オモテウラ

同時に、身体の奥から何かが迫り上がってくるような感覚に襲われる。それまで眠っていた何かが突き破って出てくるような疼きに、ツナは一際大きく仰け反った。

『っ、っ、ぁぁぁ……!』
『おぉ……!』

その何かを抑えることはできず、すぐに弾けて溢れ出した。ツナの額や指につけていたリングから、鮮やかなオレンジの炎が噴き出したのだ。

リングに火を灯すことは、持ち主であるツナにとって難しいことではない。たが額は……死ぬ気弾も死ぬ気丸も使っていないのに、何故そのような状態になっているのか分からなかった。
そもそも、これは死ぬ気モードなのか、そうでないのかも不明だ。

分かっているのは、リングにしろ身体にしろ、ツナの意思とは無関係に炎を放出しているということだった。きっかけは、間違いなく今飲まされた真紅の液体だろう。それが引き金になり、無理やり炎を引きずり出されたようだ。

それだけではない。額とリングだけではなく、今や炎はツナの全身から溢れ出しているようだった。

『素晴らしい……』
『何という強さだ』

炎が溢れた瞬間、周りからは感嘆の溜息や、賛辞の呟きが絶えなかった。その声音はどこかうっとりとしていて、熱をはらんだ視線がツナに絡み付く。
だがツナには、そんなことを気にする余裕などなかった。

熱い、苦しい、怖い……そんな感情が頭をぐるぐると回って、今すぐ気を失えたらどれほど楽かと思ってしまう。

(嫌だ……助けて……誰か……!)

悲鳴は最早声にならず、朦朧とした頭で視線を巡らせる。よく見ると、ツナの身体を押さえていたのは獄寺と山本だった。
ツナは、二人の親友に必死に助けを求めた。

だが、

『大丈夫ですよ、十代目』
『そうそう、俺らがついてるからな』
『っ……!』

優しくて、頼もしい二人の表情に変わりはない。だがその瞳は、他の者達と同じで鋭さと熱をはらんでいて、ツナを押さえる手はびくともしなかった。まるで、逃さないと言わんばかりに。

二人だけではなかった。

『綺麗だ……ボンゴレ……』
『やはり、ボスは沢田しかいないな』

周りにいる仲間達。ランボはただの憧れと言うには常軌を逸するような、恍惚とした表情でそんなことを呟いて。
了平も、この行為が全く違和感ないかのように、ただ深く頷いていた。

少し離れた所にいる雲雀も、骸も、ザンザスも……そしてリボーンも、何も言わないが、ずっとこちらを見ていた。何を考えているのかは分からない。だが、じっと……ツナの姿を見ていたのだ。

(なん、で……?)

ここに、自分を助けてくれる人間は誰もいない。彼らの瞳は、これまで知っている仲間達とは別人のようだった。
26/30ページ
スキ