オモテウラ

近頃ボンゴレやその周りが比較的穏やかになり、身体を使って事を収める、という機会が少なくなったのもあるだろう。加えて、デスクワークも多いため……事あるごとにトンファーを振り回している雲雀とは訳が違うのだ。

ただ、雲雀の言葉には少し不安になった。身体をあまり動かさくなり、闘う感覚が鈍ってしまったら……何かあった時に、ちゃんと対応できるだろうか、と。

もちろん、できることなら闘いたくないのだが……いざという時、ちゃんと仲間や周りの人間を守ることができなければ大問題だ。

その時、

「……儀式の時は、もう少しまともな炎が出てたよ」
「……えぇ?」

呟かれるようにして言われた言葉に、ツナはさらに困惑した。儀式……というのは、恐らく継承式のことなのだろうが、

(炎って……?死ぬ気にはなってないんだけど……)

炎が現れるのは、死ぬ気になった時やリングの力を使った時くらいだ。だが、どちらも覚えがなかった。

いくら緊張で記憶が曖昧になっていても、それくらいはぼんやりと覚えていた。継承式では、大勢の関係者に囲まれる中、九代目から継承の言葉と……ボンゴレの至宝を受け取ったのだ。

それから……いや、それだけだったはずだが。

(……あれ……?)

不意に、ツナは記憶の片隅で……鮮やかな炎を見たような気がした。継承式の、いつ、どのタイミングだったのかは分からない。本当に見たかどうかも確かではないが。

だが、あのオレンジの炎は……

(えぇ……分からない……何で、覚えてないんだろ)

微かな記憶がさらにごちゃごちゃになって、ツナは頭を抱えたくなった。雲雀までもが口に出す継承式を、何故自分は思い出せないのか。

いや、確かにあの時は、ほとんどが九代目とのやり取りだけで、それ以外のことは何もなかったはずなのだが。

というよりも、

「っていうか、そもそも雲雀さんは継承式に出てなかったじゃないですか!」

そうだ、群れるのが嫌だとか何とか言って、結局式の中には入らなかったのだ。継承の立ち会いに守護者がいないという、なかなかに前代未聞な出来事だったらしいが、それでこそ雲の守護者だとか妙に納得してもらえた覚えがある。

ちなみに、霧の守護者であるはずの六道骸も、もう一人の守護者であるクロームに任せて出席しなかった。改めて考えてみると、十代目ボスの継承式には雲と、正式な霧の守護者の二人が欠席したことになるのだ。まぁ、逆に出席したらそれはそれで驚きなのだが。

それなのに、

「いたよ」
「え?」
「ずっと、見てたよ」
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