オモテウラ

「…………」

疲れ切った顔で、ぐったりと横たわる教え子をしばらく見下ろした後、ようやくリボーンは押さえ付けていた身体を解放した。

眠りやすいようにジャケットを脱がせて、ベルトを引き抜く。スラックスの前を適当に寛げると、シャツを大きくはだけさせた。

何歳になっても華奢で幼い身体付き。その細い腰の、薄い腹部には……数年前に刻まれた印が、くっきりと浮かび上がったままだった。

リボーンは黙ったまま、自然な動作で、むしろ導かれるようにして、それに触れた。

「っ、ん……」

刻印をなぞった瞬間、ツナがピクリと身じろぎをする。だが、起きることはなかった。
その目には薄っすらと涙が伝い、壮絶な記憶の跡がうかがえる。

「……逃げられねぇぞ、ツナ」

自分を含む、多くのしがらみに捕らえられた教え子を哀れだと思う。だが、自身の決して消えることのない執着心に……リボーンは、数年前と同じ言葉を呟くと、その印を強くなぞった。


***


翌日、ツナは昼前までぐっすりと眠ってしまった。獄寺が部屋まで来て、ようやく意識が覚醒する。

(あれ……?俺……)

昨日の記憶がほとんどない。かなり疲れてはいたが、いつの間にベッドで眠ったのだろうか。

「獄寺君……昨日、リボーンに会ったような気がするんだけど……えっと、来てたよね?」
「え?はい……ですが、十代目は早くにお休みになられたので、すぐに帰られましたよ」
「あ……そう、なんだ」

獄寺の言葉にも、何故かピンと来なかった。昨日だけではなく、ここ何日かのことも記憶が曖昧になっているような気がする。

よほど疲れていたのだろう。ただ、昨日はよく寝たからか、身体の怠さはあるものの、少しだけスッキリしていた。

「リボーンさん、また何か面白いことがあったら来るって言ってましたよ」
「げ……厄介事を持ってくるのは止めてほしいんだけど……」
「大丈夫ですよ、十代目には俺がついてます!」

げんなりするツナに、獄寺は笑いながら今日の予定を確認する。昼過ぎまではオフだが、夜は同盟ファミリーとの会食があるようで……また忙しい日々が始まるのか、とツナは溜息を吐いた。

「大丈夫かな……会食も、いつまで経っても慣れないし」
「自信をもってください!十代目は立派なボスなんですから!」
「…………」

その時、ぞくりと……胸の奥が、下腹部が、不自然に熱を帯びたような気がした。けれどツナは、すぐに気にならなくなって……やがて忘れてしまった。

今日もまた、変わらない一日が始まる。


イタリアの巨大マフィア、ボンゴレファミリーの日常は、かつてないほど穏やかに流れていた。

日本から来た青年、沢田綱吉がボンゴレ十代目ボスに就任して、早数年。

ボンゴレは、かつて初代が街を守るために創り上げた自警団の、本来の姿に戻りつつある。

全てが、まさに順風満帆であった。

そう、誰もが……そう思っていた。


*END*
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