温もり
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私は冬があまり得意ではない。
それはなぜかと言うと……ハッキリ言いましょう。
《寒さ》です。
私は人一倍寒がりで毎年冬を過ごすのに苦労しているのだ。いっその事冬眠したい…。
ずっと暖かくしたお家で過ごしたいなぁ、出来ることなら大好きなあの人とーーー。
「明日は冷え込みが厳しくなるでしょう」
テレビでは美人お天気お姉さんが日本地図が映し出されている大きな画面に、雪だるまが付いた棒を使って明日の天気を説明している。
「明日寒いんだって」
ソファに座って真正面にあるテレビを見ていた私は首だけを後ろに向けて話しかける。
シャコシャコと歯磨きをしている彼氏のノブくんに。
ノブくんは「まひかぁ」と歯ブラシを咥えたまま呟く。そして洗面所へと歩いて行った。
「寒いのやだなぁ…」
私があくびをしながらテレビを消すと、歯磨きを終えたノブくんがなぜか少しだけ嬉しそうな顔をしてリビングへと戻ってきた。
「なんで嬉しそうなの?」
「だってよ、もしかしたら雪降るかもしれねぇじゃん?!」
…………そゆことか。
「ノブくんはいくつになっても無邪気ですねぇ~~~」
私はワシャワシャとノブくんの頭を撫でくりまわしながら、彼をからかった。ノブくんは「うるせぇ」と言いながらも本気で嫌がる気配はなく、お返しだと言わんばかりに私の頭をクシャクシャと撫でた。
ノブくんは寒がりな私に合わせてくれる。
部屋の温度をマックスに暖かくし、私は厚着、ノブくんはTシャツ短パン。二人の中で季節が違うかのようだ。
それでもノブくんは文句は言わない。私が寒がりなのをきちんとわかってくれているから。
私は彼のこんな風に優しくて、いつでも私を気にかけてくれているところが大好きだ。
「ほら、寝るぞ」
私は大好きな彼の手につかまり、寝室へと向かう。そしてノブくんの温もりに包まれながら眠りについた。
「オレ先に出るな」
朝の洗面台で私が化粧をしているとノブくんが近づいてきて、声をかけてきた。私は鏡を見たままで「いってらっしゃい」と声をかけたのだが……ノブくんの気配は隣から無くならない。
チラリと目線だけ横に向けると、黙ってノブくんはこちらを見ている。それはまるでオネダリをしている犬のように。
そう、ノブくんがオネダリをしているのは『いってらっしゃいのキス』の事。
こんなベタな事を自分がするなんて思ってもいなかった。恥ずかしいし、ドラマや漫画だけの話かと思っていた。だが、同棲を始めた日からその習慣がまさかの私にも訪れていたのだ。
私は化粧をしている手を止め、ノブくんと向き合う。そして軽く私たちの唇は重なり合った。
すると満足そうに「いってきます!」と大きな声で言ってノブくんは玄関へと向かった。
ガチャリと玄関のドアが開く音を聞いて、私は呆れながらも顔を緩ませながら化粧の続きをし始めるーーーと、次の瞬間、再び玄関ドアが開く音が聞こえたと思ったら「まなみ!まなみ!!」と私を呼ぶ大きな声が聞こえてきた。
その声を聞いて驚いた私は、マスカラを手に持ったまま急いで玄関へと走る。そこには目を大きくして興奮気味のノブくんが立っていた。
「外めちゃくちゃさみぃ!!」
ふんふんと鼻息を荒くし、ドアを指さすノブくんに私は開いた口が塞がらない。外の寒さにきっと感動すら覚えたのであろう、ソレを私に伝えたくてノブくんはわざわざ戻ってきたのだ。
なんだかそう思うと可笑しくなって、私はクスクスと笑いが込み上げてきた。
「な、なんで笑うんだよ!めちゃくちゃさみぃんだぜ?!」
「だって…それ言うために戻ってきたんでしょ?」
「いや!マジだって!ほら!!」
ノブくんはそう言うと玄関から私をギュッと抱きしめる。私は玄関へと降りていない為、いつもとは逆で私の方が背が高い状態になっている。マスカラを持ったままの私は彼を抱きしめ返す事が出来ない。
「な?オレの体つめてーだろ?ちょっと外でただけだぜ?」
確かにノブくんの体はヒヤリとしていて、外の寒さが本当に厳しいものだとわかった。
「まなみあったけぇな…離れたくねぇ~」
「ダメダメ、2人とも遅刻しちゃうよ?」
「だよなぁ~~~、仕事行きたくねぇ~~~」
「じゃあさ、今日はおでんにしようか」
「よっしゃ!たまご多めで頼むな!」
ノブくんは嬉しそうにニカッと笑い、今度こそ外へと出て行った。ーーはずだったのに、再び玄関のドアが開き、ノブくんが顔を出した。
「今度はどうしたの?」
「マジで寒いから、カイロ!忘れんなよ」
タタッと足早に私に近付き、ワシャワシャと雑に私の頭を撫でて、今度こそノブくんは寒空の下を駆けていった。
「……髪セットする前でよかった」
なんて言葉とは裏腹に私の口角は上がり、顔は緩みっぱなしで洗面所へと戻る。
そして、苦手な冬も大好きなあなたとなら悪くないな……なんて思いながら、化粧の続きをするのだった。
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