オモテウラ

首筋に顔を埋める山本の表情は見えない。だが、その声音は真剣そのもので、いつもの軽い口調は感じられなかった。

それに、手や腕にこもる力は、少し怒っているようにも感じられて……ツナは、それ以上言うことができなかった。というよりも、苦しくて身体をバタバタさせることしかできなかった。

「っ、はぁ……山本ってば!」
「あ、わり……」

ようやく山本がツナの身体を解放する。だが片方の腕は、今度は華奢な肩を抱くように回されていた。

「ホント、何かあったらすぐに言えよ?」
「う、うん……ありがとう」

その後、山本は獄寺に言われた通り、きっちりとツナを部屋まで送り届けた。まだ申し訳そうな顔をしているツナに、最後はいつもの爽やかな笑顔を向けて、頭をわしゃわしゃと撫でながら。

山本は報告に来ただけで、またすぐに野球チームの方へ戻らなければならないらしい。悪いとは思いつつ、ほんの僅かな時間でも親友に会えて嬉しく感じるツナだった。

(それでも、本当は……山本達に、危険なことをさせたくないんだけどな)

昔に比べて、ボンゴレは随分と平和になった。それも全て、周りにいる仲間達のお陰だ。

だが、それまでにかなりの苦労や無茶をさせたし……そんな今でも、危険が付き纏うことはやはり少なからずある。

(俺が、もっと……いや、やっぱり俺なんかがボスなんて……)

そうなると、やはり責任はボスである自分にあるのだろう。情けなく思うだけでなく、そもそもボスであること自体に不安や疑問を抱いてしまう。

だって、自分が頼りなくてダメダメなのは昔から分かりきっていたではないか。マフィアのボスなんて、そもそも無茶なのだ、と。

「……っ、いってぇー……」

その時、ずきりとした痛みが走って、ツナは思わずこめかみを押さえた。鈍い痛みが頭に響く。

そして、頭だけではなく……もう片方の手は、腹部の脇をつかんでいた。昨日、獄寺にも触れられた所だ。
そこが不自然に熱くなり、じんじんと痺れるような奇妙な感覚が生まれたのだ。

(もー……何なんだよ……)

ジャケットを脱いで、シャツのボタンを外すと前を開く。うつむいた視線の中に、とあるものが映り込んだ。

痩せ細った薄い腹部……その脇腹に、くっきりとした傷跡のようなものがあるのだ。

それは二本の線が真ん中で交差しており、“バツ印”にも見えるし、ローマ数字の“Ⅹ”にも見える。

その傷がいつどこで付いたのか、ツナには覚えがなかった。これまで、数多くの闘いで傷だらけになったり大怪我したりしたので、いちいち覚えていないのだ。
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