熱
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「痛ぁ!」
目の前でそう言って自分の頬を抑えながら目を大きくし、唖然とした顔をしている男がいる。その男の名は仙道彰。クラスメイトでもあり、私がマネージャーをしているバスケ部の部員でもある。
そして学校一のモテ男という称号が与えられている男だ。そんな男がなぜこんな状態になっているのかというと……
遡ること5分前ーーーー
「壁ドンだぁ?!」
放課後の教室に響き渡る大きな声。教室の中には3名の男女の姿しかない。まず1人目は私、2人目は仙道、そして最後の1人は大きな声をあげた張本人の越野だった。私たちは全員クラスメイト兼バスケ部仲間という間柄で、今日の部活の時間が学校行事の都合でいつもより遅くはじまるため、教室で時間をつぶしていたのだ。
「壁ドンなんてアレだろ?!どーせいい男に限る、ってやつだろ?!」
「そりゃそうだよ」
先程越野が言っている『壁ドン』とはあの壁ドンの事だ。ドラマや少女漫画などでよく見る、壁にピタリと背をつけた女の人に対して、男の人がその壁にドン!と手をつける事。それを実際やる人はいるのかという話を3人でしていたのだった。
「……まぁ?どっかの色男さんならやっても様になるんだろうけどな?!」
越野は机にぐだーっと寝そべりながら、仙道を睨んで言った。まぁ、私もその意見には同意かな。
「え?オレ?」
まぁ、確かにこれだけ顔が整っていて高身長な男が壁ドンなんてした日にゃぁ、そりゃものすごく絵になるだろう。しかもサラリとやってのけそうだし。
「した事ねぇよ、壁ドンなんて」
「ほぉ~~~?!天下の仙道さんでもした事ねぇってか」
「てか、2人とももうそろ行こ、時間だよ」
「マジだ!行こうぜ!」
越野はガタッと勢いよく席をたつと私と仙道を置いて一番乗りで教室を出ていった。私が教えてやったのに、と腑に落ちない気持ちを抑えながら荷物を持って教室を出ていこうとしたその時だったーー。
「え?」
グッと後ろから肩をつかまれ、気付いた時には私の背中は廊下側の壁にくっつき、顔の横には仙道の大きな手の平がその壁に押し付けていた。
まさに先程3人で話をしていた壁ドンが自分の身に降ってきたのだ。
「動くなよ」
小さくそう言った仙道のその顔がゆっくりと私の顔に近づいてくる。そして仙道の手が私の頬に触れた時……
パン!!!!!
「痛ぁ!」
人間の本能とは、時にその人が持っている能力を上回るような力を発揮する時がある。完全に今の私がそうだった。まるで光の速さのごとく私の手の平は仙道の頬へと見事にヒットした。
そう、ビンタです。
これがかれこれ私の身に起きた5分間の出来事。
「な、な、な、なにすんの!!!」
「いや、何もしてねぇだろ」
「何しようとしたの!!!」
「え、まつ毛」
「は?!」
仙道は親指と人差し指で何かを掴んでいるように見えた。……ま、まさか。まつ毛って。
「さっきから顔についてたの気になってたんだよ」
仙道は私の手の平に掴んでいたソレをそっと置いた。そう、私のモノであろう、まつ毛を。
「マジ…?!」
「いや、それはオレのセリフだろ」
仙道は笑いながら私の頭をポンポンと優しく叩いた。穴があったら入りたい、自分がこの言葉を使う日が来るなんて。と、同時に仙道の赤くなった頬を見て本当に申し訳ないと思った。
「……ごめんね」
「別にいーよ、こんぐらい」
「まさかビンタされ慣れてる…の?」
「ははは!なんだよそれ。オレの事どんな奴だと思ってんだよ」
心の底から笑ってくれている様子の仙道を見て私はホッとした。そうなんだよね、仙道ってガチで怒ったりとかしてる所見たことないんだよ。普段から誰に対しても優しい奴なんだよね。
「ホントにゴメンね。じゃあ私たちも行こっか」
そう言って教室のトビラに手をかけようとした私はデジャヴを感じた。というかデジャヴなんかじゃなく、さっきまでの記憶が巻き戻されたかのようだった。だって、つい数分前と同じ状況になっているんだもの。
グッと肩を後ろからつかまれ、仙道に壁ドンをされている私。
「え、仙道?」
「悪いと思うならもらっちゃおうかな、ワビってやつを」
そして仙道の唇がそっと私の唇に触れた。
動けなかった……というか、動く気もなかった。だって、まさかされると思う?!さっきのやり取りのすぐ後だよ?!?!?!舌の根も乾かぬうちにとはこの事か……。いやいや、そういうんじゃなくて。
「なにすんの!!!!」
「え、キス」
「言わないでよ!!」
「なんだよそれ、そっちが聞いてきたんじゃねぇか」
笑いながら仙道は私の肩にポン、と1度だけ手を乗せて教室のトビラをあけて廊下へ出て行った。そして「早く行こうぜ」なんて何事もなかったのような態度で言った。
私はというと…教室を出る時に足をトビラに強打はするわ、荷物を教室に忘れて取りに行くわ、散々だ。そりゃ仙道ぐらいになるとキスの1つや2つどうって事ないことなのかもしれないけれど、私にとっては………
「あ!」
体育館へ向かう最中仙道は思い出したかのように私に話しかけてきた。警戒しながら「なによ」と私は言う。もちろん睨みをきかせながらね。
「ははは!そんな警戒すんなよ」
「するに決まってるでしょ!!!」
「オレさ、好きな子にしか自分からキスしねぇんだわ」
「え」
「しかもさっきのがハジメテってやつ」
……は?
え、なに?誰か通訳して?
仙道のハジメテのキス?いや、違う違う。
ハジメテ好きな子にキスを……した??
「つーわけで、今日から覚悟しろよ?」
私の少し先を歩く仙道は振り向きながら言う。まるで爆弾でも落とすかのように。その熱は私の身体を一気に焦がすーー。
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