オモテウラ

ツナは、ボスにはなりたくなかった。けれど、仲間と離れるのも嫌だった。

だから迷って、躊躇って、イタリアへ行っても、継承式を終えても覚悟が決まらなくて……一瞬でも良いから、その場から逃げ出したいと思ってしまった。

だがツナの仲間は、周りにいる人間達は、思っている以上に……いや、ツナが想像できないほど重く、仄暗い想いを秘めていたのだ。

崇拝、信頼、憧れ、期待、執着……行き過ぎた感情は、十年前から徐々に彼らの心身を蝕んでいった。

彼らも、ツナなしでは生きていけなくなっていたのである。ツナがボンゴレを継がなければ、自分達が守護者でなくなれば、今までの関係が崩れてしまう。

もちろん、親友や仲間であることに変わりはないだろう。けれど、ボンゴレという繋がりが、よりツナの側にいられる強い手段だったのだ。

彼らは、ツナの迷いや躊躇いに気付いていた。いつか逃げてしまうのではないか、自分達の元から離れてしまうのではないか……そう思えば思うほど、彼らの感情は暗くどろどろとしたものに変わっていった。

だから、裏の継承式でも、彼らは見ていた。ある者はうっとりと、またある者は荒々しい感情を剥き出しにして、完全に自分達のものに、ボンゴレのものになる青年を恍惚として眺めていた。

そして、ツナを縛り付けたのは、周囲の人間の執着だけではなかった。

彼に流れるボンゴレの血は、本当に初代のものを色濃く受け継いでいた。初代の意思も、ボンゴレの業も、何もかも。

イタリアへ来た時、ツナの体調は異変を起こした。頭痛、身体の怠さ、熱、奇妙な夢……それらは全て、彼の中に流れる血が、このイタリアと呼応したからだ。初代がいた国に、ボンゴレの業が根付くこの地に。

それだけではない。人の思念は、簡単に消えることはなく土地に残る。
初代の時代からこれまで、ボンゴレに関わった多くの人間の様々な感情が、数え切れないほどの念が渦巻くこの地に、身体が引っ張られてしまうのだ。まるで、決して切れない鎖が全身に絡み付くかのように。

それらは、裏の継承式で……無理やり飲まされた真紅の液体、ボンゴレプリーモの“罰”と呼ばれる血によってツナと結び付き、絡め取られてしまった。九代目の死炎で刻まれた“Ⅹ”の文字も、彼を捕らえるための軛だ。

ボンゴレの血と、リングと、人々の執着や思念……それら全てが、沢田綱吉という人間をこの巨大な組織に、イタリアの地に縫い止め、縛り付けることになった。永遠に、絶対に逃げ出せないように。
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