下心
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いい大人になると言葉を交わさずとも、なんとなくお互いの気持ちがわかってくるものだ。
けれど、それはとても不確かなモノでその『なんとなく』を確かなものにしたいと思うのはいくつになっても変わらない思いなんだよね。
今日は先週行った合コンで知り合った洋平くんの家に遊びに来ている。一目見て私は彼をいいと思った。それは好きになる…とか、付き合いたい…とかそんな可愛い想いじゃなくて、彼と身体の関係になりたい。そんな不純な想いだった。
洋平くんはどんな風に触ってくるんだろう、どんなキスをするんだろう、どんな腰使いをするんだろう、どんな表情をするんだろう。
……私ってこんなに性欲強かった?
けど、合コンの時には特にお持ち帰りみたいな事もなく、ただフツーに連絡先を交換してお開きとなった。家に帰ってガッカリしたのは言うまでもない。それでも次の日に洋平くんからLINEが来た時は飛んで喜んだものだ。
そして、今日。
なんと私は洋平くんの部屋へと遊びに来ている。我ながらうまくやったものだ。
『飯でも行かない?』
洋平くんからのLINEはこうだった。
ご飯なんて外デートをしたい訳じゃない、そう思っていた私はうまい事を考えた。
それはお家デートがしたい、ということ。
と、いうのも…合コンの時に洋平くんは私が好きな映画のDVDを持っているという話をしていたのだ。私はまんまとそれをエサにした。
『久しぶりに観たい』
そう言ってまんまとお家デートにこぎ着けた。
完全に抱かれる気満々で。
「いらっしゃい。てか、オレん家でよかったの?」
「うん!久しぶりに観たかったんだもん」
「とりあえずコーヒーでいい?」
「ありがとう」
洋平くんは私をリビングのソファに座らせ、キッチンへと歩いて行った。向こう側ではカチャカチャと音が聞こえてくる。
私はちょこんと大人しくソファに座って……いるハズもなく、テレビ台に置いてある何枚ものDVDが気になり、ソファから降りてそれを見に行った。ほとんどが映画のDVDで、私が好きな映画がたくさんあってなんだか嬉しくて、少しだけキュンとしてしまった。
(……趣味合うのかも)
ーと、その時ひとつのパッケージに目がいった。
それは私が1番と言っていいほど大好きな映画のDVD。テンションが上がった私は「これめっちゃ好き!!」と言いながらDVDのケースを開ける。
そして中身を見た私は思わず「へ?!」と声をあげてしまう。それもかなりマヌケな声だったと思う。
なぜならそこにはコンドームが1つ、メモ紙と一緒に入っていたからだ。メモには「サンキュー!」とお世辞にもキレイとは言えない文字で書かれていた。
「なに見てんの?」
耳元で声が聞こえ、私は慌てて声がした方向を見る。そこには2つのマグカップを持っている洋平くんが立っていた。コーヒーをいれてきてくれたのだろう。
「えっと…あの……これは……」
私はコンドームが入っているDVDを洋平くんにおずおずと見せる。
「え?ハッハッハ!!なんだよコレ」
それを見た洋平くんは大きな声で笑い出す。まさに爆笑というやつだ。そして2つのマグカップをテーブルに置いた後、DVDのケースに入っていたメモをつかみ、じっとその文字を見始めた。
「この文字は…大楠だな」
「大楠……ってこの前の合コンに来てた大楠くん?」
「そ、前にこれアイツに貸したんだよ。んで、返ってきたあと中身は見てなかったんだけど…」
洋平くんは入っていたコンドームを親指と人差し指で摘むと、「アイツは中学生かよ」と言ってそれを眺めながらくつくつと再び笑い出した。
「それ、どーするの?」
私は床に座ったままで、立っている洋平くんを見上げながら言った。すると洋平くんは一瞬目を丸くしたあとゆっくりとしゃがんだ。
「オレと使う?」
ニヤリと笑うその顔に、私は一気に身体が熱くなるのを感じた。心臓の音もドキドキと大きくなっていく。
「なんてな」
洋平くんはニカッと笑ったあとに立ち上がった。私は離れていこうとする洋平くんの服の裾を掴む。行かないで、と声に出す前に反射的に身体が動いてしまった。
「私とじゃ…嫌?」
洋平くんの背中にトン…とおでこをつける。
少しの沈黙が過ぎたあと、私はフワリとあたたかい温もりに包まれた。気付いた時には洋平くんの腕の中。
「オレがコレを使いたいのは、今オレの腕の中にいる子と…なんだけど」
ペチ、と優しくコンドームを私の頬に押し付けた後、洋平くんは先程見せたような顔でニヤリと笑った。
「……1個で足りる?」
「うーん…足んねぇかもな」
私は洋平くんの首に、洋平くんは私の腰に手を回して唇を重ね合わせた。
お互いの気持ちをハッキリと言うこともなく、不確かなままだけど身体で感じ合えればそれでいい。
今はただ、それだけでいいーーーー。
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