オモテウラ

ツナが怪我をしたのは、その子どもの一人を庇ったからだった。

抗争を鎮めた時、街の住民からは感謝された。だが、そもそも敵はボンゴレを狙って攻撃してきたのだし、どう考えてもボスである自分に責任があるだろう。

(やっぱり、俺はボスに相応しくない……)

いや、ずっと前から分かっていたはずだ。十代目を継承する前から、十年前からずっと。

それなのに、仲間に甘えて何となくここまでやってきた自分がいる。そんな行きあたりばったりのボスなど、長くは続かないというのに。

「……はぁ」

ぐるぐると考えながら向かった先は、ヴァリアーのアジトだった。付き添ってもらった最低限の護衛を外で待たせると、自分だけ中へ入る。

ツナ自身がここへ来ることは、それもたった一人で中へ入ることは滅多になかった。唯一、こうして訪れるのは……ヴァリアーのボスであるザンザスに、直接話がある時だけだ。

というよりも、ボンゴレから任務や援助を要請しても、ろくに取り合ってくれないからである。加えて、ザンザスに連絡しようとしても無駄なので、よっぽどの時はツナがそのまま彼の自室へと行くことになる。

深呼吸を一つして、ツナはザンザスの部屋のドアをノックした。ここで返事が来たことはないため、ゆっくりと、慎重にドアを開ける。

気を付けないと、開けた瞬間に部屋の中にある家具やら調度品が飛んでくる可能性があるからだ。いきなり銃をぶっ放される時もある。

「……ザンザス?」

珍しいことに、今日は銃弾や何かが飛んでくることはなかった。人の気配はあるが、部屋の中は薄暗くて静かだ。

(寝てるのかな?)

いつ何が襲ってきても大丈夫なように用心しながら、ツナは恐る恐る部屋の中へと足を踏み入れた。

寝ているのかと思われたザンザスは、奥のソファに身体を半分預けるようにして座っていた。目は閉じられていたが、どうやら起きているようだ。

(やっぱり、どう考えてもこっちの方がボスっぽいよなぁ)

その姿を見て、ツナは改めてそう思った。

十年前、ボスの座を狙うザンザスと闘って、結果的にそれを阻止したのは自分だが……風貌や気質、何よりも身にまとうオーラは、彼の方が圧倒的にボスらしかった。

結局、ボスを継ぐにはボンゴレの血統が必要だったため、そもそもザンザスには資格がなかったのだが……彼なら、そんなちっぽけな掟などぶち壊してでも、ボスになることができただろう。

ザンザスは、今もヴァリアーのボスだ。同じボンゴレだが独立部隊のため、ツナも彼らの任務の全てを把握している訳ではない。
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