愛しい
空欄の場合は「まなみ」になります。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私の彼氏はどうやらモテるらしい。
確かに顔はカッコイイし、背も高い。一般的に考えたら間違いなくモテる部類に入るのだが…。
「なんか三井さん、見られてません?」
「あ?あぁ、昨日告ってきたやつじゃねぇか」
「は?!」
最近こーゆー事が多い。
バスケ部のマネージャーである私が、部員で2つ年上の三井さんと付き合って3ヶ月。夏休み前に付き合ったんだけど、夏休みがあけた頃から三井さんのモテ期がやって来た。
さっきも言ったけど、元々顔はいい方だし背も高いんだけど……今までは不良でグレていた事もあってか目立ってモテてはいなかったのだ。
今日も部活が始まる前、3年生のお姉様たち数人がやたらと三井さんをジロジロと見ていたので、気になった私は直接三井さんに聞くとそーゆー事、だったのだ。
「え?!また告られたんですか?!」
「まぁな。んだよ、ヤキモチか?」
三井さんは嬉しそうにニシシと笑い、バスケットボールを持ったまま私の顔を覗いてくる。
その無邪気な笑顔に胸が高鳴ってしまう。付き合って3ヶ月たっても三井さんにドキドキしてしまう。我ながらベタ惚れなんだよなぁ……。
だから最近、こんな私で大丈夫なのか?と思うことがある。特に目立って可愛いわけでもなく、スタイルがいいわけでもない私が…こんなモテ男な人と付き合ってていいのか、ってね。
だからもちろん男子からモテるわけでもないーーーって思ってたんだけど。
ーー数日後ーー
「好きなんだ」
開いた口が塞がらない、とはまさにコレなんだ。
放課後の教室、日直だった私はもう1人の日直の男子と日誌を書いていたのだが、まさかの愛の告白を受けてしまった。
にしても、私はもっと可愛い反応というものができないんだろうか。言葉のとおり、口をポカンと開けたまま何も言えないでいたのだ。
「……わりぃ、三井さんと付き合ってんのは知ってんだけど。どうしても言いたくて」
「……あ、そう、なんだ」
相手がいる人に告白をするーー
それはとても勇気がいる事だし、すごい決断だと思う。もちろん好意を示されることは嬉しいけど…
「ごめんね」
「いや、わかってたし。こっちも困らせて悪かったな」
私には揺るぎない想いがあるから。
それはただ1人にだけ向かっているんだ。
バタバタと廊下を走って体育館へと向かう。大好きなあの人にいち早く会いたくて、顔が見たくて。
体育館のトビラを勢いよく開けると、もうすでに部活は始まっていた。
「あら、まなみ。今日は日直だったんでしょ?もう終わったの?」
もう1人のマネージャーである彩子さんが私に近づき話しかけてきた。さらにもう1人、同じくマネージャーの晴子ちゃんがクスクスと笑っている。
「どうしたの?制服のままでそんなに慌てて」
そう言われハッとした。
いつもは空き教室やトイレで着替えてから体育館へと行くのだが、私は着替えることも忘れて制服のままでやって来てしまったのだ。制服のままで部活なんてできるはずがない。
「で、出直してきます…」
私はしょぼんと小さくなりながら、普段はあまり使わない体育館の更衣室へと向かう。ここの更衣室はジメッとしているし、決してキレイではないので普段は使っていなかったのだ。そして無事に着替えを済ませ、私は部活へ参加した。
ーーーが、その日の部活はなんだか集中が出来なくて、ボールは顔に当たるわ、モップがけの時にすっ転ぶわという、普段絶対にやらないような事をやらかしてしまうのだった。
「おい、鼻つぶれてんぞ?」
「え?!?!」
部活が終わり三井さんと並んで歩く帰り道。
幸せで楽しいひと時なのに、三井さんはとんでもない事を言い出したので、私は思わず鼻を手で抑えた。
……いや、ボールがぶつかったぐらいでつぶれるわけないじゃん。
「失礼な!元からです!!」
「はははは!そうだったな!」
三井さんはひとしきり爆笑をした後、少し黙ってから私の手を握ってきた。帰り道に三井さんから手を握ってくるなんて珍しい事で、思わず私は三井さんの横顔を見る。
「……なんかあったのか?」
「え?」
「今日おかしかったろ、お前」
私の様子がおかしかった事に三井さんは気付いていたんだ……私は言うべきか迷ったが、クラスメイトに告白された事を三井さんに言った。
正直に言うと、ちょっとヤキモチを妬いて欲しい気持ちもあったのだ。
「へぇ~、やるじゃねぇか」
「なんか…余裕の反応ですね」
「余裕に決まってんじゃねぇか。だってお前はオレにベタ惚れだからな」
余裕の笑みを浮かべた三井さんは私の顔を覗き込み、ニカッと笑う。
そんなホントの事を言われちゃあ、ぐうの音も出ないよ。悔しいけど。
私たちはそっと口付けを交わした。
「なんか悔しいな」
「あん?何がだよ」
「いつもヤキモチ妬いてんのは私じゃないですか」
「まぁ、モテる彼氏を持つと仕方ねぇだろ」
ふふん、と得意げに言う三井さんにイラッとしながらも、そりゃそうだよな、なんて納得をしてしまう自分が悔しい。
「三井さんはヤキモチとか妬かないんですか?」
「あぁ?!なんでオレがヤキモチなんて妬くんだよ」
「……聞いて損した」
ブスっと不貞腐れる私に三井さんは面白がって、膨らんだ私の頬を人差し指でつつきながら笑っている。三井さんを不安がらせたいとかじゃないけど、ちょっとぐらいヤキモチ妬いてくれてもいいのになぁ。そんな事を思いながら、三井さんとバイバイをした。
ーー次の日ーー
「へ?!辞書?!」
「おぅ、お前持ってねぇ?」
2時間目の授業が終わった10分休みに三井さんが私の教室へとやって来た。こんな事ははじめてだ。
「ありますけど、赤木さんか木暮さんに借りればいいじゃないですか」
「うっせぇ」
三井さんは私が差し出した辞書を受け取ると、ワシャワシャと雑に私の頭を撫で回した。
そして「サンキュー」と言って教室を出て行った。
そもそも辞書なんて持っていったところで、本当にちゃんと使って勉強するのか疑問だ。
「ねぇまなみ」
三井さんと入れ替わりに1人の友達が私の席へとやって来た。
「あんた昨日告られた事、三井さんに言った?」
この子は中学からの大親友で、昨日の出来事を知っている唯一の人物だ。私が三井さんにヤキモチを妬いてもらえないと愚痴も言った。
「ん?言ったよ」
すると友達は声をあげて笑いだした。
「え?!なに?!なにがおかしいの?!」
「あっはっは!だからかぁ~」
友達は「納得~」と言いながら大爆笑している。
私は取り残され、何が何だかわからなくて首を傾げる事しかできない。
「三井さん、まなみが棚に辞書取りに行ってる間、めっちゃ教室見渡してたんだよ。これでもかってぐらい睨みきかせてね」
「それの何がおかしいの?」
「牽制してたんでしょ」
「牽制?」
「コイツはオレの女だからな、って」
ビシッと指を指された私は目をパチクリさせ、昨日の帰り道を思い出す。余裕ぶって笑っていた三井さんの顔を。
そして私は自分の顔がどんどん緩んでいくのを感じた。だって……そんなん緩むじゃん!!
あんだけ自信満々にしてた人が、実は心配でわざわざ牽制する為に教室に来たんでしょ?!
そんなの可愛すぎるし、嬉しすぎる。
そして、愛しい。
「愛されてんね」
友達の言葉に私は「うん!」と元気よく返事をした。きっと今日の部活は2人していつもより張り切っちゃうんだろうなぁ……。
だって私はあなたに夢中だし、あなたも私に夢中なのだから。
1/1ページ