オモテウラ

「やはり、もっとしっかり食べてください……」
「っ……!」

その細さや肉付きを確かめようと伸ばされた獄寺の手が、シャツに包まれた腰に触れた時だった。睡魔との闘いでぼんやりしていたツナが、ビクリと身体を跳ねさせたのは。半分以上閉じられていた瞳が、驚いたように見開かれる。

擽ったさを感じただけではなさそうだった。まるで、触れられた所に微弱の電気が流れたような、そんな反応だ。

「十代目が倒れでもしたら、俺は耐えられません。ファミリーの奴らも……ボンゴレが立ち行かなくなります」
「そんな、大げさな……俺なんかいなくたって……」

むしろ、いろいろとスムーズに進むのではないかと思ったが、獄寺の心配そうな、真剣な表情は変わらなかった。気遣わしげに、ツナの細い腰……脇腹の辺りを指でなぞっている。

その行為に、ツナは戸惑っているような、酷く落ち着かない様子だった。表情も身体も、どこか強張っているように見える。

「え、えっと……ごめん、後は、自分でやるから……」
「分かりました。お着替えを準備して待っていますから……中で寝ないでくださいね」
「いやいや、そこまでしなくていいから!もう帰っても大丈夫だからね!」

少し目が覚めてきたのか、わたわたと獄寺を押して脱衣所から出ていってもらう。きちんと戸を閉めて服を脱ぐと、シャワールームへ飛び込んだ。

恐らく、獄寺はツナが出てくるまで待つのだろう……頭からシャワーのお湯を被りながら、ツナはため息を吐くのだった。自分の何百倍も仕事ができる右腕は、本当に心配性だ。

(正直、俺がいなくても獄寺君たちなら……むしろ、本当にいない方が上手くいくと思うんだけどなぁ……)

呑気なことを考えていたその時、

「っ……?」

不意に、ツナは息を詰めて身体を固まらせた。まるで、自分の中を何かが走り抜けたような……つい先ほど、獄寺に触れられた時の反応に似ている。

次いで、辺りを不思議そうにキョロキョロと見渡した。

(今……何か、聞こえたような……)

物音ではなく、誰かの声だったような気がする。シャワー室の外にいる獄寺ではない。
もっと自分の近くで、いや、内側から頭に響くような感じで聞こえたのだ。

(気のせい、かな……)

やはり疲れているのだろう。明日に備えて、早く眠らなければ……ツナは気を取り直して、何事もなかったかのようにシャワーを済ませた。


***


「よ、ツナ!今戻ったぜ」
「山本!おかえり!」

次の日の夜。同盟ファミリーとの会談を無事に終えて(それも獄寺の完璧なフォローのお陰だが)、ツナがボンゴレ本部へ戻ると……学生時代からの親友であり、雨の守護者である山本武が笑顔で出迎えた。
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