「仙道かぁ～、まなみちゃん気をつけなよぉ」

そんな言葉が聞こえてきてオレは廊下の曲がり角を曲がるのをやめた。
……うーん。こりゃ、荷物を持っていくのは明日かな。

明日からオレは別の課へと異動になる。そのため、練習が終わったあとオフィスへと戻って来て、今までいた課のフロアから新しく配属される課へと自分の荷物を運ぼうとしていたのだ。もう時刻は夜の9時過ぎ、きっともう誰もいないだろうと思っていたのだが、どうやら数人が残業をしていたらしい。

自分の名前が聞こえてきて…しかもあまりいいトーンではない会話。そんな中堂々と姿を現せるほどオレはバカじゃぁない。
今来た方向へと身体をくるりと向き直した時、とある1人の女性職員の声が聞こえてきた。

「あぁ、なんでしたっけ？この会社イチのプレイボーイでしたっけ？」

声の正体は佐藤さんだった。
同い年のはずだったけど、入社した年も違うし今まで数回だけ話をした事がある程度の子だ。
にしても、今どきプレイボーイって言うか？

「そうそう！とりあえず女性職員は全員オレのモノだと思ってんだよ、アイツは！だからまなみちゃんも気をつけなよ！」

……はは、なんだそれ。
勝手な憶測はご自由にだけれど、それで身に覚えのない恨みを持たれるのは勘弁なんだよな。

「あはは！なんですかそれ。完全なやっかみー！人を見かけで判断しちゃ損しますよ？？」

佐藤さんのその発言でオレはこの場から去るのを止めた。もう少しだけ彼女が何を言うのか興味を持ったんだ。

「てか、仙道くんのその噂だって何がホントかわかんないじゃないですか」

「あれれ、もしかしてまなみちゃんって仙道ファンなの？」

「いえ、全然。だってほぼ話したことないですもん」

「人を見かけで判断しちゃいけないって言うけど、アイツの場合は見かけどーりじゃね？」

……オレ、この男の先輩と話した事まじで1回もないんだけどな。思わず苦笑いがこぼれる。

「だって私、植田さんの年齢もっと下だと思ってたんですよ。ホント若く見えますよね。だから、人は見かけで判断しちゃダメって勉強したんですもん」

おっ、上手いこと言うね佐藤さんは。
植田さんとはさっきからオレの事をやんや言っている男の先輩の事だ。
オレがそう思っていると、どうやら植田さんは案の定気を良くしたらしく「だよなぁ！人は見かけで判断しちゃダメだよなぁ！」なんて気持ちよさそうに笑っている。
そんなやり取りを聞き終えて、オレは荷物を持ったまま、自分の車へと乗り込んだ。


もっと彼女の事を知りたいーー
今まで感じたことの無い、溢れ出す気持ちに少しだけ戸惑いを感じながら。