オモテウラ

いや、知らないはずのそこは、昼間にツナがいた街にどこか似ているような気がした。骸から、あのような話を聞いた影響だろうか。

そうだとしたら、これが骸が言っていた、過去の惨劇なのかもしれない。それにしても、妙にリアルに感じてしまうのだが。

(怖い……)

夢であることはすぐに分かった。だから、早く覚めてほしいと強く願う。

ただ恐ろしいだけではなく、まるで自分が当事者であるかのような感覚に襲われたのだ。何故なら、

(嫌だ……)

それまで逃げ惑っていた人々が、いつの間にかこちらを向いていた。苦しそうな、助けを求めるような悲痛な視線で。

その数はだんだん増えていき、視線だけではなくツナの方にゆっくりと向かってきているようだった。フラフラと歩きながら、または這いずりながら、必死に手をこちらへ伸ばして。

悲鳴や、助けを求める声が近づいてくる。遠くで聞こえていたはずのそれがより近く、やがては頭の奥にまで響くようで。

(嫌だ……!)

人々の視線や、手や、辺りに渦巻く負の感情が、全て自分にまとわりついてくるような感覚に 、

「……っ、は……!」

ツナは、気が付くとベッドから飛び起きていた。真っ暗な寝室は静まり返っていて、当然ながら燃え上がる炎もなければ、つんざくような爆発音も聞こえない。

だが、

「…………」

夢からは冷めたはずなのに、ツナの耳には先ほどの様々な声が、身体にまとわりつくような感覚が……しばらく消えることはなかった。


***


(あぁ、やっちゃった……)

数日後、ツナは痛む身体に表情を強張らせながら、ボンゴレ本部を後にした。スーツでほぼ隠れているが、左肩には包帯がキツく巻かれている。

これは先日、敵対するマフィアとの抗争で負った傷だ。

骸からの情報である、北イタリアで不穏な動きをしていたという中小マフィア。早めに対処した方が良いと言われていたそれが、ボンゴレの領地である街で暴動を起こしたのだ。

慌てて仲間を引き連れ鎮圧したものの、少なからず被害が出てしまった。ツナの傷も、その一つだ。

いや、傷自体はそこまで大したことはない。ただ、ツナの表情は酷く沈んでいた。

(せっかく骸が教えてくれたのに)

彼に言われた通り、すぐにでも行動を起こすつもりでいた。だが、他の仕事に忙殺され、それだけでなく最近頭痛や妙な夢に悩まされて、つい記憶の片隅に追いやってしまったのだ。

(子どもまで巻き込んで……あと少し到着するのが遅かったら)

幸い、今回の抗争では怪我人は出たものの、死者は一人もいなかった。だが、住民には怖い思いをさせたし、幼い子どもも銃撃戦に巻き込まれそうになったのだ。
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