オモテウラ

ゆっくりと意識は浮上したものの、まだ完全に目を開けられないでいる。ぼんやりと、ここが昼間に継承式を行った大きな広間ということだけは分かった。

ツナは、広間にある年代物の椅子に座らされていた。そして、周りを複数の人間に囲まれていた。

『では、始めようか綱吉君』
『ぅ……』

視界の端に誰かの靴が映って、声音から目の前にいるのは九代目であることが分かった。始める?何を……だが、視線や顔を上げようとしてもできなかった。

身体が、頭が怠くて動かないのだ。まるで、まだ夢の中にいるような感覚にとらわれている。

『継承式だよ、本当の』

頭を優しく撫でられて、それでいてこれまでと変わらない穏やかな声音の九代目に、だがツナは訳が分からなかった。

継承式は昼間に行ったはずだ。それなのに、また行うとはどういうことなのか。本当の、とはどういう意味なのか。

朦朧とした意識で混乱していると、頭を撫でていた手が下りてきて、今度は頬をなぞられた。ぞくりとして身動ぎしようとすると、顎まで伸ばされた指が、うつむいていたツナの顔をすくい上げる。

(なんで……)

そこでようやく、ぼやけてはいるが広間を、自分の周りを見ることができた。

ツナが座らされているのは、広間の中央……昼間の継承式で、九代目と向き合った場所と同じだった。ただ違うのは、先ほどはツナが広間の正面を向いて、参列者にほぼ背中を向ける形だったのが……今は奥を背後にして、つまり、その場にいる人達の方を向いていたということだ。

そこには、昼間の大人数とは違うが、数十人くらいの人間がいた。しかも、先ほどよりも距離が近く、ツナを取り囲むようにして立っている。

獄寺達を含むツナの守護者に、九代目の守護者。他にも、ボンゴレ幹部クラスの人間や、ヴァリアーの幹部達もいた。

そして、それよりも少し後の方には、腕を組みながら壁に寄りかかり、こちらを静かに見ているリボーンの姿が。

驚いたのは、昼間の継承式にはいなかった雲雀や骸、ザンザスまでもがそこにいたことだ。限られた人間の、異様な雰囲気が流れる空間に、ツナは怯えと困惑を隠せないでいた。

『感謝するよ、綱吉君。十代目を継いでくれて』
『っ……』

(違う……嫌だ……)

否定したいのに、舌先が痺れて何も言うことができない。

九代目の表情や声音は、これまでの穏やかで優しいおじいちゃんと何ら変わりはなかった。だがその瞳の奥に、これまでとは違うただならぬ気配を感じる。

『君がボスになりたくないのは分かっているし、マフィアとは似つかわしくない存在だということも分かっている』
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