Dog's feeling

「え、あ…うん、すごく楽しかったよ!俺、こんなに大きな遊園地を一日で回ったの初めて!」
「………」
「乗り物もいっぱい乗れたし、ショーも見れたし!本当に大満足、で……」

(あ、あれ……?)

興奮がまだ収まらない様子で話しながら、ふと気が付く。

ザンザスは、じっとこちらを見ていた。その表情が、彼とは思えないほど静かで、微かに柔らかい視線で……ツナは、急に鼓動が早くなるのを感じた。

「あ…えっ、と……」

(あ、れ…?何で…ザンザスが楽しかったかどうかを聞いた、んだよね……?)

だってここへは、ザンザスが来たかった訳で。自分はただのおまけで……

(違う、の……?)

そう、それはツナが勝手に思っただけで、別にザンザスから直接聞いた訳ではない。

だって、ザンザスはいつも何も言わなくて。今日も、だからてっきり……

「……フン」
「………」

ツナの話を聞いて、ザンザスは鼻を鳴らすとそっぽを向いた。それが、何だか照れているように見えるのは、気のせいだろうか。

(もしかして……)

胸がドキドキと高鳴る。浮かびそうになった答えに、ツナはだが信じられなかった。

(でも、まさか…ほ、本当に……?)

それは、

「……てめぇが良かったんなら……良い」
「………!」

(……俺の…ため……?)

ザンザスはツナのために……ツナを喜ばせようと思って、ここへ連れてきたのだろうか。

「なん…で……」

あのザンザスが、そんなことをするなんて誰が思うだろう。だって自分達は友人でも仲間でもなく、以前は敵対していた者同士で。

では、今は……?

「ザン、ザス……」
「………」

驚くツナの顔を、窓から視線を外したザンザスが再び見つめる。その表情に、ツナは頬が熱くなるのを感じた。

ザンザスに初めて抱かれたあの日、ツナは彼のことが好きなのかもしれないと思った。だが、ザンザスから好きだと言われたことはない。

ザンザスが何を考えているのか、自分のことをどう思っているのかが分からなくて。

「ザンザス…その、俺達って……」
「………」

先ほど頭をよぎった言葉。それを口に出そうとすると胸があり得ないくらいドキドキして、顔が真っ赤になって……結局口に出すことができない。

そして、やはりザンザスも何も言わなかった。

ただ、

「………」

不意に、尊大な様子で座っていたザンザスが、身体を前へ乗り出してツナに顔を近付けると、

「……綱吉」
「………!」

初めて名前を呼んで……そっと、その柔らかい唇に自分のそれを重ねた。


この男の気持ちを理解することは、何よりも難しいかもしれない。

決して主人に靡かない、だがたまに……甘えることがあったり喜ばせてみたりする、この存在を理解することなんて。


*END*
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