鍾愛
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この前クラスメイトの女子たちが騒いでいた。
「髪切ったのに気付かないとかありえなくない?!」
「うーーわっ!最悪。終わってんね」
「ね?!好きならフツー気付くでしょ?!」
どうやら髪を切った事に対して気が付かなかった彼氏への愚痴のようだ。
女ってのはめんどくせぇなぁ。気付かなかったからなんだってんだよ。好きなら気付くとかそっちの勝手な言い分だろ。それなら素直に「髪切ったんだけど、どぉ?」って聞いてくりゃいいじゃねぇか。
オレはそう思いながらも、なんとなくその会話が耳に残っていた。
金曜日、オレの彼女であるまなみがいつもと違う髪型をして登校してきた。なんてタイムリーなんだよ。そんな事を思っているとパチッと目が合い、まなみはパタパタとオレの席へとやって来る。
「おはよう、寿」
「……はよ」
「お、その顔は私の髪型に気が付きましたね?」
ドヤ顔をして、自分の髪を触りながら言ってくるまなみに少しだけ心臓が跳ね上がる。
少しだけ……な。
コイツはオレを試すような事はしねぇ、いつも素直で直球勝負をする奴なんだ。そういう所に惚れた部分もある。
「どぉ?似合う?」
「……カワイイデスネ」
「何よその棒読みは」
ぜってぇ言われると思った。
けどなぁ……
「っせぇな、言おうとしてたことを先に言われると言う気が失せんだよ…」
オレが机に肘をつきながらボソッと言い訳をすると、まなみは目をランランと輝かせて顔を近づけてくる。そして満面の笑みで言った。
「可愛いって思ってくれてたんだね!」
…………いや、髪がとかじゃなく、今のその嬉しそに笑う顔がクソ可愛いじゃねぇかよ。ふざけんな。
「つか、なんでそんな髪に気合い入ってんだよ」
オレが素朴な疑問を吐き出すと、つい1秒前まで嬉しそうな顔をしていたまなみの眉間にシワがどんどんとよっていき、険しい顔になった。
明らかに怒りに満ちている。
ど、どーゆー事だよ…あんなに嬉しそうだった顔が一瞬でこうも変わるもんか?!
思わずオレはビクビクしながら言う。
「な、なんだよ……」
「寿、今日の約束忘れてたわけ?」
「約束って…………あ」
オレの頭の中で先週の出来事が再生ドラマのように映し出される。
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「え?!寿、来週の金曜日って部活ないの?」
「あぁ、なんか体育館が使えねぇとかなんだかでな」
「じゃあ放課後デートしようよ!」
「おぉ。わかった」
「久しぶりだね、ふふ、楽しみだなぁ」
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先週帰り道での2人の会話だーーーー。
これは完全にオレが悪いやつだ。
どう言い訳をしたって、忘れてたオレが100%悪いやつだ。あの時の嬉しそうなまなみの顔を思い出して、オレは申し訳なさから目を背け黙ってしまった。
「寿のバカ!歯抜け!!!」
「歯はもう入ってるっつーの!」
こんなアホなやり取りをした後、アイツは走って教室を出ていった。
待て待て待て。
これはまずいやつじゃねぇか。
廊下に飛び出したまなみをオレは慌てて追いかける。するとアイツは廊下で友達を見つけ「今日ヒマ?!遊びに行かない?!」なんて話をしている。
おいおいおい。なんつー事言ってんだよ。
勝手に新しい約束を取り付けようとするな。
「おいこら!」
オレは急いで走り寄り、まなみの肩をつかんだ。キッと睨まれ、一瞬たじろいでしまったが、オレは手を握り歩き出した。
後ろから「お幸せに~」なんて楽しそうな声が聞こえた気がした。
「なによ!離してよ!」
ズンズンと勢いよく進むオレに引っ張られながら、まなみはまだ怒りに満ちた声で言う。
離すわけねぇだろ。ぜってー離すもんか。
周りのヤツらの視線が痛いぐらいに突き刺さってくるのはわかったが、そんなの気になんかしねぇ。
手を握ったままやって来たのは体育館、幸いな事に中には誰もいない。鍵が開いていたのはラッキーだった。誰もいない体育館だが、なんとなく隅っこの方へとまなみを連れていく。
「悪かった…」
オレは素直に謝った。
こうして昔よりも素直に謝れるようになったのは、コイツのおかげかもしれない。
つっても、未だに意地をはったりすることもたくさんあんだけどな。
実際今だって目を見て謝ることが出来なかった。どうしても自分の非を認めているはずなのに、教室の時と同じで目を背けてしまうんだ。ガキみてぇだよな。
「…………じゃあアイス奢ってよね」
「……うぃ」
オレは下を向きながら言うコイツの頭の上に手を乗せ、くしゃくしゃと優しく撫でる。
「……セットしたのに崩れちゃう」
「あっ、わり」
慌てて手を引っ込めたオレにまなみは背伸びをして、キスをしてきた。そして「バカ」と言ってニコッと笑う。その笑顔にオレがどうしようもなく愛しく思うのは当たり前の事だろう。
「アイス、トリプルにするから」
「太んぞ」
「太ったって寿は私を好きでいてくれるでしょ?」
「うっせ」
そしてオレたちはもう一度キスをして、ぎゅっと抱きしめ合う。絶対に離すことなんてしねぇからな。そんな事を思いながらーーー。
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