オモテウラ

ツナは、最後までボスになる覚悟が決まらなかった。

マフィアにはなりたくない。ボスなんか継ぎたくない。

その気持ちは、十年前から変わらなかった。だが、だからといって、その世界からキッパリと決裂することもできなかった。

ボンゴレ絡みの避けられないトラブルに巻き込まれ続けた、ということもあるが……これまでの生活や仲間達を失ってしまうのではないか、という不安に駆られたのが大きな要因だ。ボスにならなかったら、獄寺や山本、リボーン……他にもたくさん、親しい者達に見放されてしまうのではないか、と。

そんな不安を抱いているうちに、ただ何となく高校、大学と進んでしまい、他の同級生のように一般の仕事を探す、ということもしないままイタリアへ渡ることになった。

断るなら、その時だったはずなのに。こんな迷いをも持った中途半端な覚悟で、ボスなど務まる訳がないというのに。

継承式は、過去に行った(その時は中断されてしまったが)形式とほとんど同じだった。場所が日本ではなく、イタリアのボンゴレ本部に変わったというだけで。

ボンゴレの多くの構成員、ヴァリアーの幹部、たくさんの同盟ファミリーのボス達……錚々たる面々が見守る中、緊張で頭が真っ白になりながら、九代目から継承の言葉と、ボンゴレに伝わる至宝だという小さな箱を受け取った。

そう、小さな箱……それを手にした時、自分の中で何かが不穏に揺らいだように感じたが、緊張でいっぱいいっぱいだったツナはすぐに忘れてしまった。

(どうしよう、これから……)

その日の夜、ツナは不安と後悔、恐怖に震えていた。

自分に与えられた、広くて豪奢な造りの部屋。これからこの部屋が、いや、アジト全体が、ボンゴレファミリーの全てが自分のものになってしまったのだ。

思い出されるのは、昼間の継承式のこと。

期待と、希望に満ち溢れた視線。守護者だけではない、大勢の人間が、日本から来たちっぽけな青年である自分に向ける眼差しに、とてつもないプレッシャーを感じた。

もちろん、肯定的なものだけではない。本当にこのひ弱そうな男で大丈夫なのか、日本人に何ができるのか、何故コイツがボスなのか……疑問、不安、反感……そんな負の感情を持ち、試すような雰囲気はボンゴレの一部の人間からも漂っていた。

(そうだ……やっぱり無理なんだよ、ボスなんて……)

昔から何をしてもダメダメだった自分が、マフィアのボスなどできるはずがない……スーツを脱ぐことも忘れて、ツナは重厚なカーペットの上で屈み込んだ。重圧に胸が押し潰されそうだし、頭が酷く痛い。
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