バレンタイン(藤真の場合)
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2月14日バレンタイン。
世の中の男女がソワソワし、期待と不安が入り交じるこの日ーーー。
けれど、今年の私はとても憂鬱だった。
「藤真に作るんでしょ?」
バレンタインの前日、13日。私は昼休みに友達数人とお弁当を食べながら雑談をする。もちろん話題は明日のバレンタインについてだ。
手作りをする、今年こそはちゃんと渡す、友チョコよろしく。など、バレンタインと言っても皆いろいろな事情を抱えているのだ。
友達が私に聞いてきた『藤真』というのは数ヶ月前から付き合い始めた私の彼氏だ。奴は間違いなく学校一のモテ男で、去年のバレンタインはそりゃもうお祭り騒ぎだった。なんせ、朝から他校生までもが校門の前で藤真を待ち伏せしているのだから。
そんな男となぜ私が付き合えたのか不思議で仕方がないのだが、私は藤真が大好きだったからとても嬉しくて…正直浮かれていた。
ーーーが、去年のバレンタインの様子を思い出して、
一気に憂鬱になってしまったのだ。
「付き合って初めてのバレンタインなのに嬉しくなさそうだね?」
友達が不思議そうに聞いてくる。
「うぅ~ん。だって私があげなくてもすっっごいもらうじゃない?アイツ」
「あぁ~…確かにね。でもいいじゃない、モテる彼氏。鼻高くない?」
「……考えようだけどさぁ。正直複雑だよね」
もしハイパー可愛い子がチョコをあげたら?!
藤真が心変わりしちゃったら?!
そんな不安はどうしても拭えない。
「なんだよくれねーのか?」
頭の上から声がして、顔を上げると藤真が私の頭上から声をかけてきていた。
「聞いてたの?!」
私は思わずガタッ!と席を立ち、藤真と向かい合った。すると藤真は私の後ろに回り、両肩に手を乗せた。そして、何を思ったか大きな声で…クラス中に響き渡るような声で言葉を発した。
「おぉ~い!言っとくぞ!今年のバレンタイン、オレはコイツ以外のチョコは受けとんねーからなぁ!」
な、な、な、ななななにを?!
なにを言い出すの?!この男は!!!!
もちろん教室中の注目が藤真と私に集まる。怖くてみんなの方を向くことなんて絶対にできない。
「藤真……」
周りが笑ったり、呆れている中、ポツリとクラスメイトの花形が私たち2人に声をかけてくる。
「それならここで言っても意味がないんじゃないか?もっと人が集まってる場所じゃないと…」
……花形。違う、そうじゃない。
つか、そんな事言ったらここら辺の高校全部に言って回らなきゃいけないじゃん。
選挙カーみたいにスピーカーから大声出して回ればいいわけ?!
いや、だからそうじゃないんだって。
「花形お前いいこと言うな。そうだよ、ここで言ったって意味ねぇよな」
藤真はバカみたいに納得して、私の手を掴み歩き出した。は?!なに、どーゆー事?!
藤真ってこんなにバカだったっけ?!
ズンズンと歩を進め、やって来たのは誰もいない屋上だった。
「ここからでけぇ声で叫べばいいよな」
「は?!藤真何言って…」
藤真は手すりをつかんで、すぅ…と大きく息を吸い込んだ。待て待て待て待て。
私は慌てて藤真の肩をつかんで「ちょっと!」と大きな声をあげた。
すると、藤真はこちらを向き、ニヤリと笑う。
「んな事する訳ねーだろ」
そしてそのまま私をギュッと抱きしめる。
私は訳がわからず、抱きしめられたまま棒立ち状態だ。
「黙ってよこせよ?」
「な、なにを?」
「チョコしかねーだろ」
「あ…」
藤真は私を抱きしめる力を強くする。
そして耳元で囁いた。
「お前だけのが欲しいんだよ」
そんな事を言われ、私は全身がカッと熱くなるのを感じた。
「あ、あんなこと教室で言っちゃって、天下のモテ男がモテなくなっちゃうよ?」
照れ隠しでこんな事しか言えない自分が情けない……。そして恥ずかしい。
「いいんだよ、別に」
藤真はそう言うと身体をゆっくりと離し、真っ直ぐに私の瞳を見つめてきた。そう、真っ直ぐに、それは逸らすことのできない視線。
「1人の女にだけ好かれりゃ、オレはそれで満足だ」
「藤真……」
「ま、誰とは言わねーけどな」
「なっ、なによそ」
私の言葉を最後まで聞かずに藤真は強引にキスをしてきた。そして先程のニヤリとした悪い顔とは打って変わって、優しく微笑む。
「まなみ、好きだぜ」
そんな彼の言葉はチョコレートより甘く、私は溶けてしまいそうになるのだった。
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