機嫌
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いい歳をした大人でも上手くいかない事はたくさんある。むしろ大人になったからこそ、自分の気持ちをそのまま真っ直ぐに表現することなんて出来なくて、そんな自分を嫌になって…なんて思うことは多々あるものだ。
「もういい加減オレのモノになってくんない?」
年下のくせに生意気な口調、それでも言い方は柔らかくて憎めない。そして独占欲丸出しの彼の告白で私たちは『彼氏彼女』の関係をスタートさせた。
以前からずっと私に好意を寄せてきた同じ部署の仙道くん。背がすごく高くて、顔も外人みたいにキレイな男性。仙道くん目当てで飲み会に参加しようとする女子職員は山ほどいた。
けれど、仙道くんはそんな女の人達は誰一人として相手にせず……なぜか私に懐いてきた。
しばらく彼の気持ちを本気にはしていなかったものの…落ちないわけがない、こんな人に。
結果的に私は仙道くんに心を奪われ、彼だけのものになったのだ。なってしまったのだ。
この歳になって恋愛で振り回されるなんて思ってもいなかったのに。
気づいた時には彼の一挙一動が気になってしまい、ドキドキして、ズキズキして、モヤモヤして…いつの間にか恋をしていた。
そして、今日は彼氏彼女の関係になって初めての朝。私はいつも部署内でーーというよりもほぼ社内で1番早くに出社をしているのだが、今日は出社した瞬間に目を丸くしてしまった。
「おはようございます」
自分のデスクに肘をついて、手をヒラヒラと揺らしているのは紛れもない、昨日彼氏になったばかりの仙道くんだったのだ。
「は?!な…んで?!」
私が驚くのも無理はない。
だって仙道くんはいつもギリギリの時間に出社をしてくるのだ。「朝が苦手で」そう言ってよく困ったように笑っている、そんな彼がまさかの一番乗り、そんなの驚くに決まっている。天変地異の前触れ?!何か罠でもあるのでは?!そう思い私は周りをキョロキョロと見渡しながら着てきたコートを脱いだ。他の部署の人達だってまだ出社していない人がほとんどだし…。
「だって早くまなみさんに会いたかったんです」
仙道くんはそう言いながら、ハンガーラックにコートをかけた私の手を軽く握り、その手の甲にチュッと軽くキスをする。私の体温は一気に上昇した。
「それに…2人きりだと朝からこんな事もできちゃうでしょ」
グッと腰を抱かれ、頬に手を寄せてきたかと思うと、仙道くんは私の唇を奪おうとする。私は慌てて自分の手で仙道くんの唇を抑え、ソレを阻止した。
「なにしようとしてんの!ここ会社!!」
他に出社している人はいないけど、さすがに朝の職場でこんな事できるわけが無い。いや、夜ならいいとかの問題でもないけど。いつ誰がどのタイミングで出勤してくるかもわからない、阻止をするのは当たり前だ。仙道くんは眉を八の字にして「やっぱりダメか」と笑いながら私から離れた。
……ちょっと名残惜しいけどね。そんな事を言ったら何をしでかすか分からないから、ぜっっっったいに言わないけど。
でも……
私のために苦手な早起きをしてくれるなんて可愛いヤツめ、と私は顔をニヤつかせてしまうのだった。その日1日、私の仕事の調子が絶好調だったのは言うまでもない。
ー次の日ー
……………………………………。
可愛いヤツ?は?そんなのは撤回です。
1日しか続かないなんて!!!せめて三日坊主までいきなさいよ!!!
私は飲み終えたヨーグルトドリンクをガン!!っとデスクに強く置いた。
「おはようございます」
始業時間ギリギリに私の彼氏は出社をしてきた。
昨日のあの行動は一体なんだったの?!
私は「おはよう」と仙道くんと目は合わせず他人行儀に挨拶をして、目の前のパソコンの画面を見る。……嬉しかったのにな。
「なんか怒ってます?」
自分のデスクへ向かう前に、私の近くに来て小声で聞いてきた仙道くんに私は「別に」と可愛げのない返事をしてしまった。…いい大人がなにしてんのよ、子供じゃあるまいし。自分のその態度に呆れてしまい私はそれ以上何も言えなくなってしまった。悪循環そのものだ。
こんな風にしたかった訳じゃない、可愛く「もぉ!今日も早く来てくれるかと思ってたのに」って言えばよかったんだ。そんなキャラでもないけど。
すると仙道くんは「今日、ウチ来てください」と言って自分のデスクへと歩いて行った。
私の返事を聞きもせずに。
その日1日、私の仕事の調子が絶不調だったのは言うまでもない。
「何を怒ってたんですか?」
「だから、別に怒ってなんかないよ」
仙道くんの部屋でクッションを抱きしめながら、ソファに座っている私に仙道くんは問いかけてくる。相変わらず可愛くない言い方をする私の顔を覗き込みながら。私はそんな仙道くんとは目を合わせないようにテレビの画面に集中する。
まるで今朝の会社での出来事と同じかのように。
すると目の前が暗くなり、フワリと暖かい温もりに包まれた。後頭部には大きな手の平、もちろん仙道くんの手だ。
「テレビ見えないんだけど」
「見てないだろ?それに……」
私を優しく抱きしめながら、楽しそうに言う仙道くん。……なんで楽しそうなのよ。
「見るのはテレビじゃなくてオレ、でいいでしょ」
「何恥ずかしいこと言ってんのよ」
「ははは、似合わなかったですかね」
……あんたが言うと似合っちゃうのよ。
そんな殺し文句を言われて悔しいけど、抱きしめられながら私は幸せを感じてしまう。今日1日不貞腐れていた気分が浄化されていくようだった。
不貞腐れていた原因を作った張本人によって、というのが不本意だけどね。
「ホントに可愛いな、まなみさんは」
「………どこが。こんなめんどくさい女で後悔してない?」
「するわけないでしょ」
仙道くんは私の耳元に手を寄せ、そっと触れるか触れないかぐらいの口付けを落とした。
「オレが今日朝早く来なかったから、不貞腐れてたんですよね?」
ニコニコと嬉しそうに笑いながら言う仙道くんに私は何もかもが見透かされていた事に気付き、顔から火が出そうなぐらい恥ずかしくなった。思わず仙道くんと向き合っていた身体を反対へ向け、両手で頬を触ったが、案の定いつもの倍以上に熱くなっている。
「理由わかってたんじゃない」
両手は頬につけたままで私はチラリと仙道くんの方を向いて言った。今なら自分の顔の熱さで暖がとれそうだ、部屋の暖房なんていらないかもしれない。それぐらい恥ずかしさで熱くなっていた。
「わかってましたよ。もう可愛くて可愛くて…」
くつくつと肩を上下に動かして笑う仙道くんは、私の頭をヨシヨシと優しく撫でる。なんだか私の方が年下みたいじゃない。
……けど、まぁ、、、悪くもない気がする。
とことん甘えてみてもいいのかな?
「てゆーか、一緒に住みません?」
私の頭に乗せていた手を撫でるように頬へと移動させながら仙道くんは言った。なんの前触れも無しに。
まさか付き合って2日後にこんな事を言われるなんて、もちろん思ってもみなかった。嬉しい気持ちと驚いた気持ちとで私はなんとも複雑な心境だ。
そしてソレがまんまと顔に出ていたのだろう。
「はは、なんて顔してんだよ」
片眉を下げ、仙道くんは笑いながらペチペチと私の頬を軽く叩く。
「毎朝まなみさんに起こしてもらう生活、最高じゃね?」
悔しいけど、私の機嫌はキミ次第になっちゃうんだ。
もちろん、悪い気はしないねどねーーーー。
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