オモテウラ

九代目だけではなかった。ツナを取り囲む守護者やその他の者達の視線。期待や尊敬、憧れ、そして疑惑……昼間に感じたものと同じはずなのに、どこか違う。
異様な気配を帯びた多くの目に見つめられて、ツナは息ができなくなりそうだった。

『しかしな、十代目を受け継ぐことができるのは、君しかいないんだ……』

(嫌だ……いや……)

独り言のように呟く九代目に、九代目の守護者の一人がそっと近付いた。その男は、手に小さな箱を持っている。

黒塗りに細かい装飾のなされた金具、ボンゴレの紋章の入ったそれは、昼間に九代目から授けられたものと同じに見えた。ボンゴレに代々受け継がれるという至宝だ。

非常に大切なものだから、と式の後は厳重に保管してもらったはずなのだが。

男が箱の蓋を開けると、そこには昼間見たものと同じ、小さな小瓶が入っていた。中身は、血のように紅い……いや、本当に血であると教えられた。

それを視界の端に見たツナの身体が、何かに反応したように跳ね上がる。先ほどよりも胸が強く、激しく脈打ち始めた。

『ぃ、ゃ……だ……』
『君しかいない……その気質と、初代の血を色濃く受け継いだ君しか』
『ぅ、っ……』

顎をさらに強く持ち上げられて、力なく薄く開いていた口に九代目の指が入ってくる。強引にこじ開けられ、ツナの表情が歪んだ。

一体何をしようとしているのか、小瓶の血は誰のものなのか……何一つ分からなくて、嫌な予感と恐怖だけが強くなっていく。逃げ出したいのに、目に見えない何かに、この空間に漂う何かに……がんがらじめに絡み取られているかのように動けなかった。

『さぁ……』
『っ……!』

九代目のもう片方の手は、いつの間にか蓋の開けられた小瓶を握っていた。まさか、という信じられない気持ちと、ただならぬ代物であるそれが己に近付いてくる気配に、ツナの表情が凍り付く。

『受け継いでもらうよ、デーチモ』
『っ、ぁ……!』

口をこじ開けられ上を向かされたそこに、紅い液体の入った小瓶が傾けられる。その真紅が、一滴……ツナの口に落とされた。

『っ、あぁぁぁぁ!』

舌の上を滑り落ち、反射的に飲み込んでしまったその瞬間、ツナは雷に打たれたかのように身体を痙攣させ、絶叫した。

全身の血が沸騰したように熱く、電気を流されているかのような衝撃が走る。真紅の通り抜けた喉が痺れて、呼吸が止まった。

(熱い……!熱い、あついあついあつい……!)

すぐにでも床に転がってのたうち回りたい衝撃に襲われているのに、複数の手に押さえ付けられて、椅子の上でビクビクと震えることしかできない。目の前がチカチカと点滅して、頭の中が白く染まった。
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