夢中
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〇月〇日、今日は〇〇の日。
365日、毎日何かしらの記念日である事は知っていますよね?もちろん誰かの誕生日でもあるだろうし、結婚記念日でもあるだろう。
あなたはそんな記念日を覚えるのは得意な方ですか?
「えっ?!ふられた?!」
「声がでけぇよ!!」
「ご、ごめん……」
朝のホームルームが始まるまでのこの数十分、昨日学校から帰ったあとの出来事を友達と話す時間が私は好きだった。今日も中学からの男友達である越野が彼女にフラれたという話題で、友達数人でワイワイと彼の話に耳を傾けている所だ。
私もわざわざ自分の席から離れているいつもの仲のいいメンツの席にやって来て、空いている席の椅子に座ってその会話に参加をする。
「女ってなんで記念日ってヤツにこだわるんだろうなぁ~」
越野は腕を頭の後ろで組み、座っている椅子に体重をかけながら眉をしかめ言う。そうか…記念日を忘れてフラれたんだな。みんな聞くまでもなく越野のフラれた理由をスグに察した。
「でもさぁ、やっぱり記念日大切にしたいよね」
「あ、あたしも!わかるわかるー!」
「げっ、お前らもかよ」
「付き合った日、ならわかるけどよ…何ヶ月記念とかって別にいらなくね?」
どうやらここは女子と男子で意見が真っ二つに分かれるようだ。きっとこれを男女が分かり合うのは難しいことなのかもしれない。まぁ、あくまでも多数派・少数派となるわけで女子でも記念日にこだわらない子もいるだろうし、逆に男子でもちゃんと覚えていて毎月お祝いするって子もいるしね。
「…はよ」
眠そうな声でやって来たのは私が今座っている席の本当の主の仙道だった。私は慌てて「ごめん」と言って席を立った。仙道は遅刻の常習犯なので今日も来ないだろうと私は彼の席の椅子に座っていたのだ。
すると仙道は「いいよいいよ、座ってなよ」とニコリと笑って私を椅子に座らせ、自分は机に軽く腰掛けた。
「仙道が朝からちゃんと学校にくるなんて珍しくない?!雨降りそう!……いや、雪かな」
「ははは、佐藤は失礼だな。佐藤に早く会いたいから来たんだよ」
机に腰掛けている仙道は私を見下ろしながらニコニコと笑いながら言ってくる。もちろん私も周りもそんなセリフを本気になんてしない。
コイツが本気になるのは、バスケをしている時だけってみんな思っているからだ。
「つか、なんか盛り上がってんね、何の話?」
「越野が記念日を忘れて彼女にフラれた話だよ」
「あらら、どんまいだな」
仙道は「ははは」と笑いながら言った。
その笑顔で何人の女子が落とされた事か。
「どーせ彼女なんてすぐできるだろ」
「うっせぇ!!オレはお前と違ぇんだよ!」
あっけらかんと言う仙道に越野は食ってかかる。
仙道がモテる事なんて学校中の誰もが知っている事だった。なんなら他校でも割と知られている事だ。
「確かに越野は仙道みたく激モテするタイプじゃないもんねぇ~」
「顔は悪くないんだけどねぇ~」
「なんか恋愛対象にならないよねぇ~」
好き勝手にいろいろ言う女子たちを横目に、越野が仙道を睨みながら「……なんでコイツがモテるんだよ」と恨めしそうに言うと女子たちはみんなで一瞬顔を見合せた後、また口々に言い始めた。
「イケメンすぎる顔じゃない?」
「背も高いしね」
「バスケも激うま」
女子たちは本人を目の前に仙道をべた褒めする。こんなに褒められたら調子をこいてもおかしくないだろう……が、その後にはまさかの言葉が続いた。
「でも、絶対付き合いたくないよね」
「それな。本気で人を好きにならなさそう」
「浮気しそう」
上げて落とす、とはまさにこの事だった。ジェットコースター並に急降下したにも関わらず、仙道は落ち込みもせず「ひでぇ」と笑っている。
確かに仙道は彼女ができても長続きをしているイメージはゼロだった。そもそも本気で女子と付き合っているイメージすら私には無かったのだ。
かと言って仙道自らが遊びたいがために女子に近づいてるのでは無い事は知っていた。
黙っていても女子が寄ってくるのだ、この男には。
「それこそ仙道って、記念日どころか彼女の誕生日すら覚えてなさそう」
私が言うと仙道はうーん、と頭を軽く掻きながら困ったように笑った。
「確かにオレ、人の誕生日とか覚えるの苦手なんだよな」
「やっぱり。それなら記念日なんて絶対覚えられないでしょ」
「あははは、バレた?」
「女子はそーゆーの気にする人が多いよ?」
私が半ば呆れながら言ったその時、教室のドアが開き担任の先生が入ってきた。あっという間に朝の雑談時間は終わりを迎える。私は椅子から立ち上がり、自分の席へと戻ろうとしたーーーそのとき、グッと手を掴まれた。
仙道に。
「6月15日」
彼の口から出てきた言葉は、まさかの私の誕生日だった。仙道は私の目を真っ直ぐにじっと見つめる。
まるで時間が止まったかのような異質な空気に私は何も言えなかった。瞬きをするのも忘れてしまったかのように息を飲み、仙道の瞳を見つめ続けることしか出来ない。というよりも、仙道の瞳から逃げられないでいた。
掴まれた手はどんどん熱を増し、それが私の全身まで伝わってくる。こんなにも心も身体も一気に熱くなるのは初めてで、私は戸惑いを隠せない。
すると、仙道は私の手を掴んだまま言った。
「わかったろ?どんだけオレが佐藤に夢中か」
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