強がり
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大人になったって泣くことはある。
ただ、それは人前ではなかなか出来なくなってしまうことで、たとえそれは大切な人の前だとしても……。
「もう!!なんで私がやらなきゃいけないの!それにあんな言い方しなくたっていいじゃん!!」
ガチャガチャと雑に鍵をあけて玄関へ入った瞬間、私は持っていたカバンをバシッ!っと床へ叩きつけた。思いのほか強く叩きつけた事で出た大きな音によって私はスグにハッと我にかえる。
こんな事をしてもどうにもならないのにーーー
虚しい気持ちを覚えた私はスっとカバンを持ち、リビングへのトビラを開けた。
ドサッと倒れ込むようにソファへと仰向けでダイブすると、ポロポロと我慢していたものが頬をつたった。泣きたくなんかないのに。
仕事で理不尽な事があったからといって泣くなんてホントは嫌なのだ。だってそんなの悔しいじゃない。
流れる涙を拭うこともせず、ただただリビングの天井を眺めていると遠くの方からブーブーとバイブ音が聞こえてきた。間違いなくそれはカバンに入っているスマホが震えているのだろう。
「…………」
スマホなんて放っておけばいいのに、私の性格上どうしても気になってしまう。「よいしょ」と情けない声を出しながら目をこすってソファから立ち上がり、私は床に転がっているカバンの中をゴソゴソとあさった。
「あっ」
スマホのディスプレイを見た瞬間思わず声が出て、慌てて通話マークをタップした。
「もしもし」
『仕事終わったか?』
「うん……」
スマホ越しに聞こえてくるのは愛しい人の声。
彼氏の洋平の声。その優しい声に安堵した私は再び涙が出てきてしまった。
『……まなみ』
「なに?」
洋平に悟られないよう、鼻をすするのを必死で我慢しながら私は返事をする。
『泣いてね?』
「な、泣いてないよ!」
『嘘はよくねーぞ?』
「嘘じゃないし、洋平ったら何言ってんの」
ダメだ。洋平相手に嘘なんてつけるわけがないんだ。いつでも私のことを誰よりもわかってくれている彼に、嘘なんて通じるわけがない。
「……ッ、ごめん、ちょっとやらなきゃいけない事あるから切るね」
私は半ば強引に通話を終わらせた。
ホントはもっと声を聞きたかった…欲を言えば会いたい。会って抱きしめてほしい。
きっと洋平にそれを言ったらすぐにでも飛んできてくれるだろう。それぐらい洋平は私を大事にしてくれている。でも、それは嫌なのだ。甘ちゃんで、弱い女…そんなの私のキャラじゃない。
通話を終わらせた私はトボトボと頼りない足取りでバスタオルを引きずりながら浴室へと向かった。お湯を張る元気もなく、熱いシャワーを浴びながらそのまま涙も一緒に流す。
腹の中では死ぬほどムカついて、自分が正しいと思っていても何も言えない。恋人にすら甘えることができない。……そんな自分に嫌気がさす。
洗面所の鏡に映っている赤くなった目と鼻を横目で見ながら、バスタオルで髪の毛をワシャワシャとふきながら力無くソファに腰掛けた。
「はぁ…」
いつもならお風呂上がりにアイスでも、なんて鼻歌混じりで冷蔵庫を開けるのに、今は真っ暗な画面のテレビをぼーっと眺めるだけ。
こんな時隣に洋平がいたらな……なんて上手に甘えることもできないのに思ってしまう。
どのぐらいの時間呆けていたのだろう。
髪の毛を乾かしていない事に気付いた私は洗面所へ向かおうと立ち上がったその時ーーーー
ピンポーン
部屋に響き渡るインターホンの音。
まさか……そう思った私は小走りで玄関へ走り、鍵を解錠してドアを開けた。
「おいおい、ちゃんと確認したのか?」
私の目の前に入ってきたのは困ったように笑う洋平の姿。
やっぱりーーーー。
「正義の味方参上、なんてな」
「……正義の味方じゃなくて王子様じゃん」
「ははっ、それは照れくせーな。とりあえず中に入れてもらってもいいですか?」
笑いながら言う洋平の言葉に私は慌てて彼を部屋へと招き入れた。
「ほら、好きなの食えよ」
洋平はガサッと持っていたコンビニの袋を差し出す。それを受け取った私は袋の中に入っているものを確認した。中にはアイスが何個か入っている。それも全て私が好きな物ばかりだ。
私はグスッと鼻水をすすりながら洋平の肩におでこをつけた。すると洋平は私の頬に手を添えて、ゆっくりと顔を上げさせるとそっとキスをして、私の目をじっと見つめる。
「なんだか目と鼻が赤いんじゃないんですか?お姫様」
私の目の下をそっと優しく撫でながら洋平は言う。かと思うとぶにっと鼻をつまんだ。
「ちょっ!?」
「嘘はよくねーっつったろ?」
「ご…ごめんなさ」
言い終わらないうちに洋平は私をフワリと優しく抱きしめる。私の全てを包み込んでくれるかのように。その温もりは私の心までも暖かく包んでくれるのだ。
「まなみ1人を支える腕っぷしぐらいはあるつもりだぜ?」
私はバカだなぁ…洋平の前で強がったってどうしようもないじゃん。弱いところを見せたり、甘えたりしてもいいんだよね。周りには見せない姿、見せたっていいんだ。洋平にだけはーーー。
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