オモテウラ

イタリアへ来てから、体調もあまり良くなかった。とてつもない緊張と不安、慣れない異国の地での生活に、身体が追いついていないせいだろうが……イタリアに足を踏み入れた瞬間から、身体がどこか変なのだ。

不自然に呼吸が上がったり、熱っぽくなったり。他にも、誰かに呼ばれるような、何かがまとわりついてくるような、奇妙な夢を見るようになった。その症状は、日に日に強くなっているような気がする。

嫌な予感もした。このままここにいれば、自分にとって良くないことが起きるかもしれない……このような時のツナの勘は、嫌というほど当たってしまうのだ。

プレッシャーと、謎の体調不良、嫌な予感……いろいろと限界だった。

(今、逃げたらどうなるんだろう……)

そんなことは許されないと、頭では分かっていた。もうボスを継いでしまったのに、今さら投げ出すなんて無責任なことができるはずない……だが無意識に、フラフラと、足は部屋の出口へと向かっていた。

迷惑をかけるとか、無責任だとか、今は何も考えられなかった。恐ろしいほど不穏な予感に、とにかくここから逃げ出さなければという焦燥感に襲われたのだ。

だが、

『っ……』

勢いよく扉を開けたが、外に出ることは叶わなかった。何故ならそこには、ちょうど今来たばかりであろう……獄寺と山本がいて。

『おっと!どうしたんだよツナ、そんなに慌てて』
『どこに行かれるおつもりだったのですか、十代目』
『っ、ぁ……』

何故だろう。いつもは頼りになる親友達の笑顔が、怖く感じたのは……ツナは初めて、二人に怯えた目を向けた。

『お迎えに上がりました。さぁ、行きましょう』
『え……ど、どこに……?』

何かがおかしい。酷く嫌な予感がする。

今日の予定はもう終了したはずだ。それなのに、どこへ行くというのだろう。

胸がどくどくと脈打って、頭が警鐘を鳴らすかのようにズキズキと痛む。思わず後退ったツナに、笑顔で手を差し伸べる獄寺が、通さないとばかりに扉の前に立つ山本が恐ろしかった。

『どこって……“継承式”だよ、本当の』
『え……?』

何を言われたのか、理解ができなかった。

だが、聞き返す前に、

『ダメツナが、まさか逃げ出そうとしてたんじゃないだろうな』

二人の後ろから、馴染みのある、だが恐ろしく冷えた鋭い声音が響いて、

(何、で……)

その瞬間、首筋に衝撃が走り……そこでツナの意識は途切れた。


***


頭が痛い。身体が熱く、胸が苦しい。

自分のすぐ近くで複数の人の気配がして、小さく話し声も聞こえた。そこには、よく知った者達の声も混じっているような気がしたが……今のツナには、その全ての音が頭に響いて辛かった。
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