オモテウラ

『やはり……思った以上だよ、綱吉君』
『っ、ぅ……』

ようやく炎が収まった頃には、だがツナはぐったりとしていた。燻るような熱は、まだ身体中を侵食している。

明らかに、何かがおかしかった。自分の意思とは別に、身体が変わってしまったように感じる。
しなやかな、だが決して切れない何かがキツく絡みついているような感覚だった。

『そうだ、印はどこにしようかな』
『っ、はぁ……はぁ……』
『綱吉君は、目立たない所の方が良いだろうから』

恐ろしく優しい声音で言いながら、九代目がツナのネクタイを解いていく。次いでジャケットの前を開き、シャツのボタンを一つずつゆっくりと外していった。
シャツの前をはだけると、現れたのはまだ少年と思われても不思議ではないほど滑らかで華奢な上半身だった。

逃げたいのに、逃げなければいけないのに、身体が言うことを聞かない。何故このようなことになってしまったのか、自分はどうなってしまうのか……少しずつ遠のいていく意識に、ツナは何も考えられないでいた。

『印を刻むよ』
『……い、ゃ……』
『これで君は、晴れて十代目に……ボンゴレのものになる』
『っ……!』

九代目の手に、指先に炎が灯って、一瞬の出来事だった。鮮やかなオレンジのそれが、ツナの腹部に……強く押し付けられたのは。

焼けるような痛みと痺れが走って、だがツナの悲鳴は声にはならなかった。びくん、と再び大きく身体が仰け反った後、ゆっくりと椅子の上に崩れ落ちた。

しばらくして、九代目がゆっくり手を離すと……力を失ったツナの身体、その腹部には、十代目の証である“Ⅹ”の文字が、血のように紅い色でくっきりと刻まれていた。

『……もう離しませんよ、十代目』
『ツナが悪いんだぜ?逃げようとするから』

意識を完全に失くす直前、一番近くにいた親友二人の声が聞こえた気がした。

(俺が……悪い……?)

ボスになったのに、逃げようとしたから?それとも、ずっと迷いながらここまで来たから?

『逃げられねぇぞ、ツナ』

そして、離れた所にいたはずの、家庭教師の声が重く頭に響いて……そこで、ツナの意識は完全に途切れた。


***


「っ、ぁぁぁっ!」

数年前のことがフラッシュバックして、ツナは自室の床に蹲った。頭が痛い。身体が熱い。下腹部が、九代目につけられた刻印が……“Ⅹ”の文字が、狂おしいほど疼く。

あの日、表向きの継承式を終えた後、悪夢のような儀式が執り行われた。

歴代のボスが、同じようなことをしてきたのかは分からない。だがツナは、限られた人間しか立ち会えない“裏の”継承式に、無理やり引きずり出された。
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