日々
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見たくないものを見た時ってみんなどうするのかな?その事実から目を背けるのかな?それとも真っ向から向き合って受け止めるのかな?
「あ」
「あ」
2人の言葉が重なる。そして言葉だけではなくバッチリと重なり合うのは2人の視線だ。
ガヤガヤと食堂の喧騒が何も聞こえなくなって、いつもの騒がしさが嘘のように自分の心臓の音だけが響いている。まるで真夜中の部屋にいるようだ。それでも視界はとてもクリアで、目の前の光景が嫌でもハッキリと脳に入ってくる。自分の彼氏が女の子とお互いの携帯を近づけて、赤外線送信をして携帯番号を交換してる光景が。
こんな光景は誰だってあまりいい気はしないだろう。でも、番号交換したからといって必ず浮気になるわけでもないし、いつもなら私だってそんなに気にはしない。けど、今日は別。なぜなら私と彼氏である寿は数日前から喧嘩をしていて、連絡も取り合っていなかったのだ。
寿とは同じ大学だけど、なかなか大学内で会うこともなく数日が経過していた。久しぶりに見かけた彼氏の姿がまさか女の子と番号交換をしている姿だなんてね。
私はくるりと方向転換をして、今来た道を戻ろうと歩き出す。顔が熱くなるほどの腹立たしい気持ちと、胸が痛くなるほどの悲しい気持ちを抱えて。
眉間にグッと力をいれて、溜まってきた涙がこぼれ落ちないように歩く。それでも視界はすでにボヤけてきていて、瞬きをするとポタリと涙が落ちてしまいそうだった。が、その涙が落ちたのは思いもよらぬ事からだった。
「おい!まなみ!!」
勢いよく掴まれた腕、その反動で振り向いたその瞬間に私の涙は落ちてしまったのだ。
「は?!お前泣いてんの?!」
私の腕を掴んだまま大きな声を出す寿。その為、廊下にいた他の学生たちはヒソヒソと話しながら私たちを遠巻きに見ている。さすがにこの状況はマズイと思ったのだろう、寿はバツが悪そうに私の手を握って歩き出し、誰もいないゼミ室へと連れてきた。
「あのなぁ、アレはちげーかんな!」
「……何が違うのよ。やましいから追いかけて来たんじゃないの?」
「あぁ?!んなわけねーだろ!誤解されたくねーから追いかけて来たんだろ!」
寿の必死な声と顔に私は何も言えなくなってしまった。……そんな必死になんなくてもいいじゃない。思わず私の涙は引っ込んでしまう。
私に誤解されたくないから、なんて言われたら少なからず嬉しく思っちゃうじゃん。
「アレはそーゆーんじゃねぇ!」
何がどーゆーのなのよ。相変わらず言葉足らずというか、なんと言うか……。私たちは立ったままでお互いの顔を見る。決して見つめ合うとか甘い言葉とは程遠い感じだけれど。それでも必死な寿の姿を目の当たりにして、私はさっきまでの苛立ちと悲しみは少しずつ薄れていった。
「アレは」
寿の言葉を最後まで聞かずに私はギュッと寿に抱きつく。
「怒ってんじゃねーのかよ」
「怒ってるよ。それに悲しんでもいる」
「……悪かったよ」
寿はポツリ言うと私を抱きしめる。
後頭部を抑えている寿の大きな手がとても心地よくて、なんだか安心した私はさっきとは別の涙がポロポロと溢れ出てきてしまった。
「なっ、なんで泣くんだよ。悪かったって!」
私が鼻をすすりながらヒクヒクと肩を動かした事で、寿は私が泣いていることに気がついたのだろう。両肩をつかみながら顔を覗き込んで慌てている。
「違、う……。ホッとしたの、っ、もうこのまま寿とは別れちゃうんじゃないかって、思ったんだもん」
子供のように泣きながら私は自分の想いを吐き出した。すると、それを聞いた寿は再び私を抱きしめる。先程とは比べものにならないほど強く、キツく。
「バカヤロウ。んな簡単に別れっかよ」
「……うん。ごめん」
私たちはどちらからとも無くキスをして、笑い合った。「アレは最近入ったバスケ部のマネージャーだからな!」と未だに必死に弁解をする寿に私はクスクスと笑ってしまう。そんな私に「なに笑ってんだよ」と少しだけ寿は不満そうにした。
「でもさ、私が男の人と番号交換してたら寿怒るでしょ?」
「したのかよ?!」
「例えばのはーなーし!」
廊下を並んで歩きながら私たちは話をする。
例え話に寿は口を尖らせる。そのでかい図体とは正反対にまるで不貞腐れた子供のようだ。
「別にそれぐらいでオレは怒んねーよ」
ふん、と鼻を鳴らしながら言う寿に私は心の中で「嘘つけよ」とつぶやいた。きっと喧嘩中とかじゃなくてもそんな場面を見たら寿は激怒、というよりも不貞腐れるに決まっている。
……私だっていい気はしないもん。
「あのマネージャーになったっていう子、可愛かったね」
イジワルのつもりで言ったのに、思わぬ収穫を私はしてしまった。
「あ?お前よりいい女なんていっかよ」
ボソッと前を向いたまま言う寿に私の顔は緩む一方だ。だって、そんな事言うなんてずるいじゃないか。嫌味を言った自分を恥ずかしく思った。
「なに?今なんて言ったの?」
「っせぇ!聞こえてんだろ!」
「もう1回!もう1回言ってよ」
「ぜってーやだね!」
グイッと寿は私の手を掴み、キュッと指を絡ませた。私も負けじとその手を強く握り返す。
「今日泊まりに来いよ」
「言われなくてもそーするつもりでした」
もう数日前にした喧嘩の原因なんて思い出せなかった。私たちはこうやって2人で歩いて行くんだろうなぁ、なんて、泣いたカラスがもう笑っている状態だ。くだらない事で喧嘩して、怒って、泣いて、仲直りして、好きっていう気持ちに再度気付かされて、目まぐるしく日々を過ごしていくんだ。大好きな寿とーーーー。
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