オモテウラ

いつものこととはいえ、できるなら雲雀とは闘いたくはない。本気で殺しにかかってくるため、怪我はするわ周りはめちゃくちゃになるわでろくなことがないのだ。

「そんなこと言って、君もやる気満々じゃない」
「だって雲雀さんいきなりぶん殴ってくるじゃないですか……!」

部屋に入る前から、ツナは戦闘用のグローブ(今はミトンだが)を身に着け、死ぬ気丸の小瓶を手に持っていた。でないと、雲雀がいつどのタイミングで襲ってくるか分からないからだ。

これまで彼の元を訪れた時、準備もさせてもらえずぶっ飛ばされたことが何度かあるので、自然と用意しておく習慣が身に付いてしまったのである。

「じゃあ、いくよ」
「いやだから俺はそんなっ……わーっ!」

拒否しても素直に止まる雲雀ではない。問答無用で躍りかかってきた最強の戦闘マニアに、ツナは反射的に死ぬ気丸を飲み込むしかなかった。

雲雀は、リングを使った派手な闘いも好きだが、どちらかといえばシンプルな接近戦を好む。要は、直接相手を完膚なきまでに叩き潰したいのだろうが……どちらにせよ、闘いを好まない正反対なツナにとっては困りものだった。

ツナが拳を奮うのは、自分の身や仲間を守るためだ。それでも、できるなら闘いたくはない。

だから、単純に戦闘を楽しむ雲雀と手合わせすると、どうもテンポが合わなくてやりにくいのだ。とはいえ、気を抜けば一瞬でぶっ飛ばされてしまうため、必死でやるしかないのだが。

ただ、その温度差は雲雀にも伝わるようで、

「……つまらないな。もっと本気が見たいんだけど」
「はぁ……はぁ……だから、俺はやりたくないって……ていうか、これでも必死だったんですけど……」

どれくらい拳を交えていただろう(それなりに激しかったのに、派手に壊れていない雲雀の部屋には驚きである)。もう気が済んだのか、それとも飽きたのか……唐突に、雲雀の方から終わりを告げられた。

体力を消耗していたツナは、肩で息をしながら言葉を紡ぐ。死ぬ気はすぐに解けてしまった。

痛い。身体中が酷く痛む。辛うじて大怪我は免れたが、あちこち殴られたりぶつけられたりして泣きそうだった。

対する雲雀はほとんど息を乱しておらず、本当にとんでもない人だなと思う。だからこそ、いざという時はとても頼りになるのだが。

「やっぱり鈍ってるんじゃない?炎にも勢いがないし」
「そ、そんなこと言われても……」

そもそもこちらには闘う気がないから、そんな風に見えてしまうのかもしれないが、確かにそれだけではなさそうだ。
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