オモテウラ

「いたっ、ぁ……うぅぅ……!」

何がしたいのか、全く理解ができなかった。突然の奇怪な行動に、だが痛みに何かを考える余裕もなく逃げ出そうともがく。

けれど、力の差があるザンザスに押さえ付けられると、抜け出すことなどできなくて……ツナは目に涙を浮かべた。

ツナが理解できないのも当然だろう。何故ならザンザスは、ツナが想像もできないようなことを考えているのだから。

(ボンゴレの、血)

口の中に広がる鉄の味。自分や他人に流れるものと何も変わらないはずなのに、ツナだけは違う。

これは、自分が欲していたボンゴレの、ボスの座に必要な血だ。

欲しかったのは最強のボンゴレであり、血や血統など心底どうでもよかった。この血が自分に流れていたら、などと考えたこともない。

だが、このちっぽけな青年が負傷した時、その身体から血の匂いを感じ取った時……捻じ伏せて、牙を立てたくなるような衝動に駆られるのだ。ツナが、いつも以上に情けない表情で……ドンボンゴレという地位に迷いを抱いている時はなおさら。

「っ……ザン、ザス……!」
「…………」
「いっ……う……!」

ろくに抵抗もできず、か細い声で痛みを訴えるツナに、ザンザスはようやく歯を立てることを止めると……だが、余計に血が溢れ出たそこを、ベロリと舐め上げた。

口に広がる鉄の味は、そんなことあるはずがないのに……ザンザスには甘く、濃厚な美酒のように感じられた。

(も、何なんだよ、一体……!)

肉食獣にされるような行為に、ツナは早くザンザスから離れたかったが叶わなかった。ザンザスが、ツナの身体をじっと見つめたままだったからだ。

また何かされるのではないか、とビクビクしながら彼の視線を追うと……先ほどまで肩の怪我を睨んでいたそれは、下の方に移動していた。
例の……“バツ印”のような“Ⅹ”のような傷跡がある下腹部に。

「っ、な……なに……」

じっと見ていたかと思ったら、今度は大きな手で触れられた。指が当たった瞬間、またよく分からない感覚が走って、ツナは身体を跳ねさせてしまう。

(ザンザス……この傷のこと、知ってるのかな……?)

意味ありげに傷をなぞるザンザスの表情は、相変わらず刃のように鋭い。詳しく聞きたかったが、ザンザスも、傷のことを知るのも何となく怖く感じて、ツナはただじっとしていることしかできなかった。

いつまでそうしていただろうか。ツナにとっては、地獄のように長い時間だったような気がするが、

「……何の用だ、ドカス」
「って、今言うか!?」
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