Dog's feeling

「え、えーっと……さ、さんきゅー?」

そして戸惑いながらも、思わずお言葉に甘えて前へ進むと、

『………!』
『!!?!』
「ぇっ…ぇっ……?」

その前にいた家族連れも、そのまた前に並んでいた若者のグループも、皆ツナ達を見ると慌てて前を譲ってくれて。しかも全員、顔は青ざめ表情は引きつっているのだ。

何故、と困惑するツナだったが、そこではたと気が付いた。

(ま、まさか……!)

彼らの視線は皆、ツナの隣にいるザンザスに注がれているということを。

暗殺部隊の隊服を身に付けなくても、凶器を手にしていなくても、その目付きや表情、雰囲気がめちゃくちゃ怖いのだろう。カタギの人間ではないと感じている人もいるかもしれない。

「あ…あはははは~……」

何も弁解できなくて、ツナはただ苦笑いをするしかなかった。


それから、並んでいた人々が皆ザンザスを見ると引きつった笑顔で譲ってくれるので、ツナ達はあっという間に先頭まで到着したのだった。しかも側に寄りたくないのか、座席は二人の周りだけ空席で。

(ふ、複雑な気持ち……!)

ザンザスが爆発する前に乗ることができたからまだ良かったのだが、何とも素直に喜べないツナだった。


***


だが、ザンザスが周りに与える影響は、それだけに留まらなかった。

他のアトラクションやショーに並んだ時も、いつも前を譲られて。しかも普通に敷地内を歩いているだけでも、行き交う人々が恐怖したように道を開けるのだ。
ドラマや映画で良くある、人の波が一瞬で真っ二つに割れるという状態だ。

しかもザンザスはそれを全く気にも留めず、どこの暴君かと思うほど堂々と進むので……その側を一緒に歩くツナは、内心悲鳴を上げていた。

(俺達…めちゃくちゃ目立ってる……!)

恐怖と好奇の視線が突き刺さって、かなり痛い。

しかも、

『……ちょっとお待ち下さい。職業をお尋ねします』
『この少年とはどういうご関係ですか?』
「あ゙あ?」
「あああちちち違うんです俺達はただ遊びに来ていてこの人は決して誘拐犯なんかじゃなくて!」

ただでさえ目立つのに、凶悪な容姿の大人と、特に幼く見られやすい日本の少年が並ぶとかなり異様な光景に見えるようで。何度も警備員の人間に呼び止められては、ザンザスが銃をぶっぱなす前に誤解を解くはめになるのだった。
イタリア語どころか英語も話せないため、必死のボディランゲージを駆使して。

(ザンザスも、ちゃんと説明してくれれば良いのに……!)
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