オモテウラ

毎回このカフェを選ぶのは、あえて怪しまれないようにするためだが、それだけではないらしい。落ち着くし、普段から自然に足を向けてしまう場所のようだ。

店というよりは、この街と言った方が正しいのかもしれない。住民も穏やかで平和的で、ツナに似ている部分があった。

すると、もう席を離れようとしていた骸が、去り際にこんなことを言った。

「……この街は昔、他のマフィアに占拠されて、それは酷い状態だったそうです」
「え?」
「それを見かねたボンゴレが、鎮圧して立て直した……街の人間にとってボンゴレは救世主。その敬意の念と、二度と過去に戻りたくないという強い思念が染み付いているんじゃないでしょうか」

何故、骸が突然そんなことを言ったのか、ツナには分からなかった。

この街のことは、ツナも何となく聞いたことがある。今でこそ平和で落ち着いているのは、悲しい過去があるからなのだろう。

だが、それがツナの居心地の良さと繋がるのは……間違ってはいないが、少し大げさなような気がした。

「骸……?」

その時、幻術で姿を変えているはずの骸の、本当の姿が一瞬見えたような……オッドアイに見つめられたような感覚がして、ゾクリとした何かが走り抜けた。

同時に、それまで普通に過ごしていた街が、一瞬別の世界のように感じて……ツナは無意識に身震いした。

「では、先ほどの件はそちらで何とかするように」
「あ、ちょっと待っ……」

だが、聞き返そうとした時には今度こそ骸は立ち去り、あっという間に姿が見えなくなってしまう。そのため、先ほどの言葉の真意を聞くことはできなかった。

(街の過去と……住民たちの、強い思念……?)

もう一度考えようとした時、ツナはどこからか視線のようなものを感じた。少し離れた所にいる、護衛役の部下だと思うのだが……視線だけではなく、よく分からない何かが、自分にまとわりついてくるように感じたのだ。

(何だろう……何か、変だ……)

骸との会話や、懸念される抗争の話はどこかへ行ってしまい……ツナは、しばらくその場でぼんやりとしていた。

その夜に見た夢は、今までで一番はっきりとしたものだった。

どこかの街が炎に包まれ、辺りや空が赤く染まっている。そこに銃声や爆発音が鳴り響いて、人々の悲鳴や怒号が聞こえるのだ。

これまでに何度か見たことがある、マフィアの血塗られた歴史に似ていた。街も、逃げ惑う人々も、ツナは知らないはずなのに、まるで自分もそこにいたかのような錯覚に捕らわれる。
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