理由
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人を好きになる理由?
そんなの考えた事ねぇ。
好きになるのなんていつ、どこで、そんなこと誰も決めらんねぇよなぁ。
「はいっ!アヤちゃん!バレンタインにもらったチョコのお返し」
「あら、悪いわね。ありがとう」
…………あっけねぇ~~~。
今日はホワイトデー、バレンタインに大好きなアヤちゃんからチョコを貰ったオレはもちろんお返しをした。朝イチの教室で、誰よりも先に。
義理チョコ?うるせぇな、貰えたことに意味があんだよ。
そうだとしてもあまりにもあっけねぇよなぁ。
お礼を言われたのはもちろん嬉しいけど、なんか……こう…もっと…………。
『えっ?!私…に?!』って感じで目を大きくして驚いた後、『ありがとう……』ってあげたものをギュッと抱きしめながら小さな声でお礼を言う…………みたいなさ?!?!
……ソレはオレも夢見すぎだよな。
オレは肩をガックリと落としながら自分の席へと歩を進めた。いや、多くは望まねぇよ。チョコを貰えただけでもいいんだ、オレは。いくらバスケ部員のアイツらと全く同じ市販のチョコで義理レベルだとしても。
そろそろマジで潮時ってヤツなのかなぁ。
アヤちゃんがオレに気がある可能性は0に等しい、いくらアホなオレでもいい加減気付く。嫌でもな。それに対してオレ自身が悲しいとか、苦しいとか、そんな風に思う気持ちも薄くなってきている事にも気付き始めてきていた。
「ほらまなみ、お返しやるよ」
「やった!!ありがとう」
「あ、オレもやるよ」
オレが自分の席に戻ってくると、隣の席に人が集まってきた。隣の席の主はクラスの人気者のまなみちゃんだ。美人だけど気さくで明るくて、言わずもながモテる。
実はアヤちゃんを忘れようと思って1年生の頃に告白をした事がある。その時クラスは違ったけど、顔もタイプで、見かけた時にはいつも笑っていて可愛い子だなって思ったんだ。
こんな子と付き合えたら楽しいんだろうなって、そう思って告白した。結果は見事に玉砕だったけどな。
そして2年になって同じクラスになってみて、そう思っていた気持ちは確信になってた。明るくて、言う時はハッキリ物事を言うし、まさにクラスのムードメーカーっていう感じの子なんだ。きっとこんな子が彼女になって付き合ったらさぞかし楽しいんだろうな。
「えぇ~!お返しってこれだけぇ?!」
「お前ふざけんなよ、チロルチョコ2個で贅沢言うな!!」
「でも愛情はたっぷりだよ」
「嘘つけよ!!」
そんなやり取りを見たオレは何かがひっかかった。
……チロルチョコ2個??
バレンタイン当日、まなみちゃんはクラスメイトみんなに小さな小袋を配っていた。男も女も関係なく。オレもソレをもらった内の1人だった。
でも、中身はチロルチョコなんかじゃなく手作りのクッキーだったはずだ。
まさかオレだけ??いや、待て。もしかしたら逆にこの男だけチロルチョコっていう可能性もある。
「そうだよな、せめて手作りのなんかだったらお礼にも気合いが入るよな」
「だよなぁ?!全員にチロルチョコとか安上がりじゃね?」
「そんなこと言って、君たち私のチロルチョコがなかったら今年の収穫ゼロだったくせに」
「…………来年もたのんます」
これは決まりだろ。
オレだけ手作りクッキーだった。間違いない。
なんで……?オレだってバカじゃねぇ、それがどういう意味なのかぐらい予想はつく。
それでもまだ確信は出来なかった。なぜならそんな素振り1度も感じたことがないからだ。
まなみちゃんがオレに気があるなんて…そもそもオレはフラれているんだ。まなみちゃんがオレの事を好きだなんてどうしても考えられねぇ。
そんな事をグルグル考えているといつの間にか周りから人だかりが無くなっていた。みんな自分の席に戻って行ったようだ。
「リョータおはよ」
「お、おはよ」
なんとなくオレはぎこちなく挨拶をしてしまう。
「彩子にホワイトデー渡せた?」
まなみちゃんはニシシと無邪気に笑いながらオレに聞いてくる。そんな顔で聞いてくるってことは、さっきまでのオレの考えはやっぱり違うんじゃねぇかと思ってしまう。
「……うん。渡せたよ」
「そっか…」
気のせいかもしれない。思い込みかもしれない。けど、オレが答えるとまなみちゃんは少しだけ悲しそうに目を伏せたんだ。
オレはまなみちゃんへ用意していたホワイトデーのお菓子をカバンから取り出し、彼女に渡した。
「これはまなみちゃんに。ホワイトデー」
「えっ…?!私…に?!」
まなみちゃんは目を大きくして驚いている。
「うん、どーぞ」
「ありがとう……」
まなみちゃんはオレから受け取ったお菓子の袋をギュッと抱きしめながら小さくお礼を言った。
まさにさっきオレが頭の中で想像していた理想の形が今、目の前で現実となって現れたのだ。
オレは意を決してまなみちゃんに聞いてみた。
「あのさ…バレンタインにくれたモノって、オレだけみんなと違ぇの?」
「えっ?!」
みるみるウチにまなみちゃんの顔は赤みを増していく。オレが言葉を続けようとしたその時、予鈴の鐘の音と共にガラッと教室のドアが開き、「おはよう」と言って担任が入ってきた。
「お、なんだ佐藤顔が赤いな。熱でもあるんじゃないのか?」
教師はまなみちゃんの顔を見て言う。
「なっ、ないです!!いや、嘘!あるんです!!熱あるから帰ります!」
まなみちゃんはそう言うと自分のカバンを持って教室から出て行ってしまった。
しばらく教室には変な沈黙が流れる。「なんだアイツは」そんな教師の声でハッと我に返ったオレは「オレも熱あるんで帰ります」と言ってついさっきまなみちゃんがしたように、カバンを持って教室を出た。そして急いでまなみちゃんの後を追った。
後先なんて何も考えずに。
ハァハァと息を切らしてオレは校門を出て、辺りを見渡す。するとすぐ近くのバス停で立っているまなみちゃんの姿を発見した。
「まなみちゃんってめちゃくちゃ足早ぇんだね」
オレはまなみちゃんの隣に並んで立つ。
そんなオレを見てまなみちゃんは驚きを隠せないでいるようだった。
「リョータ?!な、なんで……」
「さっきの話の続き聞きに来た」
するとまなみちゃんはパッとオレから目を背けた。けど、オレはまなみちゃんの横顔に向かって話し続けた。
「オレにくれたのって手作りクッキーだよね?みんなと違ぇの?」
「……」
まなみちゃんは下を向いたまま何も言わない。
それでもオレは話を止めることはしない。止めるわけにはいかないんだ。本当の事が知りてぇから。
「まなみちゃんオレの事好きなの……?」
「……っ、…………好きじゃないって言いたい」
「へ?」
思ってもない返事にオレはマヌケな声を出してしまう。まなみちゃんはオレに向かってでは無く、まっすぐ前を向き話し出した。
「だって、ひどいじゃん。そっちから好きだって言ってきたくせにさ…こっちが気になりだしたら他の子の事好きだ好きだって…そんなのって……」
話すうちにまなみちゃんの視線はどんどん下を向き、真正面を向いていた首を再びおろしてしまった。
「ご…ごめん。てか、覚えてたの?オレが告白したこと」
「覚えてるに決まってんじゃん!好きだって気付いた途端失恋だよ、私」
勢いよく顔を上げ、隣にいるオレを見るまなみちゃん。
「なんでオレの事?」
「なんでって…バスケしてるとこカッコイイし、オシャレだし、話してると…楽しいし、実はけっこう…優しい、し……」
次第に顔が赤くなって話し方もしどろもどろになっていくまなみちゃん。
誰かにこんな風に直接的な好意を言われたことがないオレは、顔から火が出そうになる。そして、それは言ってるまなみちゃんも同じだったようで、真っ赤になった顔を両手で抑えている。そして、オレの目を真っ直ぐに見ながら言った。
「てゆーかさ、好きになるのに理由なんている?仕方ないじゃん…好きになっちゃったんだから」
そうだ。
人を好きになる事に理由なんてないんだ。
きっかけはあるかもしれねぇけど、理由なんて必要ねぇんだよな。
「……ごめん。私に好きだなんて言われたって困るよね」
まなみちゃんは申し訳なさそうに苦笑いをしながらオレに謝った。
「うん…困る」
「ごめんね……忘れて!」
オレは「はぁ…」と天を仰ぐ。
まいったなぁ。困るって気持ちよりも勝ってる気持ちがあんだよなぁ。
「嬉しいって思っちゃって、困る」
「え?!」
「……オレめちゃくちゃ嬉しいんだけど」
そう、困るんじゃなく、嬉しいんだ。
オレはまなみちゃんの気持ちが超嬉しい。
「だって、リョータは彩子の事……」
「うん、好きなんだけど。好きな…はず、なんだけど」
困るって気持ちよりも嬉しいって気持ちの方が断然に勝ってんだよ。
……………………………。
しばらくの間2人は黙ったままだったが、それを打破したのはまなみちゃんだった。
「じゃあ、いい?」
「なにが?」
いい、の意味がわからずオレはまなみちゃんに尋ねる。するとまなみちゃんは1歩オレに近づいた。
「これから私ガンガンせめてくから。私を好きになってもらうまで待つ、とか性にあわないの」
「え?!え?!え?!」
オレは訳が分からずバカの一つ覚えみたいに「え?!」という言葉を連発することしかできない。
「早く私の事だけを好きになってね」
オレの腕をグイッとつかみ、まなみちゃんはオレの頬にキスをしてきた。
そして小さな子供のように「んべ」と舌を出す。
は?!何この子。くそ可愛いんだけど。
このまま今すぐ家に連れて帰りてぇんだけど。
いやいやいや……落ち着けオレ。まなみちゃんは真剣にオレを想ってくれているんだ、中途半端な気持ちで突っ走る訳にはいかねぇ。
ーーーと言ってもきっと彼女に夢中になる日はそう遠くねぇんだろうな。
「……この後どうしますか?オレさこの時間とかに行っても、なんにも言われねぇカラオケ屋知ってんだけど」
「……行くに決まってんじゃん」
オレらは2人で顔を合わせて笑った。
そして並んで歩き出す。
それはきっと恋人同士のように見えることだろう。
そして、明日の学校ではクラスメイトたちから色んなことを聞かんだろうな。
……ま、ソレも別にいいや。
そう思えるぐらい、今のオレの心は弾んでいるのだから。
その理由はーーーーもうわかっているはずだ。
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