした腕を軽く掴みながら佐藤はオレの質問に質問で返してくる。
「さっき喋ってた男」
「さっき……あぁ!付き合ってないよ。てか、彼氏なんていないし」
「そっか……そっかぁ~」
心底ホッとしたオレはすぐ近くにあった丸い回転椅子にドカッと座った。きっと力が抜けたんだと思う。勢いよく座ったため、椅子のローラーが動いて、クルリと佐藤がいる方向とは反対を向いてしまった。オレは佐藤に背を向けたまま、天上を見上げた。ーその時、後ろから声が聞こえてくる。
「清田こそ……彼女でもできた?」
「はぁ?!?!」
保健室中に響き渡るでけぇ声を出しながらオレは椅子から飛び上がり、佐藤の目の前へと駆け寄る。その様子に驚きながらも佐藤は話を続けた。
「だって清田さ、どんどんカッコよくなってんじゃん」
自分の腕をキュッと掴みながら、佐藤はオレとは目を合わさずに頬を赤らめている。
「いねぇよ、彼女なんか」
同じ気持ち……って事でいいんだよな?オレはもう自分の気持ちを隠す必要なんてねぇんだよな?まぁ、元々隠す気なんてなかったんだけどな。だって隠しきれるわけねぇじゃねえか。こんなに佐藤が可愛くて仕方ねぇんだから。オレの恋愛感情が爆発しそうだ。
「あの、よ…」
「はい」
「次の日曜日、部活午前中だけだから午後から……その、映画、でも行かね?」
「……うん。超オシャレして行くね」
「……おう」
ニコッと笑う佐藤のすげぇ可愛い笑顔を目の前にして、オレは必死に顔がニヤけるのを我慢した。そして新たな予感がした。オレの動物的カンが騒いでいるのだ。
次の日曜日は最高の日になるってなーーー。
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