オモテウラ

場所は、ツナの自室へと続く通路の途中だ。恐らく、ちょうど山本もそこへ向かっている最中だったのだろう。

帰ってきたツナの方が「おかえり」を言ったのは、山本が別の任務でしばらく本部を離れていたからだった。

「大丈夫だった?怪我してない?」
「ぜーんぜん!けど、すげぇ疲れたー癒やしてくれツナー」
「うわっ」
「オイコラ野球馬鹿」

少しふざけたように言って、山本は正面からツナに思い切り抱き着いた。彼の方が身長も高く体格も良いため、抱き締められるとツナの身体はすっぽりと包まれてしまう。

「十代目はお前なんかよりもお疲れなんだよ、さっさと離れろ」
「ちょっとぐらい良いだろー?久しぶりなんだからさぁ」

昔からスキンシップは多かったが、年々ハグの時間や回数が増えている気がする。ただ、ツナもイタリアでの暮らしが長くなってきたし、相手が信頼できる山本であるため、特に拒否することはなかった。

「獄寺さん、お話し中にすみません。少しよろしいですか?」
「あ?あぁ、分かった」

ちょうどそのタイミングで、部下の一人が獄寺を呼ぶ。獄寺は、まだツナに抱き着いたままの山本に苦い顔をしつつ「ちゃんと十代目を部屋にお送りしろ」と言い残してその場を離れた。

二人きりになったところで、山本が大きく息を吐く。やはり、仕事の疲れがあるのだろう……首筋に吐息がかかる擽ったさに身じろぎしながら、ツナはそのままにさせた。

「えっと、本当に大丈夫?ごめん、俺いっつも山本に頼ってばっかりで……」
「何だよ、ダチなんだからそんなの気にすんなって。全部俺がやりたくてやってんだし」
「でも……」

山本はボンゴレ雨の守護者である前に、今世界的にも人気になりつつある野球選手だ。そのため、活動の僅かな合間をぬってイタリアの本部に顔を出したり、ツナからの任務を引き受けたりしている。

それも、有名人であるが故に、任務は極秘のものだったり、どうしても神経を使うものになってしまっていた。ツナは申し訳なく思いつつも、つい昔からの癖で山本を頼ってしまうのだ。

「俺がもっとしっかりしてたら、山本に危険なことを頼まなくて済むし、山本だって野球に専念できるのに……っ、いだっ!」

ツナの言葉が言い終わる前に、山本はその細い身体をより強く抱き締めた。痛みにツナが声を上げ、息を詰まらせるほど。

「前にも言っただろ、ダチより野球を優先する訳ないって」
「いてててっ!痛いって、山本……!」
「だから、そんな水くさいこと言うなよな」
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