オモテウラ

唐突に解放されて、何事もなかったかのように尋ねられる。ツナは乱れた包帯を押さえながら慌ててソファを離れると、盛大なツッコミを入れるしかなかった。

先ほどまでの異様な雰囲気は、少しだけ収まっている。だが、ザンザスは時々このように理解不能な行動を起こすので、ツナは混乱するばかりだ。

ただ単純に、気に入らない人間をいたぶりたかっただけなのかもしれない。それにしては、やり方が異様だが。

もしくは、先日の抗争のことを、ツナの怪我の原因を知っていたのだろうか。ヴァリアーも同じボンゴレのため、知っていてもおかしくはないが。

やはりザンザスも、ボスに相応しいのは自分であると思っていて、それで……

(痛い……)

噛み付かれた傷口の痛みが、触れられた傷跡の疼きが、頭や全身に響いてくる。

それから、本来の目的であるザンザスとの話は何とか終えたものの、ツナはろくに頭が回らないままその場を後にした。

ザンザスの鋭い視線と、自分の情けなさと、生々しい傷口が身体を苛む。来た時よりもフラフラしながら、ツナはボンゴレ本部へと戻ったのだった。

あまりの顔色の悪さとふらつく足取りに、さすがの仲間や部下達も心配した。だが、それにろくな返事をする余裕もなく、今日はもう部屋で休むことにする。

そう言えば、負傷したためスケジュールを変更して、明日はオフにしてもらったのだ。いつもなら迷惑をかけるのが嫌で遠慮するが、近頃の疲労が半端ないため素直に甘えることにした。

それさえも、ボスであるのに情けない、と……今のツナには重くのしかかってくるのだが。

「あ、すみませんボス、一つだけ……」

とにかく、今すぐに休みたい……気力で寝室へと向かうツナの後ろから、部下の一人が声をかけた。

「さっき、ボスに来客があって……」
「……え」

ほとんど話を聞けるような状態ではなかったツナだが、部下から来客者の名前を告げられると……驚いたように大きく目を見開いた。


***


周りの人間は、自分が良いボスで、強くて頼りになって、ボンゴレの象徴であると口を揃えて言う。けど、自分は本当にダメダメで、助けられてばかりで、仲間や一般人に怪我をさせてしまうほど情けないボスだ。

それなのに、何故みんなそんなことを言うのだろう。何故、尊敬と憧れの眼差しで見てくるのだろう。

自分は、ボスには相応しくない。本当は、ボスになんかなりたくなかったのに。

自分は、自分は……

「……よぉ、ツナ。久しぶりにヒデェ顔してるな」
「……リボーン……」

どうやって寝室に戻ってきたのか記憶がない。恐らく、無意識にたどり着いたのだろう。
19/30ページ
スキ