オモテウラ

「……ふぁぁ、今日も疲れたー」
「お疲れ様でした、十代目」

日が落ちて、辺りが暗闇と静寂に包まれた、イタリアのボンゴレファミリー本部。豪奢な造りの、部下もまばらな広い廊下を、ボスである沢田綱吉と、右腕と呼ばれる嵐の守護者、獄寺隼人が歩いていた。

どちらもきっちりとしたスーツ姿。だが、連日の業務でヘロヘロになっている綱吉……ツナの方は、若干スーツもヘタっているように見える。

「明日の夜に行われる、同盟ファミリーとの会談が終われば翌日はオフです。あと少しの辛抱ですよ」
「それが緊張して大変なんだけどなぁ……はぁ、分かったよ」

獄寺はツナよりも一歩後ろを歩きながら、頭二つ分ほど下にあるボスを見下ろした。昔から苦手なことが多いツナが、満身創痍ながらも何とかボスをこなしているのは、この右腕のサポートと、徹底的なスケジュール管理のお陰である。

正直、頭脳や神経を使うことに関しては、ファミリーの誰よりも獄寺が苦労していると思うのだが……彼はツナの側で仕えることを何よりの使命と考えているため、全く気にしていない。むしろ、喜びと誇りを感じていた。

今日もまた、仕事を終えた主を自室へ送るところまで、決して欠かすことはない。

「うぅ、眠い……けど、シャワー浴びなきゃ……」
「お手伝いさせていただきます!」
「えぇっ……?いや、いいよ、そんなこと……」

いつもなら部屋の前で獄寺の仕事は終了するのだが、ツナが特に疲れ果てている時、彼は甲斐甲斐しく世話を申し出るのだった。当然のように部屋の中へ入り、主のジャケットを脱がせていく。
それをきっちりとハンガーにかけると、自然な動作でシャワールームへエスコートした。

ツナも、普段は断って自分のことは自分でするのだが、よほど疲れている時は、というかすでに居眠りしかけているため獄寺にされるがままだ。ネクタイが緩められ、シャツのボタンが外されていくのを、口では遠慮しつつ結局はしてもらってしまう。

「十代目、また少しお痩せになられましたか?」
「んー……?うーん、そう、かな……?」

スラックスのベルトを引き抜かれたところで、獄寺が心配そうに言った。視線は、露わになった薄い腹部や、ほっそりとした腰の辺りに向いている。

元々細身で筋肉の付きにくい身体をしているが、常に側にいる獄寺には些細な変化も分かるようだ。確かにここ数日、特に忙しくて食欲が落ちていたかもしれない、とツナは寝惚けた頭で考えた。
もちろん、栄養バランスも食事のスケジュールも完璧に管理されているが、ゆっくり味わう時間がないのは事実だった。
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