冷静
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「まなみ~!こっちだよー!」
お祭り当日、友達が会場で手を振って私を呼んでいるのを発見した。
私は慣れない下駄でカラコロと軽く走って、友達の輪に入る。
「てゆーかさ、浴衣なんて私たちぐらいじゃない?」
女子はみんな浴衣で!というドレスコード指定があったので、集まった女子はみんな浴衣姿なのだが……ここは小さな神社の夏祭り、浴衣で来る人なんてほぼ皆無だった。
それ故に私は恥ずかしくなり、友達に文句を言う。けれど友達には「それがいいんじゃない!」なんて言い返されてしまった。
まぁ、浴衣もタンスの奥底にしまわれているよりは、こうして日の目を浴びた方が喜ぶか。
「可愛いじゃん」
そう言って私の肩を軽く叩いてきたのはクラスメイトのケンジだった。
ケンジとは入学当初にすぐ仲良くなり、何度も一緒に遊びに行ったりしている仲だ。
……私の勘違いでなければ、少なからず私に好意を寄せているっぽい。遠回しにアピールをされたり、他の友達からも言われたことがある。
その為、2人きりでの誘いはいつもやんわり断っていた。けれど、ハッキリと直接言われたわけでもないので、私はクラスメイトとしてフツーに接している。
「私、焼き鳥買ってくるね」
そう言って私は1人で焼き鳥の屋台の列へと並んだ。さっきも言ったようにここは小さな祭りの為、大行列が出来ているわけではなかったので、すぐに私の順番がまわってきた。
「おっ!まなみちゃんじゃん!」
目の前で頭にタオルを巻いて、私の名を呼んだ男は、桜木軍団の一員である野間だった。
「え?!何してんの?!」
「バイトだよ、バイト!つか、洋平から聞いてねーの?おーい!洋平ー!!」
え?!まさか………
「おい!おっちゃん達、ちゃんと働けよ!」
屋台の奥を見てみると、毎年焼き鳥を焼いていたおじさん達を叱っている洋平が見えた。そして、洋平は野間の声に気づき、こちらを向く。
「まなみ!!」
野間と同じように頭にタオルを巻いた洋平がこちらへ走ってきた。汗だくで。きっと洋平の事だからめちゃくちゃ働いてたんだろうな…。
「なんだ来てたのか。言ってくれよ、つめてぇなぁ」
「いや…え、もしかして今年は行かないって…屋台を手伝うから行けないって事だったの?!」
「そうだよ。なんかお前別のこと思ってたろ」
「……」
「理由言わせてくんねぇんだもんなぁ」
洋平は困ったように笑いながら、焼きたての焼き鳥をパックに入れて渡してくれた。
「浴衣なんか着て、誰と来てんの?」
「クラスのみんなと」
来てるよ…と言おうとした時だった
「まなみ!」
後ろから大きな声をかけられ、後ろを振り向くとケンジがすぐ後ろに来ていた。どうやら走ってきたらしく、少しだけ息があがっている。
「どしたの?」
「いや、なかなか戻ってこねーから…」
その時ケンジはチラリと洋平の事を見た気がした。そして、グイッと私の手を掴んで歩き出そうとする。いきなりの事でもちろん私は慌てた。
よりによって洋平の目の前で手を握ってくるなんて、最悪だ。
「え?!なに?!」
「早く行こーぜ」
ケンジはそう言って無理やり私を引っ張って、屋台からドンドンと遠ざけた。チラリと後ろを見ると洋平がこちらを見ていたが、どんな表情なのかまでは怖くて見ることができなかった。
私がケンジの手を振りほどこうとしても握られたその力は強く、ケンジの手は私の手を離してはくれない。
「ね、ねぇっ!どこ行くの?みんなあっちだよ?!」
ケンジが向かう方向にみんなはいない。
するとケンジは私の声にピタリと止まった。
あぁ、これは、そういう事か。さすがに私も察する。
「オレ、まなみが好きなんだ。付き合って欲しい」
やっぱり…。けれど、ハッキリと言えるいいチャンスじゃないか。私には他に好きな人がいるのだから。
「ごめん、私ほかに好きな人いるから」
私のこの言葉を聞いてもケンジは私の手を離そうとはしてくれない。それどころか、再びぎゅっと強く握ってくる。……私は嫌な予感がした。
「それってさっき喋ってたやつ?付き合ってんの?」
「……付き合ってない」
「それならとりあえずオレと付き合おうぜ。付き合ってみてダメだったら振ってくれよ」
熱意はありがたいけれど、私はどうしてもそんな気にはなれない。とりあえずこの手を離して欲しい。私がそう思っていたーーと、そのときだった。私の肩は誰かにグイッと引き寄せられたのだ。
「わりーね、コイツの手を握っていいのはオレだけなんで」
「洋平?!」
私の肩を抱いたのは洋平だった。見た目はまっっったく1ミリもカスらないけれど、童話に出てくる王子様のようだった。そう、私の中での王子様は小さな頃からずっと洋平だけなのだ。
「つーわけで、離して、その手」
低いトーンで睨みを効かせながら言う洋平にビビったようで、ケンジはパッと私の手を離した。
それを見た洋平は離された私の手を握り「行くぞ」と言って歩き出した。まるでさっきとは逆パターンだ。でも、私は振り向くことはしない。私の手を優しく握り、黙って前を歩く洋平だけを見ながら歩く。
洋平が歩き進めてきた先は神社裏だった。草木が多くひとけは全くない。誰一人いないのだ。
そこで歩くのをやめ、洋平はクルリと私に向き合った。手は繋がれたままだ。
「……あの、洋平」
「もう限界だな、オレ」
「限界って?」
限界と言う洋平の意味がわからず私は洋平に問う。限界の意味も気になるが、さっきケンジとの会話をどこから聞いていたのかも、私は気になって仕方がなかった。
そして何よりもーーー
『手を握っていいのはオレだけ』
この言葉の真意を聞きたい…けど、あの場しのぎで言ったことなのかもしれない。私は心の中に期待を不安を飼っているような状況だ。
「お前、湘北の水戸だよな」
「この前の礼をしに来てやったぜ」
後ろから声が聞こえ、辺りを見渡すと私たちはいつの間にか数人の男の人に囲まれている。暗かったせいか、全然気が付かなかったのだ。見るからにヤンキーの集団。大方、前に洋平たちにボコボコにされたんだろう。
それを見た洋平は「はぁ…」と大きなため息をつく。
「いーところで邪魔されたな」
ヤレヤレと困ったように笑う洋平の顔は余裕そのものだ。
「まなみ、家戻ってな」
「いや、でもっ…」
さすがにこの人数を洋平1人じゃ……
そう思っているとポンと、洋平に肩を叩かれた。
「大丈夫、オレ1人じゃねぇから。なっ?!おめーら!!」
洋平のその大きな声にガサガサと葉っぱの影から出てきたのは、野間、大楠、高宮だった。
「は?!なんで?!」
「まぁ、ソレは置いといて。洋平の言うようにまなみちゃんは家に帰ってな」
「そうそう、洋平の帰りを待っててやって」
「あとはオレらにまかせんしゃい」
野間、大楠、高宮は次々に私の肩にポンと手を乗せ喧嘩を売ってきたヤンキーの前に洋平と共に並んだ。そして4人は私に向かってグッ!!と、親指をたたせ、ニカッと笑った。
それを見た私はカラコロと下駄を鳴らしながら、足早にその場を去った。
まだ?まだなの……?!
アレから真っ直ぐ家に帰り、着替えもせずに私は浴衣のまま誰もいないリビングを行ったり来たりとウロウロしていた。落ち着けるわけないじゃない!!
だいたい喧嘩ってどれぐらい時間かかるの?!あっちの人数って5.6人だったかな…?洋平たちならそれぐらい大丈夫……だよね?そんな不安を抱えて、心がはち切れそうになっていると、『ピンポーン』とインターホンが鳴った。私はドアホンの画面を確認もせずにバタバタと玄関へ向かい、ドアを開けた。
「はやっ!」
そう言って笑うのは、顔に少しだけ傷をつけた洋平だった。いつもみたいに笑う洋平に私は心底安心して、玄関にしゃがみこんでしまった。
「おいおい、大丈夫かよ」
洋平はそんな私にちょっとだけ驚き、私の腕を掴み、立ち上がらせた。
「それはこっちのセリフ!!怪我してるんでしょ?!」
私はそっと触れるように洋平の顔に手を寄せた。口元が切れて、血の跡がついている。
「こんなんカスリ傷…………いや、やっぱ痛てぇからまなみの手当が必要だな」
洋平はそう言って顔に近づけていた私の手をキュッと握った。今にも唇が触れ合いそうなぐらい近い2人の距離に私は恥ずかしくなり、慌てて離れて後ろを向く……が、フワリと洋平に抱きしめられた。
「なぁ…オレから離れてくなよ」
……聞いた事のない声だった。
小さく、こんなに寂しげに話す洋平の声なんて、今まで聞いたことはない。
抱きしめられているのは身体じゃなくて、私の心臓そのもののような気がする。
苦しいような、こそばゆいような…。
「……洋平こそ、私のそばから離れないでよ」
私はポツリと言って、私を抱きしめている洋平の腕をキュッと両手で掴んだ。すると耳元でくつくつと笑う洋平の声が聞こえきた。
……笑うところ?
私は腕を離し、洋平に向き合った。
「なんで笑うの!笑うところなの?!」
ムードもクソもないとプリプリ怒る私に、洋平は自分の拳を鼻に付けるようにして、肩を揺らしながら笑う。
「可愛いすぎんだろ」
「?!」
「オレがまなみから離れるわけねぇだろ?」
眉を八の字にして、洋平はいつもの笑顔で私に言う。小さな頃からずっとそばで見てきた変わらない笑顔で。
「好きだぜ」
そして触れるだけの小さなキスを私の唇に落とす。私はそのままぎゅっと洋平に抱きついた。
洋平と心が通じ合う、人生でこんなに幸せを感じたことはないと思った。
「……これからも絶対に離さないで」
「あぁ、絶対だ。絶対離さねぇよ」
2人の願いが形になるかのように、私たちはきつく抱きしめ合う。洋平の心臓の鼓動が大きく、早く波打っているのが聞こえてきた。
「洋平でも冷静になれない時ってあるんだね」
「はははっ、誰かさんのことに関しては」
いつも冷静な彼が慌てたり、ドキドキしたり、こんなに嬉しくて幸せなことってある?
これからも私たちは離れることなく、お互いを必要としていく、ずっと、ずっとーー。
お祭り当日、友達が会場で手を振って私を呼んでいるのを発見した。
私は慣れない下駄でカラコロと軽く走って、友達の輪に入る。
「てゆーかさ、浴衣なんて私たちぐらいじゃない?」
女子はみんな浴衣で!というドレスコード指定があったので、集まった女子はみんな浴衣姿なのだが……ここは小さな神社の夏祭り、浴衣で来る人なんてほぼ皆無だった。
それ故に私は恥ずかしくなり、友達に文句を言う。けれど友達には「それがいいんじゃない!」なんて言い返されてしまった。
まぁ、浴衣もタンスの奥底にしまわれているよりは、こうして日の目を浴びた方が喜ぶか。
「可愛いじゃん」
そう言って私の肩を軽く叩いてきたのはクラスメイトのケンジだった。
ケンジとは入学当初にすぐ仲良くなり、何度も一緒に遊びに行ったりしている仲だ。
……私の勘違いでなければ、少なからず私に好意を寄せているっぽい。遠回しにアピールをされたり、他の友達からも言われたことがある。
その為、2人きりでの誘いはいつもやんわり断っていた。けれど、ハッキリと直接言われたわけでもないので、私はクラスメイトとしてフツーに接している。
「私、焼き鳥買ってくるね」
そう言って私は1人で焼き鳥の屋台の列へと並んだ。さっきも言ったようにここは小さな祭りの為、大行列が出来ているわけではなかったので、すぐに私の順番がまわってきた。
「おっ!まなみちゃんじゃん!」
目の前で頭にタオルを巻いて、私の名を呼んだ男は、桜木軍団の一員である野間だった。
「え?!何してんの?!」
「バイトだよ、バイト!つか、洋平から聞いてねーの?おーい!洋平ー!!」
え?!まさか………
「おい!おっちゃん達、ちゃんと働けよ!」
屋台の奥を見てみると、毎年焼き鳥を焼いていたおじさん達を叱っている洋平が見えた。そして、洋平は野間の声に気づき、こちらを向く。
「まなみ!!」
野間と同じように頭にタオルを巻いた洋平がこちらへ走ってきた。汗だくで。きっと洋平の事だからめちゃくちゃ働いてたんだろうな…。
「なんだ来てたのか。言ってくれよ、つめてぇなぁ」
「いや…え、もしかして今年は行かないって…屋台を手伝うから行けないって事だったの?!」
「そうだよ。なんかお前別のこと思ってたろ」
「……」
「理由言わせてくんねぇんだもんなぁ」
洋平は困ったように笑いながら、焼きたての焼き鳥をパックに入れて渡してくれた。
「浴衣なんか着て、誰と来てんの?」
「クラスのみんなと」
来てるよ…と言おうとした時だった
「まなみ!」
後ろから大きな声をかけられ、後ろを振り向くとケンジがすぐ後ろに来ていた。どうやら走ってきたらしく、少しだけ息があがっている。
「どしたの?」
「いや、なかなか戻ってこねーから…」
その時ケンジはチラリと洋平の事を見た気がした。そして、グイッと私の手を掴んで歩き出そうとする。いきなりの事でもちろん私は慌てた。
よりによって洋平の目の前で手を握ってくるなんて、最悪だ。
「え?!なに?!」
「早く行こーぜ」
ケンジはそう言って無理やり私を引っ張って、屋台からドンドンと遠ざけた。チラリと後ろを見ると洋平がこちらを見ていたが、どんな表情なのかまでは怖くて見ることができなかった。
私がケンジの手を振りほどこうとしても握られたその力は強く、ケンジの手は私の手を離してはくれない。
「ね、ねぇっ!どこ行くの?みんなあっちだよ?!」
ケンジが向かう方向にみんなはいない。
するとケンジは私の声にピタリと止まった。
あぁ、これは、そういう事か。さすがに私も察する。
「オレ、まなみが好きなんだ。付き合って欲しい」
やっぱり…。けれど、ハッキリと言えるいいチャンスじゃないか。私には他に好きな人がいるのだから。
「ごめん、私ほかに好きな人いるから」
私のこの言葉を聞いてもケンジは私の手を離そうとはしてくれない。それどころか、再びぎゅっと強く握ってくる。……私は嫌な予感がした。
「それってさっき喋ってたやつ?付き合ってんの?」
「……付き合ってない」
「それならとりあえずオレと付き合おうぜ。付き合ってみてダメだったら振ってくれよ」
熱意はありがたいけれど、私はどうしてもそんな気にはなれない。とりあえずこの手を離して欲しい。私がそう思っていたーーと、そのときだった。私の肩は誰かにグイッと引き寄せられたのだ。
「わりーね、コイツの手を握っていいのはオレだけなんで」
「洋平?!」
私の肩を抱いたのは洋平だった。見た目はまっっったく1ミリもカスらないけれど、童話に出てくる王子様のようだった。そう、私の中での王子様は小さな頃からずっと洋平だけなのだ。
「つーわけで、離して、その手」
低いトーンで睨みを効かせながら言う洋平にビビったようで、ケンジはパッと私の手を離した。
それを見た洋平は離された私の手を握り「行くぞ」と言って歩き出した。まるでさっきとは逆パターンだ。でも、私は振り向くことはしない。私の手を優しく握り、黙って前を歩く洋平だけを見ながら歩く。
洋平が歩き進めてきた先は神社裏だった。草木が多くひとけは全くない。誰一人いないのだ。
そこで歩くのをやめ、洋平はクルリと私に向き合った。手は繋がれたままだ。
「……あの、洋平」
「もう限界だな、オレ」
「限界って?」
限界と言う洋平の意味がわからず私は洋平に問う。限界の意味も気になるが、さっきケンジとの会話をどこから聞いていたのかも、私は気になって仕方がなかった。
そして何よりもーーー
『手を握っていいのはオレだけ』
この言葉の真意を聞きたい…けど、あの場しのぎで言ったことなのかもしれない。私は心の中に期待を不安を飼っているような状況だ。
「お前、湘北の水戸だよな」
「この前の礼をしに来てやったぜ」
後ろから声が聞こえ、辺りを見渡すと私たちはいつの間にか数人の男の人に囲まれている。暗かったせいか、全然気が付かなかったのだ。見るからにヤンキーの集団。大方、前に洋平たちにボコボコにされたんだろう。
それを見た洋平は「はぁ…」と大きなため息をつく。
「いーところで邪魔されたな」
ヤレヤレと困ったように笑う洋平の顔は余裕そのものだ。
「まなみ、家戻ってな」
「いや、でもっ…」
さすがにこの人数を洋平1人じゃ……
そう思っているとポンと、洋平に肩を叩かれた。
「大丈夫、オレ1人じゃねぇから。なっ?!おめーら!!」
洋平のその大きな声にガサガサと葉っぱの影から出てきたのは、野間、大楠、高宮だった。
「は?!なんで?!」
「まぁ、ソレは置いといて。洋平の言うようにまなみちゃんは家に帰ってな」
「そうそう、洋平の帰りを待っててやって」
「あとはオレらにまかせんしゃい」
野間、大楠、高宮は次々に私の肩にポンと手を乗せ喧嘩を売ってきたヤンキーの前に洋平と共に並んだ。そして4人は私に向かってグッ!!と、親指をたたせ、ニカッと笑った。
それを見た私はカラコロと下駄を鳴らしながら、足早にその場を去った。
まだ?まだなの……?!
アレから真っ直ぐ家に帰り、着替えもせずに私は浴衣のまま誰もいないリビングを行ったり来たりとウロウロしていた。落ち着けるわけないじゃない!!
だいたい喧嘩ってどれぐらい時間かかるの?!あっちの人数って5.6人だったかな…?洋平たちならそれぐらい大丈夫……だよね?そんな不安を抱えて、心がはち切れそうになっていると、『ピンポーン』とインターホンが鳴った。私はドアホンの画面を確認もせずにバタバタと玄関へ向かい、ドアを開けた。
「はやっ!」
そう言って笑うのは、顔に少しだけ傷をつけた洋平だった。いつもみたいに笑う洋平に私は心底安心して、玄関にしゃがみこんでしまった。
「おいおい、大丈夫かよ」
洋平はそんな私にちょっとだけ驚き、私の腕を掴み、立ち上がらせた。
「それはこっちのセリフ!!怪我してるんでしょ?!」
私はそっと触れるように洋平の顔に手を寄せた。口元が切れて、血の跡がついている。
「こんなんカスリ傷…………いや、やっぱ痛てぇからまなみの手当が必要だな」
洋平はそう言って顔に近づけていた私の手をキュッと握った。今にも唇が触れ合いそうなぐらい近い2人の距離に私は恥ずかしくなり、慌てて離れて後ろを向く……が、フワリと洋平に抱きしめられた。
「なぁ…オレから離れてくなよ」
……聞いた事のない声だった。
小さく、こんなに寂しげに話す洋平の声なんて、今まで聞いたことはない。
抱きしめられているのは身体じゃなくて、私の心臓そのもののような気がする。
苦しいような、こそばゆいような…。
「……洋平こそ、私のそばから離れないでよ」
私はポツリと言って、私を抱きしめている洋平の腕をキュッと両手で掴んだ。すると耳元でくつくつと笑う洋平の声が聞こえきた。
……笑うところ?
私は腕を離し、洋平に向き合った。
「なんで笑うの!笑うところなの?!」
ムードもクソもないとプリプリ怒る私に、洋平は自分の拳を鼻に付けるようにして、肩を揺らしながら笑う。
「可愛いすぎんだろ」
「?!」
「オレがまなみから離れるわけねぇだろ?」
眉を八の字にして、洋平はいつもの笑顔で私に言う。小さな頃からずっとそばで見てきた変わらない笑顔で。
「好きだぜ」
そして触れるだけの小さなキスを私の唇に落とす。私はそのままぎゅっと洋平に抱きついた。
洋平と心が通じ合う、人生でこんなに幸せを感じたことはないと思った。
「……これからも絶対に離さないで」
「あぁ、絶対だ。絶対離さねぇよ」
2人の願いが形になるかのように、私たちはきつく抱きしめ合う。洋平の心臓の鼓動が大きく、早く波打っているのが聞こえてきた。
「洋平でも冷静になれない時ってあるんだね」
「はははっ、誰かさんのことに関しては」
いつも冷静な彼が慌てたり、ドキドキしたり、こんなに嬉しくて幸せなことってある?
これからも私たちは離れることなく、お互いを必要としていく、ずっと、ずっとーー。