1歩
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いつかその手に触れたいって思っていた。
その手を握りながら2人で歩いて行けたらって。
だけど、ずっと…ずっと前から心の奥底にしまってたんだ、この気持ちは。
高校に入学して1ヶ月、桜の時期も過ぎてゴールデンウィークが始まった。新しくできた友人たちと早速遊びに行く約束をした私は、その約束の日に着ていく洋服を買うために街へ1人で出てきていた。
別にそんなに気合いをオシャレをしても、遊ぶ相手の中に意中の相手がいる訳では無い。
それでも高校の入学と同時に始めたアルバイトのお給料が出て、ちょうど新しい服も欲しかったし、せっかくだし…という事で買い物へ行くことにしたのだ。
高校に入ったら彼氏をつくる!
なんて、日本中の女子高生になりたての女の子たちの八割が言いそうなな目標を立てた事だし、自分磨きのためにお金を使うなんてちょっと大人じゃん?
……まぁ、こんなこと思ってる時点でまだまだ子供だよね。
それに、ちょっと自分を磨いただけで彼氏が出来るなんて思っていない。だって、それでできるならとっくのとうに私には彼氏ができているはずだから。
私には片想いの相手がいる。
それもその片想い歴はもう9年。そう、小学1年生の頃からずっと1人の人を想い続けている。
もしかしたら自分が気付いていなかっただけで、もっと前から好きだったのかもしれない。
その相手とはーーーーー
「あれ、まなみ何してんの?」
それは駅のホームから外へ出て、目的のお店へと歩いて向かっている時だった。後ろから聞こえてきたその声に私は思わず固まってしまう。だって、聞こえてきたその声には聞き覚えがあったから。
「よっ」
私がゆっくり振り返ると、片手をポッケにいれて、もう片方の手をあげながら挨拶をしている男の人が立っていた。この人こそ私の長年の片想いの相手、水戸洋平。彼は私の幼なじみでもある。
「1人で来たのか?」
「う、うん…洋平は?」
私が聞くと洋平は苦笑いを浮かべながら、親指を立ててそれを後ろにクイッと向けた。
その方向を見ると、何やら肩を落として見るからに落ち込んでいる男の人3人がいる。
あれは洋平の悪友たちの野間、高宮、大楠の三バカで、中学の頃からつるんでいる仲間たちだ。
どこへ行くにも何をするのにもいつも一緒で騒いでいるので、昔っから目立っている軍団だ。
いい意味でも悪い意味でも目立っているんだけどね。
本当はもう1人その中でも1番目立つヤツがいるんだけど、彼はどうやら今はバスケットにハマりかけているらしい。
「あ~……失敗したのね?ナンパ」
「ははっ、さすが!まなみには全てお見通しだな」
ゴールデンウィークにナンパなんてある意味なんて平和なんだろう、、、
……いやいやいや。まてまてまて。
どこが平和?!もしナンパが成功しちゃったら洋平もその女の子たちと一緒に遊ぶって事でしょ?!まぁ、こんなガラの悪い連中について行く女の子たちもそうそういないとは思うけど……いや、それでも、こーゆーヤカラが好きな子たちだって世の中にはいる!!……失礼なのは承知だけどさ。
もし、運悪くそんな子たちに声をかけて、ナンパが成功してしまったら?!
そんなの嫌すぎるんだけど……。
「…………」
「どした?」
色んな考えが頭をめぐり、何も言えずに黙る私に洋平が声をかけてくる。
その後ろからは「おーい、洋平~」と彼を呼ぶ声が聞こえてきた。
『行かないで』
そんな言葉を言う勇気なんて私にはない。
そんな資格ももちろんない。
だって洋平にとって私はただの幼なじみなのだから。
「じゃあ…」
私がそう言ってこの場を離れようとしたその時、洋平が私の手首をつかみ、急に走り出した。
「え?!洋平?!」
「いーから」
後ろからは「おい!」とか「あれまなみちゃんじゃね?!」なんて言葉が聞こえてた気がするけど、洋平はそんな声を無視して私を引っ張って走ったまま止まる気なんてサラサラ無さそうだ。
人混みを上手い具合に避けながら私たちは後ろの声が聞こえなくなるほど、街中をしばらく走り続けた。
そしてようやく洋平はとあるファストフード店の前で止まった。
私はハァハァと息を切らしながら自分の膝小僧に手を乗せた。どうしてイキナリ走り出したの?!
そんな疑問の声もあげれないぐらいに全力疾走をしたのだ。そりゃ、息も切れて当然だよ。
洋平も「久しぶり走ったな」なんて笑いながら肩で息をしている。
「どっ、どうしてっ……」
まだ呼吸を完全に整えられないまま、私はすぐ近くにあったベンチに腰を下ろし、洋平に疑問をぶつける。すると洋平は手を腰にあてグッと背筋を伸ばしながら言った。
「たまにはしよーぜ」
「な、なにを?!」
「デートってやつ」
「デート?!」
思わず私は大きな声を出してしまう。
周りを歩く人たちの目線がこちらへ向き、慌てて口に手をあてた。
すると洋平は「デケー声」なんて笑いながら座っている私へと1歩進み、そのまま顔も近づけながら言った。
「嫌ですか?」
「……い、嫌じゃない、です」
嫌なわけ無い。
洋平とデートだなんて、むしろずっと望んでいたことだ。何年も前からからずっと。
「よっし、じゃあ行こーぜ」
そう言うと洋平は自分の左手を私の前に差し出す。その光景が信じられない私は微動だにせずただベンチに座ったままだ。
だって身体が硬直してしまったのだから。
「ほら、置いてくぞ?」
スっと前へ歩き出そうとする洋平に私は慌ててベンチから立ち上がり、洋平の手を掴んだ。
それも両手でガシッと。
「ははっ、んな慌てなくてもオレはどこにも行かねーよ」
洋平はキュッと私の右手を握った。
すなわち、私たちは手を繋いだのだ。
ずっとずっと触れたかったその手を握っている。ずっとずっと繋ぎたかったその手を繋いでいる。
「わりーけど、この手…ずっと離す気はねぇからな」
ニカッと笑う洋平の笑顔に思わず泣きそうになってしまう。私はズッと鼻水をすすり、握っているその手を更に強く握り直した。
「私だって離さないよ、ずっと」
私たちは笑顔で歩き出した。
2人で新しい道のりをーーーー。
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